弱々しい声ではあったが、それは確かにクラウドからの告白だった。
ずっと頭の中に思い描いてきた通りの言葉が返ってきたことにザックスは感動を覚える。その興奮から胸元に寄りかかるクラウドにも聞こえてしまうのではないかというくらいにザックスの胸が早鳴った。
表情を窺おうと胸元の細い身体を少し離して見れば、その瞳は恋慕の色を湛えていた。マシンの作りだした表情だということなどすでに頭から消え失せ、クラクラするほどに劣情を煽られる。ついにはそれに負け、ザックスは目の前の華奢な身体をしっかと掴んだ。
「ク…クラウド!」
「えっ」
堪え切れず、ザックスはその場でクラウドを押し倒した。いつか見た夢の中での行為をなぞるように白い首筋に唇を落とす。
「や、ザックス!やめてよ、こんなところで」
必死に抵抗するクラウドをものともせず、ザックスは愛撫を続けた。
そういえば兵舎近くの広場にいたのだった。だがどうせここは仮想空間だ。誰が来ることもない。
ザックスがキスを繰り返しながら股間をまさぐると、びくっとクラウドの身体が跳ねた。
「あっ…やだぁ!ダメだってば…」
泣きそうな顔で訴えるその様が、ザックスの暴走を一層煽り立てる。
が、ベルトに手を掛けようとしたところでザックスの携帯が鳴った。この着信音はカンセルだ。
無視しようかと思ったがうるさくて行為に集中出来ない。いいとこで邪魔しやがって…と憤りながらザックスは着信した。
「…なんだよ!?」
『あのさ…大事なことを言わなくちゃいけないと思ってさ』
「はあ?」
『あー…実はクラウドのパーソナルデータの取り込みが上手く出来てなくて』
「…は?取り込まれてないって、こうしてちゃんと取り込まれて」
『だから…お前の目の前にいるのはな…』
カンセルの言わんとしていることを理解したザックスは自分が現在進行形で押し倒している存在へと目を向ける。
「え…本物…!?」
半泣きになりながら自分を睨むクラウドにザックスはサーッと血の気が引くのを感じた。
「本物って…何のことだよ…」
「あ…いや、その」
クラウドはザックスの身体を突き飛ばすとそこから抜け出した。そして乱れた服を手で押さえながらキッと睨みつける。その瞳からは涙が零れていた。
「ザックスのバカ!」
「クラウド!」
クラウドが駆け出した瞬間、仮想空間の景色が消え失せ、無機質な機械が再び現れる。
ザックスの呼びかけも空しく、クラウドはトレーニングルームから出て行ってしまった。
「…何でこうなるんだよ……」
* * *
クラウドが去った後、ザックスはがくりと肩を落とした。シミュレーションが上手くいったかと思ったら肝心の相手を思い切り怒らせてしまったのだから無理もない。
まさかあそこで本物のクラウドが現れるとは予想もしていなかった事態だ。
カンセルも途中までは取り込みが上手くいったのだと思っていたが、ザックスがクラウドにキスをしたところでおかしいことに気付いた。
「…道理でリアルだと思った」
「つーか、普通途中で気付かないか?いくら最新式のシステムでも外部から取り込んだデータの肉体の感触までリアルに再現出来るわけないだろ」
カンセルは取り込みに失敗したCD-ROMを片手でパタパタと振った。
これが上手く取り込めていたとしても、あの場に現れたであろう仮想のクラウドは姿を見ることが出来ても触れることは出来ないはずだった。当然キスすることも押し倒すことも不可能だ。
「しょうがねえだろ。夢中だったんだよ」
一部始終をモニタールームで見ていたカンセルは呆れながらぼやく。
「…それにしたってお前、告白した直後にいきなり押し倒すって野獣かよ」
「本物相手だってわかってたらしねえよ!」
どうだかな…とカンセルは疑いの眼差しを向ける。それを受けてザックスも負けじと反論した。
「大体カンセルが予行演習しろなんていうから!」
「お前が告白までで止めてれば上手く行ってた可能性あったんだぞ!?それを盛った犬みたいに襲いやがって」
「あ…あんな顔で見つめられたら辛抱堪らなくなるに決まってんだろ!?」
「結局野獣じゃねえか!」
「うう、くそー…」
落胆はしたもののザックスは事を甘く見ていた。
クラウドが自分のことを好きでいてくれたこと。これは紛れもない事実だ。怒らせてしまったが事情を説明して謝れば許してもらえる。そう考えていた。
しかし事はそう簡単に運ばなかった。