予行演習の日、カンセルはヴァーチャルシステムのマシンにクラウドのパーソナルデータを焼いたCD-ROMを入れた。
「これでいけるはずだ。多分」
「よし。じゃあ頼むわ」
そう声を掛けてザックスはシステムルームを出て眼下のトレーニングルームへ入っていった。
カンセルが操作パネルをいじるとザックスの立つ空間を取り囲んでいた機械が消え失せ、兵舎近くのベンチがある広場へと早変わりした。そこをうろうろと歩きながらザックスはどのような言葉で思いを告げようか思案する。
「クラウド、オレの為に味噌汁を作ってくれ!…これじゃプロポーズになっちまうな。ていうかクラウドオレより料理下手だしなあ。…大好きだぜ!うーん、これじゃ直球すぎるか。…オレと愛の営みをしよう?……こんなこと言ったら確実に殴られるな」
しばらく経って、突然遠くで物音がした。すっかり自分の世界に入り込んでいたザックスがそちらに目を向けると、制服姿のクラウドが周囲をキョロキョロと見回しながらこちらに歩いている姿が目に入った。ついに来たかとザックスは咳払いをして背筋を伸ばした。
「あ、ザックス」
こちらに向かってくるクラウドはまるで現実のクラウドのようで。本物と見紛うクラウドの姿にザックスは息を飲む。
「…さすが神羅の誇るヴァーチャルシステムだな」
「え?」
「いや、何でもないんだ。実はお前に話があってさ」
「オレに?」
「ああ」
ザックスが熱を帯びた瞳で見つめると、クラウドはどこか緊張した面持ちをしながら仄かに頬を赤く染め、ついと視線を反らした。造形だけでなく感情や仕草までもリアルに再現するそれにザックスの気持ちは弥が上にも高まる。そして遂にその言葉を口にした。
「オレ…お前のことが好きだ」
「…え?」
「好きで好きで堪らない」
「あ、あの」
「お前が欲しい」
「……!」
それはザックスにとって初めての告白だった。いつもされる側だったから気付かなかったが、これほどまでに緊張するものだったのかと初めて知った。
頭で考えていた言葉などすっかり吹き飛んでしまい、ザックスは気持ちをありのままぶちまけた。
ザックスから思いのたけをぶつけられ、クラウドは言葉を失くす。魚のように口をパクパクと動かすと風邪でも引いたのではないかというくらいに頬を真っ赤に染めた。
どこまでもリアルな反応をするクラウドに実際に告白したら本物のクラウドもこんな風に顔を赤くするのだろうかとザックスは妄想する。
「好きだ」
熱っぽく言いながら赤く染まった頬を両手で包み込む。ほんのり暖かかった。
「ザ、ザックス…あ…の…」
右手を頬から耳へと手をスライドさせ、心地よい柔らかさの耳朶を指で軽く揉むとクラウドは小さく肩を竦めて、「あっ…」と悩ましげな声を上げた。
それでザックスの理性が吹き飛んだ。
ザックスはクラウドを抱き寄せると、半開きになっている唇を奪った。
「ん…!?」
突然のキスにクラウドは驚く反応を見せる。予行演習だったことなど忘れ、ザックスはそのなめらかな唇の感触を思うさま味わった。何度も唇を重ねながらぺろりと下唇を舐め上げる。
「あ…」
「クラウド…好きだ。愛してる」
力なく自分の胸元に顔を預けるクラウドをザックスはしっかりと抱きとめる。すると腕の中のクラウドが胸に顔を埋め、背中に回していた手でザックスの服をぎゅっと握ってきた。
「…オレも……ザックスのこと…好き」