ヴァーチャルクラウドに花束を #03





「しかし女好きのお前が男に走るとはな…」
「別に男がいいってわけじゃない。クラウドがいいんだ」
 よくそんな歯の浮くようなセリフを真昼間から素面で言えるもんだとカンセルは呆れながらも感心する。こういうところが女性の心をつかむのだろう。ザックスのその素直さが少しだけ羨ましくなるカンセルだった。
「どこがいいんだ?女の子みたいな顔しててかわいいからか?」
「ばっか。そんな理由なわけないだろ。つかかわいいなんて言ったらオレ殺される」
(つまり言ったことがあるんだな…)
 カンセルの脳内にその時の様子がありありと浮かんでくる。やはりこいつみたいにバカ正直じゃなくてよかったと思い直した。
「まあかわいいって言われて喜ぶ男は滅多にいないな」
「だからかわいいからじゃなくてだな。なんていうか…あいつすげえ意地っ張りなんだ。もっと素直になればいいのに、変なところで片意地張ったりしてさ。でもそれって自分を守ろうとして必死だからそういう態度になっちまってるんだなってのがわかって…ああ、オレこいつのこと守ってやんなきゃなーって思うようになってさ」
「ふーん」
「最初は友達としてそう感じてるんだと思ってたんだ。でも女の子と一緒にいてもあいつのことばっか浮かんできて…友達じゃなくてもっとそれ以上に好きなんだって気付いたんだよ」
「ほう」
 惚気に付き合ってられるかと適当に流し、カンセルは新しいタバコに火を点けた。
 そんなカンセルの様子を尻目に惚気は更にエスカレートし、ザックスは頭をくしゃくしゃと掻き毟りながら続けた。
「あいつさあ、時々だけどオレの前でだけ素直になったりすることがあんのよ。それがまたかわいくてよー」
「やっぱりかわいいって思ってるんじゃねーか!」
 こういうノリで本人に言ってしまったであろうことが手に取るようにわかった。
「で、結局どうしたいんだ?」
「いや…そろそろ限界なんだよ。気持ち的にも肉体的にも」
「……え?」
「まああれだよ…わかるだろ?」
 さしものザックスも口にするのを躊躇したが、ここまで来て照れていても仕方がないとすっぱり言った。
「夢の中で…襲っちまったんだ」
「………」
 顔を赤らめながら夢の中のクラウドがまた大層かわいかったなどと惚けたことを抜かし始めたので、カンセルはザックスの頭を強かにどついた。
「…お前、告ろうと思ってんだろ」
「そうそう、そうなんだよ」
 陽気に答えるザックスにカンセルは脱力した。
 なぜここまで予想通りの行動ばかり取ろうとするのか。ある種、戦闘で役立つこの無鉄砲ぶりが全てをぶち壊しかねない。
「とりあえず落ち着けよ。焦ったっていい結果なんて出ないぞ」

 フラれることも多いが、ザックスは女性にモテる。
 目鼻立ちの整った顔にほどよく筋肉のついた鍛えられた身体。性格も明るく、基本的に人当たりもいい。少々抜けているところはあるがそれはご愛嬌。むしろそういうところが女性にとっては魅力的に映るらしい。そして神羅でエリートとされるソルジャーである。
 神羅社内で思いを寄せている女性など幾らでもいるし、社外からもよくお声が掛かる。告白はいくらでもされたことがあるが、自分からしたことはほとんどない。
 何もしないでも相手が寄ってくるのが常で、基本的に去る者追わずな性格をしている為、フラれたらそれで終わり。別の子から好きだと告げられれば付き合う、というドライな恋愛をしてきた。だからこれまでの恋愛で駆け引きじみたことをしたことがなかった。
 そういう意味では恋愛経験が豊富とは言い難いザックスの前に立ちふさがった壁。告白もろくにしたことがない。おまけに好きになった相手が女ではなく同性である男。
 一体どのようにしてこの難攻不落の城を攻略すればいいのか。この様子だと攻略するというよりはそのまま壁をぶち破って直進しかねない勢いだ。

「オレどうしたらいいと思う?もう我慢の限界なんだよ。今すぐにでも告りたいんだけど」
「待て待て。早まるな。お前ってどうして後先考えないわけ?」
「いや、だってよ…」
 一度こっぴどくフラれて挫折を味わった方がこいつにとってはいいかもしれない。
 カンセルの頭にそんな考えも浮かんだが、友人らしい友人がザックス以外いないというクラウドのことを考えると、ここでザックスの暴走を止めてやらねば少々かわいそうな事態を招くかもしれない。カンセル自身、クラウドと会話したことはほとんどないが、ここで止めてやるのが親切心というものだ。
「あのなあ、お前はいいよ?言ってスッキリ出来るんだからな。けど言われたクラウドの身にもなってやれよ。あいつ見るからに真面目そうだろ。友達だと思ってたやつに突然そんなこと言われたらあいつすげー悩むと思うぞ」
「そ…そうか…そうだな…」
 カンセルに指摘され、ザックスは一瞬顔を曇らせた。
 困惑するクラウドの顔がザックスの脳裏に浮かんで来る。こんな顔をさせてしまうところだったのかと自己嫌悪に陥ったかと思いきや、困った顔も何だかいい…などと邪な考えが頭を過り、気が付けばザックスは口の端を上げてニヤけていた。
 その横で百面相を見ていたカンセルはいよいよもって友人が何を考えているのかわからなくなって来た。
 これまでの経験からその思考を何となく察知したカンセルは、とりあえずその腑抜けた頭を一発殴っておいた。
「いてえ!」
「…本題に戻る。お前から付き合いたいって言われれば大抵の女だったら二つ返事でOKって言うかもしれないけどな、相手は男なんだぜ」
「じゃあ諦めるしかないのか?諦めるくらいなら全部ぶちまけたんだけど」
「だから!何でそう極端なんだよ。こういうのはだな、事前の根回しが重要なんだ」
「…というと?」
 ザックスはカンセルのすぐ側まで身を寄せると小声で教えを乞うた。
「まず相手の気持ちを探って脈があるかないか確認するんだよ」
「オレのこと好き?って聞くのか」
「バカヤロー、そんな直接わかるように聞いてどうすんだよ!遠回しにそれとなく聞くんだよ。今好きな子いないの、とか」
 カンセルから怒鳴られながらも、ザックスは当然湧いてくる疑問を口にした。
「いるって言ったらどうするんだ?」
「諦めろ」
 あっさりと断言され、ザックスは目をむいて反論した。
「ちょっ、もう終わりかよ!?その好きな子がオレって可能性は!?」
「…お前ってつくづくプラス思考だよなあ。普通に考えれば、いるのは好きな"女の子"だろ」
「くそ…そういうことか!」
 拳で足を叩き、まるでたった今起こったことのようにくやしがるザックスをカンセルは呆れた眼差しで見やった。
「実際に聞いてもないのに一人で盛り上がってんじゃねーよ…。とにかく相手の気持ちを探ってみろ。話はそれからだ」
 恋愛の駆け引きについてはカンセルの方が経験豊富だ。
 まるで学校の授業を受ける子供のようにザックスは感心した様子で素直に頷いた。
「いやー、カンセルって色々詳しいよなあ。それで何で彼女いねーんだ?」
「黙れこのやろう!!」
 胸をえぐるようなことをサラリと言われ、カンセルはザックスの首根っこを掴んでガクガクと揺さぶった。
 その光景を廊下で遠巻きから見ていた同僚たちは何があったのかと様子を見守る。
「…何かカンセルがすげえ怒ってんぞ」
「どうせザックスが余計なこと言ったんだろ」
「だな」





material:Abundant Shine






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