ザックスはミッションの報告書作成の為、神羅本社ビルでデスクワークをしていた。
午後になり仕事が一段落したので屋外の喫煙スペースで一服していたところ、同僚のカンセルも休憩にやって来た。
「よお、お疲れ」
「お前もう報告書終わったのか?」
「さっき終わって今一服。カンセルは?」
「他に仕事回されて手付けてねえよ…」
それから二人は五分ほど話し込んだが、誰も喫煙スペースに来る気配がない。廊下を覗いて見ても一人も歩いていなかった。
ちょうどいいとザックスは以前から相談したかったことをカンセルに持ちかけた。
「実は…悩みがあってよ」
「お前が悩みねえ」
悩みという言葉と一番無縁のなさそうな男からの相談にカンセルは銜えていたタバコを灰皿に置いた。そして柄にもなくモジモジしながら口ごもる友人を冷めた目で見やる。
「気持ち悪いな。何だよ悩みって」
「…オレ、好きな子がいてさ…」
「クラウドだろ」
「そうそう」
あまりにも自然に言われたのでザックスも釣られて返事をしたが、間をおいてベンチから立ち上がった。
「なんでわかったんだ!?」
「お前わかりやすすぎんだよ」
カンセル曰く行動があからさますぎるのだという。あれで自覚がない方がおかしいとまで言われ、ザックスはベンチに座り直して首を捻った。
「…おかしいな。普通に接してるつもりなんだけど」
「あれで普通はねーよ…」
事あるごとにクラウドの肩に手を回す、何かと言うと頭を撫でる、意味もなく頬をぷにぷにといじる。
などなど普段からあれだけ不自然なボディタッチを繰り返していおいて普通だとでも言うつもりかとカンセルは呆れる。
何処へ行くにも連れ回すし、傍から見てて恥ずかしくなるほどベタベタしているし、独占欲丸出しにもほどがある。そうはっきり告げられてザックスは目を丸くする。
「じゃあ、クラウドもオレの気持ちに気付いてるか…?」
「いやあ…それはどうだろうな」
肝心のクラウドはというと、多少周りの目が気になるようではあるがザックスに纏わりつかれること自体を不快に思ってる風でもない。
人前では感情を表に出さないタイプなのだろうが、あちらはあちらでザックスとは別のベクトルで鈍そうだ。おそらく気付いてないだろうとカンセルは踏んだ。
「そっか…」
「なんだよ」
「あ、いや、好きだってのがバレたら嫌がられるかなーって」
これまでの行動を鑑みるに、この男がそんな繊細なことを考えていたなどとは到底思えない。むしろ気付いてくれと言わんばかりにアピールしているようにしか見えない。カンセルは白々しいと言いたげな目でザックスを見やった。
「そんなこと気にしててよくあそこまでベタベタ出来たな」
「だってクラウド嫌がってなかったし。お前、オレが何も考えずにあんなことしてた思ってんのか?オレだってな、向こうの反応見て大丈夫そうだったから…」
「心の中では嫌がってたかもしれないとか考えないのか」
カンセルの痛烈な言葉に得意げに捲くし立てていたザックスの顔がサーッと青ざめる。そしてわなわなと震えながらカンセルの両肩を掴んで前後に揺さぶった。
「お前なんでそういうこと言うんだよ!?」
「普通考えるだろ!?今の本当に大丈夫だったかな?とか。逆に不安にならないのが羨ましいくらいだ」
そう言われて、ザックスは一瞬考え込む素振りを見せる。
「…いや、クラウドってあれではっきり言うヤツなんだ。嫌だったら嫌だってちゃんと言うと思うし」
ザックスはクラウドが自分の部屋に遊びに来た時のことを例に挙げた。
ゲームに夢中になってばかりでこちらを見向きもしてくれなかったのでいつも以上にベタベタと纏わりついたところ、「うっとうしい!」と顔を真っ赤にしながら一喝され、その後はチラリとも顔を向けられずに半分無視に近い状態になったという。
それでどれくらいベタベタすると嫌がられるか学習したらしい。
「…まあ確かに好き嫌いははっきりしてそうだな」
カンセルの相槌に「だろだろ?」とザックスはうれしそうに同意を求める。
これは確かにうっとうしい。カンセルは回想の中のクラウドに同情した。
呆れるカンセルなど目に入っていないようで、ザックスは膝の上に組んだ指を忙しなく動かしながら続けた。
「それによ、前に初恋の話聞いたんだよ。…どうだったと思う?」
「どうって何が」
「どんな子だったんだって聞いたら、黒髪で、いつもみんなの中心にいて明るい人だっていうんだよ」
取り立ててザックスが喜んで報告するほどのことは言ってない。何がザックスの心の琴線に触れたのか、カンセルには皆目見当がつかなかった。
「…で?」
「それって…オレのことじゃねえかなって」
その一言でカンセルの中の何かがプツンと音を立ててキレた。そしてザックスの胸倉を掴み上げ、髪を逆立てんばかりに怒声を上げた。
「ど…どんだけ自意識過剰なんだてめえはあああ!!」
カンセルは普段からあまり怒ることもなく、声を荒げることもない。ザックス相手を除いて。
カンセルがこれほどまでに怒りを露わにするとしたら大抵ザックス絡みだ。事情を知らない同僚たちがこの場に居合わせていたならば、十人中九人はこう言うだろう。「ザックス、お前が悪いんだろうからとりあえず謝っておけ」と。
しかしカンセルの怒りの声にもザックスはめげなかった。
「だって黒髪で明るいってモロにオレじゃん!?遠回しにオレのことを好きだって言ってるんじゃないかと…」
「黒髪で明るいヤツなんざいくらだっているだろうが!」
「えー…そうかあ。ツォンは黒髪だけど明るくねーぞ?」
そんな極端な例えを出してどうすると突っ込まれても納得していないようで、ザックスはブツブツとぼやく。
「お前って幸せだよな。オレもお前みたいになりてえよ…」