形振り構う余裕もなくなった。
ザックスはクラウドの担当業務を端末から調べた。
業務予定では早番になっていた。何もなければすでに寮に戻っているだろう。だがザックスには確信があった。クラウドは寮に戻っていない。
案の定、寮へ赴いてみてもクラウドは不在だった。
ザックスは寮の外の道路に面したところでクラウドを待ち伏せた。
前を通る兵士たちが何事かちらちらと視線を送ってくるがまるで気にならなかった。
いつクラウドが帰ってくるか。
ザックスの頭にあるのはただそれだけだった。
待ち続けてどれほど経ったか。
辺りはすでに暗闇に包まれ、道路脇に点在する街路灯がわずかな光で道を照らしていた。
視界はすこぶる悪い。
だがザックスには関係なかった。ソルジャーは闇の中であっても多少視界が利く。
だから寮の反対側からフラフラになりながらやって来る人影を見逃すこともなかった。
目の端に金色の髪を見止めるとザックスはわき目も振らず走り出す。
街路灯に照らされた自分の姿に気付き、逃げようとするクラウドの腕をつかむと、ザックスは押し殺した声で言葉を吐く。
「…足らなかったのか」
「え…」
「足りない分渡すからすぐ送金しろ」
クラウドの返事はなく、代わりにザックスの腕が振り払われた。
そして飛んできたのは自分を拒否する声だった。
「もう放っておいてくれよ!ザックスに頼らなくたって、オレ一人で何とか出来るんだ!」
頑なに自分の援助を拒もうとするクラウドにザックスは我を忘れて激昂した。
「バカなこと言ってんじゃねえよ!母親とプライド、どっちが大切なんだよ!?」
「っ…」
ザックスがクラウドに怒鳴ったのはこれが初めてだった。
怒りを露わにしたザックスに面喰らったようで、クラウドは口を噤んでしまった。
口にしてからザックスは後悔した。
これではクラウドが態度を硬化させてしまうかもしれない。
しかしクラウドは一瞬顔を歪ませるとザックスに頭を下げるようにして下を向いた。
「…っ……」
なにかつぶやいているが、ザックスの耳には届かない。そうこうしているうちにクラウドはフラフラと足を躍らせる。
様子のおかしいことに気付いたザックスはクラウドの方へ歩み寄る。
するとザックスの身体に凭れ掛かるように倒れてきた。
「え…おい、どうした!?」
いくら呼びかけても応えることはなく、クラウドはザックスの腕の中で意識を失った。