何があったのか詮索したくなるほど陰鬱な表情を見せる今のザックスに特段の用がない限り声を掛ける者はいない。
誰とも話したくない。
そんな心中が知らず知らずのうちに顔に出ていた。
にも関わらず、いつもと変わらない調子で声を掛けてくる者がいた。
合同で任務を担当することの多いタークスのレノだ。
「よお、ちょうどいいとこで会った」
片手を上げながら近寄ってくるレノをザックスは一瞥する。
そして不機嫌な気持ちを隠すことなく、イラついた口調で言葉を吐いた。
「…なに?オレ忙しいんだけど」
「お前のお友達のことでちょっと。あのチョコボ頭のやつな。まあ忙しいなら今じゃなくても」
「待て。それ詳しく話せ」
「…忙しいんじゃないのか?」
『チョコボ頭』の話題を出した途端、態度を一変させたザックスにレノは苦笑いを浮かべた。
* * *
ロビーの喫煙スペースに場所を移し、二人はそこにあるベンチに腰を下ろした。それでもまだ話し始めず、もったいぶるように一服するレノをザックスがせっつく。
そうしてやっと聞けた話の内容はクラウドの副業のことだった。
「…副業してる、って…なんだそんなことかよ…」
「ふーん。知ってたか。昨日見かけてな」
目新しい情報ではなかったことに拍子抜けしていたが、それを聞いていたザックスは眼の色を変えた。
「き…昨日?なんで、そんなはずねえよ。見間違えじゃないのか?」
慌てふためいた様子で否定するザックスをレノは薄目で見やった。
「そっちの事情は知らん。たまたま下の六番街で見かけてね。あいつ目立つだろ。それでちっとばかし気になっちまってさ。お前とつるんでるって聞いてたし、教えてやった方がいいかと思ってさ」
六番街と聞いてザックスはピクリと身体を震わせた。
クラウドを尾行した時のことが頭によみがえる。
風俗店とおぼしき店の裏口へ入っていった姿が…。
一人険しい表情を浮かべるザックスにレノは一言付け加えた。
「ああ…別にお前が想像してるようないかがわしい店じゃないぞ、と」
「…誰もそんなこと聞いてないだろ」
「そうか?顔に書いてあるけどな。身体売るような仕事してるんじゃないか?ってな…」
笑い混じりに発せられたレノの言葉は研ぎ澄まされた剣となってザックスの胸に突き刺さった。
そして気付かされた。
心の奥底ではクラウドのことをまだ疑っている自分に。
噂が真実ではなかったと自分で突き止めたのに、信じていない。
膝の上で両の拳をぎゅっと握り締め、ひたすら床と見つめ合うザックスを横目にレノは続けた。
「一応規定で社員は副業禁止になってるだろ。まあ一般兵は薄給なやつが多いから暗黙の了解みたいなところもあるけど、就業規則に反することをやってるのを見つけてみすみす見逃すのもねえ」
「ちょ、待て。上に報告するのか?」
「だから、やるならもっと目立たないようにこっそりやれって話だ。こっちも報告するの面倒なんだよ。いちいち書類作ったりさ」
自分が見逃したとしても、他の人間に通告される可能性もあるとレノは付け加えた。
「…わかった。言っておく」
「お前だってそれなりに稼いでるだろ。お友達ならちょっとくらい都合してやったら?」
「うるせえな…」
ザックスは苦虫を噛み潰したように渋い顔をしながらこぼした。
頼って来てくれればいくらだって貸してやる。
だが肝心の相手がこちらを頼ってこない。
金が足りないならなぜ自分に相談しない。
まだ副業を続けているということはあれでは足りないということだ。
レノの口ぶりから売春の類はやっていないと思われるが、資金援助してもなお、不可解な行動を取り続けるクラウドにザックスの苛立ちは頂点に達した。