クラウドがどこへ勤めて何をしているかはわからないが、何らかの副業で得た賃金を入院している母親へ送金していることはわかった。
であれば、当座の入院費用の都合がつけば副業を辞めるはずだ。
ザックスとしては一刻も早く辞めさせたかった。
元々副業は社内規定で禁止されている。
黙認に近い状態ではあるが辞めるに越したことはない。
入院費用がどれほどのものかはわからないが、ザックスもソルジャーとしてそこそこの給金は得ている。それはクラウドも知っているはずだ。
一言言ってくれればいくらでも融通してやるのに、そうまでして自分を頼りたくないのだろうか。
その考えに至った瞬間、ザックスはぎりっと歯を噛み締めた。
ザックスにとってクラウドの心中ほど計れないものはない。
自分を利用しようと思って付き合いを持ったのだとばかり思っていたが、それならばすぐに金の無心をするのではないか。
しかしその気配は全くなく、むしろ遠ざけている。
たった一つわかったのはクラウドの心はまるで鋭利な刃物のように真っ直ぐで曲ることを知らないということ。
曲ることが出来れば、もっと楽になれるのに。
尤も、それを教えたところでクラウドは受け入れないだろう。
だがいくらクラウドが他者へ助けを求めることが出来ない性分だとしても、母親の容態が悪いというのにそんな悠長なことを言っている場合ではない。
* * *
早めに仕事を切り上げたザックスはクラウドの仕事上がりの時間を見計らって治安維持部門のロッカールームへ足を運んだ。
先日総務部ですれ違ったのを除けば顔を合わせるのは一ヶ月ぶりだ。
たった一ヶ月。それなのにひどく長い間離れ離れだったような錯覚を覚える。
ロッカールームを出て数歩、目の前に現れたザックスの姿にクラウドは顔をこわばらせると、すぐに視線を床へと落とした。
堅い表情を見せるクラウドに少し気後れしたが、ザックスはゆっくりと口を開いた。
「…よ。久しぶり」
ザックスから声を掛けられてもクラウドは目線を合わせようとせず、沈黙したままだった。
一月前と比べて少しやつれたように見える。
「最近疲れ気味なんだってな。何かあったか?」
「別に…」
「言えよ。友達だろ?」
強い口調でザックスが言ってもクラウドは口を開こうとしない。
友達なんて思われてないのだろう。
わかりきっていたことだが、クラウドの反応がザックスには少なからずショックだった。
このまま言葉を待っても何も言ってこないのはわかりきっている。
ザックスは自分から切り出すことにした。
「…母親の仕送りがきついんだろ?」
「何で、それを…っ」
そこで初めてクラウドは顔を上げた。
疲弊した表情が痛々しかった。
目の下に薄っすらと隈が出来ている。あまり寝ていないのかもしれない。
庇護心を煽られ、腕の中に抱き入れたくなる衝動をどうにか堪えてザックスは続けた。
「向こうで倒れて入院したんだって?いつからだよ」
「……」
「どうして早く言わねえんだよ。いくら必要なんだ」
ザックスが矢継ぎ早に問い質してもクラウドは沈黙を守ったままだ。
言いたくないのは様子を見ればわかる。
それでもザックスは食い下がった。
そうしてクラウドも観念したのか、ついに入院費用を口にした。
「…ちょっと待ってろ」
ザックスはポケットから持参した小切手帳を取り出して手早く金額を書き入れる。
それを切り取るとクラウドの目の前に差し出した。
「これで送れ」
手渡された小切手を目にし、クラウドは目を見開く。
「え!?こんな…」
誰が目にしても決して安いと思わない金額だ。
だがそれでクラウドに縛りついている足かせを解放してやれるならザックスにとっては安い出費だった。
「まだ入院してるんだろ?退院が長引いたらそれだけ金かかるんだから、全部送れ」
「……ちゃんと、返すから」
「ああ。出世払いでいいからな。早く送金しとけ」
「あの…ありがとう」
頭を下げて礼を告げるとクラウドは送金窓口のある方へ向かって走っていった。
これでとりあえずは元の生活に戻してやれる。
クラウドの後姿を見つめながらザックスは安堵の息を吐いた。