迷った末、クラウドは日程の自由が利く日雇いの仕事を始めた。
内職のような手作業のものから道路工事や魔晄炉周りの補修作業など、その日によって回ってくる仕事は様々だ。
給金の高いものを優先的に選び、黙々と仕事を請け負っていった。
時々、作業員の中に神羅所属とおぼしき人間と居合わせることもあった。
だが互いに素知らぬ顔をしてその場を後にする。
副業を禁じられているので大っぴらに行動出来ないのもあるが、今のクラウドには反応する余裕すらなかった。
頭の中は金を稼ぐことでいっぱいだった。
仕事量が増えなかったのは幸いだったが、上等兵に昇進しても手当てはそれまでとほとんど変わらなかった。
これがソルジャーだったなら手当ても基本給も一般兵とは段違いになる。
この間の適性試験で合格してソルジャーになれていれば、今頃手術を受けさせてやれたかもしれない。
母に苦労を掛けているのも全て自分の力が及ばないからだ。
不合格通知を突きつけられた時と同じ無力感がクラウドを襲った。
スラムから帰り、くたくたの身体でクラウドはベッドへ向かった。
まるでゴミを放り投げるように自分の身体をそこへ転がした。
天井で煌々と照らす電灯の光が情けない自分を見下ろしているように思えて、それを避けるように顔の上に腕をかざす。
「……ごめん。母さん」
腕の陰から涙が一筋流れた。
* * *
ともかく1ギルでも多く金を手にして、早く母親の手術費用を稼いで送金せねばならない。
高い給金の仕事はそれだけ過重な労働を強いられる。時には危険な場所での作業を任されることもある。
体力的にも精神的にも苦しい時期が続いた。
そうして通常業務で肉体を酷使した後、休日もなく働き通し、やっとのことで頭金を貯めることが出来た。
その後、手術が成功したとの連絡が病院より入り、クラウドはホッと胸を撫で下ろした。
が、まだ残りの手術費用と入院費用が残っている。退院までにまだ時間が掛かるらしく、その費用も日に日に積み上がっていく。
どれだけ働いても、どれだけ切り詰めても足りない。肉体は限界に来つつあった。
一日に複数の仕事を掛け持つこともあった。
少ない睡眠時間で幾日も働いた。それでも費用の半分にも満たない。
疲れきった頭は徐々に思考を狂わせ始める。
この地獄のような日々が終わるなら藁にでも何にでも縋ってしまいたい。
いつしかそんなことを考えるようになった。
助けを求めることは出来る。すぐ側に助けてくれるであろう人はいる。
だがその手を借りるような真似はしないとクラウドは頑なに自戒した。
ザックスなんか頼らなくても自分で何とか出来る。
母親の入院費用くらい自分の手で捻出してみせる。
だが、そのちっぽけなプライドは肉体へ着実に影響を及ぼしていった。