総務の送金窓口。
ここに社員が来る理由はほぼ一つしかない。
であればクラウドもその理由でここに足を運んだはずだ。
ここ最近の不可解な行動の理由。
その答えに繋がる糸口が見つかった気がした。
居ても立ってもいられず、ザックスは窓口へ向かい、受付の女性に声をかけた。
「あの、ちょっといいかな!」
「あら?ザックスじゃない。久しぶりね」
「ん…ネリーか?」
ネリーと呼ばれた女性は丸メガネをくいと上げてにこりと笑い返した。
彼女は以前正面玄関口で受付嬢をしており、ザックスとはその頃からの知り合いだ。
「今度はこっちに異動になったのか。あ、そうじゃなくて。さっき送金しに来たやついるだろ、金髪の」
「ああ、クラウドくんね」
「そうそう…『くん』?」
「彼はここじゃちょっとした有名人だから」
「…?あのさ、仕送りに来てたんだよな?」
ここに来る社員のほとんどは実家などへ仕送りをする為にやって来る。
銀行より受付時間が長く、手続きも簡単な上、手数料が安く設定されているので利用する者は多い。
そして例に漏れることなく、クラウドも仕送りの為にここを訪れていた。
「あの子と知り合いなんだ?」
そうだとザックスが肯くと、ネリーはふうとため息を吐いてぺらぺらと話し始めた。
「あの子も大変よね。見てるこっちが心配になっちゃう。見るからに華奢な感じだし、なんだか顔色も悪かったもの。元々色の白い子だけど体調悪いんじゃないかって他の子とも話してたのよ。まあ無理もないけどさ。それに…」
「大変って何が?」
ザックスはネリーが話すのを遮り、神妙な顔つきで尋ねた。
その様子の変化に驚いたネリーは一瞬息を呑んだ。
「え?何って…あの子から聞いてるんじゃ」
ザックスは首を横に振ると、先より重い口調で尋ね直した。
「…何か知ってる?あいつのことで」
「あの…言ってもいいのかな……やだ、てっきり知ってると思ったから、私…」
今まで見せたことのない真剣な眼差しを向けるザックスにネリーは困ったように視線を泳がす。
どうしようとうろたえ、口を濁すネリーに事情を説明してくれるようザックスは必死に頼み込む。
そして根負けしたネリーはとうとう口を割った。
「…母親が入院?」
「最近よくここに来るからどうしたのかなってちがう部署の子に話したの。そしたらちょっと前にあの子宛に遠方の病院から電話が入ったらしくて。あ、話した子が偶然その電話を受けたんだけど…」
先ほどもただの仕送りではなく、入院費用を送金しに来ていたのだという。
「色々切り崩してるのか知らないけど真面目な子ね。今までも毎月欠かさず仕送りに来てたし、今日も…」
何気なく告げられたネリーの言葉がザックスの心に暗い陰を落とす。
それは心の内から外へ、じくじくとにじみ出ていった。
陽気な顔しか見せなかったザックスの暗く沈んだ表情を目にし、ネリーはついに口を噤んでしまった。
疲れきった顔をしていた理由。
繁華街へ繰り出していた目的。
不可解な行動の原因がやっとわかった。
そんな重要なことをなぜ相談しない?
どうしてオレに一言も話さない?
どうして…何も言ってくれないんだ……。