粉雪
  




第三十二話 君の行く先は     side:Zack



 ――クラウドの様子がおかしい。

 ザックスがそう思い始めたのはここ数日のことだ。
 それというのも何かしら誘い掛けてもまるで相手にされなくなったからだ。

 本人の口から直接昇進の話は聞いていないが、ささやかなお祝いをしようと食事に誘っても忙しいの一言で断られてしまった。
 仕事のある日でなければ基本的に誘いを受け入れていたのに、クラウドは態度を一変して拒絶するようになった。

 上等兵に昇進したことで身辺が忙しくなったのかもしれないが、半日やそこら都合がつけられないほど忙しいのだろうか。
 所属している隊の上官に掛け合って時間を都合してもらえないか頼もうかとも思ったが、クラウドがそんなことを良しとするわけがない。
 それどころか怒りを買う結果になるかもしれない。


 仕事が理由ならばそれは仕方ない。
 だが本当は別の理由があるのだとしたら…。

 クラウドにまとわりついていた連中に睨みを利かしておいたものの、また厄介なことに巻き込まれていないかザックスも段々心配になった。
 かと言って直接訊ねたところですんなり答えは返って来ないだろう。


 治安維持にいる知り合いと食堂でたまたま居合わせた時、それとなくクラウドのことを聞いてみても判然としなかった。
「最近忙しそうなんだけどさ。なんか知ってる?」
「あいつと話すことないからなあ…。あ、でもこの間の演習で一緒になったけど、随分疲れた顔してたぜ」
「昇進して仕事増やされたのか?」
「別にそんなことないと思うけどな。時間外に自主練でもしてるか…仕事上がりにどっか行ってるんじゃないか?」

 クラウドが業務以外で街を出歩くことは滅多にない。
 自主トレーニングに勤しんでいるならいいが、トレーニングルームでクラウドの姿を見た者はいない。
 仕事が終わってからザックスもそこに数日間連続して足を運んだが、一度も顔を合わせることはなかった。

 そうこうしているうちにザックスも仕事が立て込むようになり、気がつけばお互い一月近くまともに話をしていない。


 すれ違いの日が続く中、クラウドが仕事が終わってから寮を頻繁に抜け出している話がザックスの耳に入って来た。
 寮を抜けて遊びに行くくらい、年齢を考えれば普通のことだ。
 だがクラウドはザックスが誘うまで繁華街へ遊興目的で出かけたことがなかった。
 そんな人間が突然遊びに出たりするだろうか。

 全く別の目的で街へ足を運んでいるのではないか?
 不本意なことで出て行かざるを得ない状況だったとしたら…。
 浮かんでくるのは嫌な想像ばかりだった。



 * * *



 ある日の夕方。
 クラウドが寮に戻り、再び外へ出るのを確かめると、ザックスは敵地に忍び込んだかのごとく息をひそめて後をつけた。

 ザックスもあまり気は進まなかったが、仕事が終わった後のクラウドの動向を探ることにした。
 繁華街を抜けて向かっていったのはスラム行きの電車が出ている駅。
 その電車に乗り込み、クラウドは六番街の雑踏を進んで行く。
 そしてたどり着いたのは風俗店の立ち並ぶ色街だった。

 クラウドがこんなところへ遊びに出るようなタイプには思えなかったので少々意外に思える場所だった。
 こっちに夢中になっていたのか…と落胆に近い気持ちを抱きながら、ザックスは尾行を中止することにした。
 どこへ行くのか気にならないと言えば嘘になるが、これ以上はプライベートなことだと自制した。

 最後に振り返って姿を見やるとクラウドは客引きと思しき人間に声を掛けられた後、どこかの店の裏口へ続く路地に入っていった。
 客として入店したようには見えなかった。
 まさか…とザックスの頭に沈みかけていた一つの可能性が浮上してくる。

 ちがう。クラウドはそんなことしていない。あれはレイプされていただけだとわかったじゃないか。

 でも、あれが本当は身体を売っていたことで生じたトラブルだったとしたら?
 社内で続けることが困難になり、外で金銭を得るようになったのだとしたら?

 ザックスは店の確認をすることなく、一目散でその場から立ち去った。
 もしそうだったら…その事実を受け止めるのが怖くなった。



material:フリー素材「Material-M」






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