粉雪
  




第三十話 一本の電話       side:Cloud



 ザックスと出会ってから数ヶ月。
 クラウドの身辺は確実に変わった。
 自覚していることもあれば無自覚のうちに変わっていることもあった。
 その一つが演習の成績だった。

 定例の演習後にクラウドは上官である曹長のエドワーズから声を掛けられた。
「ストライフ、ちょっといいか」
「はい」
「最近調子がいいようだな」
「え?」
「演習の成績が上がってるじゃないか。いい師匠でもついたかな」
 入隊以来、いい成績を出そうとがむしゃらに取り組んでいた演習。
 適性試験に落ちて以降は完全にやる気が失せ、流れ作業のようにやっていた。
 それまで上位をキープしていたクラウドの落ちぶれぶりを面白がる輩との衝突が絶えなくなり、更なる悪循環になっていった。

 しかしここ最近は煩わしいことに気を取られることがなくなったせいか、自然に成績が上がっていたようだ。

 ザックスの存在が起因しているのは言うまでもなかった。
 そして宣言通り剣術などのアドバイスを精力的にしてくれたおかげだった。
 ニールと揉めた件にしても、ザックスの名前を出してから姿を見ることもなくなった。

 ザックスによってもたらされるこの環境が疎ましい。
 それを心地いいと思っている自分に虫唾が走る。


 ――ザックスを利用する?ただ依存しているだけじゃないか…



 暗い面持ちのクラウドとは対照的にエドワーズは明るい表情で持っていた成績表に目を落とした。
「うん。これなら近いうちに上等兵に昇進出来るかもしれないな。オレからも推薦しておこう」
「…そう、ですか」
 上等兵の昇進話についてはあまりいい思い出がない。
 それを除外しても、クラウドにはうれしいとは思えなかった。

 エドワーズはまるで訃報を聞いたような反応を返すクラウドの肩を叩いた。
「なあストライフ。曹長止まりのオレが言っても説得力なんてないだろうが、ソルジャーになることだけが全てじゃないだろう」
 クラウドは下を向いたままぼそりとつぶやいた。
「…ソルジャーになることが、オレの全てだったんです。その為だけにここで頑張ってきたんです」

 それはクラウドにとって絶対的価値を持つものだった。
 どんなにつらくてもその目標があったから屈辱的な連中にもこれまで耐えて来れた。

「お前はまだ若い。いくらでも可能性を秘めているんだ。自分からその門戸を閉ざすことはないさ」

 エドワーズの言葉はクラウドの耳を右から左へと流れていった。

 どんなものであろうと、ソルジャーに代われるものはない。
 全てがクラウドにとって無価値なものだった。

 ただ一つ…ザックスを除いて。



 * * *



 その日、クラウドの元に一本の電話が入った。
 総務から電話が入っていると連絡を受け、クラウドは業務を切り上げると急ぎそこへ向かった。
 自分に電話を掛けてくるとしたら、思い浮かぶのは一人しかいなかった。

「…もしもし?」

 しかし掛けて来たのは全くの想定以外の人物だった。
 受話器から聞こえてくる言葉にクラウドの顔は見る見るうちに青ざめていった。

 それはクラウドとザックス…二人の関係に一つの転機をもたらす電話だった。





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