治安維持部門にキースという一般兵が所属していることを突き止めたザックスは仕事上がりに一人になるチャンスを窺って待ち伏せた。
噂の真実を知りたい。
もし本当だったとしたら、一体どうする?どうしたい?
その事実を受け止められるだろうか。
堪らなく不安だった。
それとは別にザックスの中に負の感情が蠢いていた。
クラウドと身体の関係を持った男がいる。
その事実が妬ましい。
自分に心を開いてくれないクラウドがその男には全てを許していたのかもしれない。
そう考えるだけでザックスの中に嫉妬の炎が渦巻く。
どれくらい待ったか。データベースに登録されていた顔写真そっくりの人物が同僚と共にこちらへ歩いてきた。
肩まで付く真ん中分けの茶色の髪。やや切れ長の目に面長の顔立ち。
間違いない。
その姿を見つけた途端、一人になる機会を窺うことなくザックスは飛び出した。
「…キースってお前?」
藪から棒に不躾な訊ね方をされ、男は一瞬イラついた表情を見せる。しかし相手がソルジャーであることに気付くと、すぐ改めた。
「オレですけど…なにか?」
「ちょっとばかし聞きたいことがあるんだけど」
ザックスは有無を言わせずキースの肩を掴んだ。そして一緒にいた同僚から引き離すように通路の暗がりへと連れてきた。
一方的なザックスに不機嫌そうな表情を見せていたが、そのただならぬ様子にキースの顔色が徐々に翳り出す。
「あの、一体何の…」
「お前、クラウド・ストライフって知ってるだろ?」
「え、いや…はい…でも名前を知ってるくらいで…」
「そんなわけないだろ?」
確信をもったザックスの口調にキースは息を飲む。
「知ってるよな?…あいつのこと抱いたことあるんだからさ」
咎めるような口調の前に観念した様子でキースは黙り込んでしまった。
やはり身体の関係を持ったことは事実のようだ。
ザックスがぎりっと歯を噛み締めるとキースは慌てて釈明を始めた。
「その…ちょっとした気の迷いっていうか、最初はそんなつもりじゃなかったんです」
自分はクラウドとそんな深い関係になってもいないのに目の前の男は違う。
それなのに気の迷いで、遊びで関係を持ったとでもいうのか。
下手な釈明がザックスの心に更に火を点けた。
嫉妬でこんなことをする自分が情けなかったが、煮え切らない相手の態度にザックスの口調はエスカレートしていく。
「お前、知り合いにあいつのこと『よかった』って自慢してたよな?」
「あの、それは」
否定しない。それはつまり肯定を意味する。
ザックスの脳裏に目の前の男とクラウドが情交に夢中になる姿が浮かび上がってくる。
(あいつの身体を…こいつは知ってる…)
キースは眼前にまで近付いてくるザックスに気付き、下に向けていた顔を上げる。
その形相に驚いた拍子に背後の壁にぶつかった。
「ひっ…すみません!勘弁して下さい!ほ、他の連中が、ノリでやってたからオレもつい一緒に…」
最初は何を言っているかわからなかった。
ザックスはキースが漏らした言葉を頭の中で何度も反芻する。
そしてようやく何を言わんとしているのかを理解した。
(まさか…無理やり犯ったのか…?)
その結論に到達すると、ザックスは目の色を変えて掴みかかった。
「どういうことか全部話せ。あいつに何したんだ!?」
激昂したその様に身の危険を感じたキースは全てを白状した。
二人はザックスが想像していたような関係ではなかった。
好き合って身体を重ねたわけでもなく、金銭で合意の元に関係を持ったわけでもない。
現実はそれ以上に残酷だった。
クラウドは身体を売ったりなどしていない。
レイプの標的にされていたのだ。
おまけに複数でクラウドに手を出した。たった一人のクラウドを相手に…。
声を掛けてからずっと、キースが挙動不審だった理由がザックスにもようやくわかった。
クラウドから同僚に強姦されたと明かされ、それで今の『相手』であるザックスが詰問しに来たと思っていたのだ。
ザックスは震え上がるキースを締め上げ、更に問い質した。
「おい…他に誰があいつに手出したんだ?」
「し、知りません!オレは、たまたま呼ばれただけで」
「じゃあお前は誰に呼ばれたんだ!?」
「あ…ソ…ソルジャーの…ニールに……」
聞き覚えのあるその名前にザックスは言葉を失った。