あの後、自宅に戻ってからも一般兵たちの会話がザックスの頭を離れなかった。
――クラウドは一体何をしている?『噂』は本当だったのか?
どれだけ頭から振り払おうとしても振り払えない。
あのクラウドが…金の為に身体を開いているというのか。
考えたくなかった。
しかし頭に浮かんで来るのはクラウドの淫らな姿。その端正な顔を快楽に歪ませながら男を受け入れている。
そう考えるだけでザックスの身体は熱を持ち始めた。
「くそっ…」
ザックスはズボンの前を開くと自身を取り出して扱き始めた。
罪悪感覚えつつも、一度始めたそれはもう止めることは出来なかった。
手の動きと連動して脳内の映像が段々とエスカレートして行く。
「はっ…クラウド…」
現実ではあまり口にすることのない、自分の名を呼びながら喘ぎ乱れるクラウド。
自分を求めて必死に手を伸ばすクラウド。
全てがザックスの興奮を煽った。
「っう…」
扇情的な表情を浮かべながら自分を受け入れるクラウドの姿にザックスは果てた。
認めたくない。
認めたくないが、クラウドに欲情したのは変えようのない事実だった。
笑顔が見たいと思っていたくせに、本当に見たかったのは快楽に喘ぐ顔だったのか。
自己嫌悪に陥りながらもザックスは認めざるを得なかった。
こうして自分のように懸想する人間を相手に身体を売っていたのだろうか。
(うそだ……)
ふと、先ほどの一般兵たちの会話に出て来た名前が浮かんで来た。
キース…治安維持に所属している一般兵だろうか。ソルジャーにそんな名前の人間はいなかったと記憶している。
一体クラウドとどういう間柄なのか。
あの会話をそのまま受け取るなら、身体の関係を持った相手ということだ。
クラウドのことを知るには、この男に直接確かめるしかない。
* * *
翌日。本社で治安維持部門所属者のデータベースを閲覧しているといつの間にか背後にカンセルが立っていた。
「なにやってんだ」
「…ちっと調べもんだよ」
ザックスは後ろを振り向くことなく検索を続ける。
「クラウドとはいいお友達ってか?」
「なんだよ、急に」
突然クラウドの名を出され、ザックスは反射的に振り返った。
その様を見てか、カンセルは躊躇いながら口を開く。
「…余計なことだと思うけど、あいつとはあんまり付き合わない方がいいんじゃないか」
「なんだよそれ。お前まで何言ってるんだよ」
「お前のこと利用しようとしてるのかもしれないんだぜ。…あんまりいい噂聞かないしよ」
ニールに続いてまた噂だ。
否定したいのに、現実は肯定するような事象ばかり起きる。
ザックスはうんざりした様子でカンセルから背を向けた。
「意味わかんねえよ。いい加減にしてくれ」
取り合おうとしないザックスの肩を掴み、カンセルは声を張り上げた。
「見ちまったんだよ!お前の名前使って絡んでるやつ退散させてるのを」
「…まだそんなやつがいるのか」
「お前のこと利用したくて、それで仲良くするフリをしてるんじゃないのか」
ザックスは否定も肯定もしなかった。
クラウドの身が守れるなら好きなだけ利用すればいい。
例えそれだけの価値しか見出されていなくても…必要とされているのならそれでいい。
「仲良くか…仲良くなんかねえよ」
「え?」
「オレが構ってるだけで、ちっとも振り向いちゃくれねえし」
笑顔を見たいと思ったのは本当だ。今でもそう思う。
自分に笑いかけて欲しい。
それは友達としてではなく…。
「なあ。さっき言ってた噂ってよ…クラウドが売りをしてるってやつか」
「お前…知ってたのかよ…」
まさかザックスが知っているとは思わず、カンセルは閉口した。
クラウドが好き好んでするようには見えない。きっと違う。
それはある種願望に近かった。そうであって欲しいというザックスの望み。
浮かんでくるのは初めて出会った時に目に映ったあの瞳。
あの瞳が自分に何かを訴えているようで、放っておくことが出来なかった。
今はただ真実を知りたい。