ミッションから帰還後、ザックスは剣術練習の時に宣言した通り、クラウドをトレーニングに誘った。
いつもと変わらず、いやいつも以上にクラウドはぎごちない態度を見せた。それはザックス自身の挙動のおかしさも一因していたかもしれない。
ミッション中に聞かされた『噂』が幾度もザックスの頭を過る。
だが本当にあの噂通りならクラウドが自分に見せる素振りは何なのだろう。
自身を『売る』のが目的で付き合いを続けているというのならやり方が杜撰すぎる。とてもその手のことに慣れているように見えない。
クラウドは以前ソルジャーの仲間と飲みに行こうと誘った時に不自然なほど強烈な拒否反応を見せた。
噂通りの人間であれば、そういう機会を率先して利用しようとするはずなのではないか?
それとも疑われないよう慎重に行動しているのか…。
どれだけ考えても答えは見つからなかった。
* * *
暗澹たる想いを抱えたまま、しばらく経ったある日。
ザックスが偶然立ち聞きした会話を契機に事は大きく動き始める。
自主トレーニングの為、本社ビルを訪れていたザックスはそれを終えて廊下の自販機で飲み物を購入していた。
自販機のちょうど影になっている場所で壁に背を預けながら喉を潤していると、廊下の向こう側から話し声が聞こえて来た。
ザックスと会話の主たちの間を遮るように自販機があったので誰が話しているのか顔はわからなかった。話していた内容からおそらく一般兵であろうことはわかった。
仕事の愚痴、組織の在り方…誰もが口にするような他愛もない話を聞きながらザックスは缶を傾ける。そしてそれらに混じって聞こえて来たある話題にザックスは思わず缶を落としかけた。
「…最近溜まってんだよね」
「あれ?彼女いなかったっけ?」
「お前、それ嫌味か?…そうだ、あいつにお願いしてみようかな。キースが前にお世話になった時によかったって言ってたし」
「それってストライフのことか?やめとけよ。あいつ最近ソルジャーと仲良くしてるらしいぜ」
「…ああ、思い出した。下手に手出したら殺されるかな」
「そりゃ…あいつと仲良くしてるってことはそういう仲だろうし」
「まあそうだよなあ…」
やがて一般兵たちの声は遠くなり、そこから離れて行った。
それを立ち聞きしていたザックスは足に根が絡みついたかのごとく、その場から動けなかった。
会話の言葉の一つ一つがザックスの頭の中で踊り狂う。
なんだ…今の会話は…?
売りをしているというのはこのことか?
本当に…しているのか?
ザックスの頭の中から消えかけていたはずのそれが蘇る。
淫らな顔をしながら男を受け入れるクラウドの姿が駆け巡る。
下腹部に熱を感じ、ザックスは慌てて頭を振り払った。
何と言う想像をしているのか。ザックスは罪悪感から頭を壁にぶつけた。
(オレ…クラウドのことをそういう目で見てたのか…?)
友達だ、守ってやりたいとか…大層なことを掲げておきながら、結局そういう対象として見ていただけなのか。
ちがう、そんなことはないと否定してもザックスの胸に湧いてくる不快感。
それは…嫉妬だった。