粉雪
  




第二十三話 蘇る悪夢       side:Cloud



 お互いがオフの日、ザックスはクラウドを剣術の練習に誘った。

「ここってソルジャー専用のトレーニングルームじゃ…」
「別に構わねえよ。今日はオレの練習に付き合うってことでさ」
 ザックスは躊躇するクラウドの腕を引いて部屋へと入って行った。
 中はソルジャー専用というだけあって特殊な装置や設備が内装されていた。

 練習用の剣をクラウドに持たせるとザックスは装置を操作し、初級のトレーニングメニューを起動させた。
 初級ながら一通りこなすだけでも結構な体力を要する。
 クラウドはどちらかというと銃器の扱いの方が得意だった。ソルジャーになれば剣をメインに使うので、仕事の合間を縫って必死に練習したがどうにも伸びが悪かった。ここでの練習結果もそうなった。

「…やっぱり全然ダメだ」
「まあ初めてならそんなもんさ」
 ザックスは装置を停止させるとクラウドの側に寄った。
「…こう、こんな感じ」
 ザックスは身体を密着させながらクラウドの構えを修正した。
 背中と腕にザックスの筋肉を感じる。初めてザックスの姿を見た時に覚えた印象そのままの肉体だ。
「構えにちょっと癖がついちまってるな。ま、そんなのいくらでも修正利くから問題ないけどさ」
「…そう」
 意識を背後に奪われ、クラウドは上の空で返事をした。気付けば心臓が早鐘を打っていた。
 それを更に早めるようにザックスはクラウドの身体に手を這わせて来た。
「…っ!?」
 棒立ちになりながら僅かに身体を震わせる。
 誰もいない空間で二人きり。その状況がクラウドの恐怖を煽る。

(やっぱり…ザックスもあいつらと同じなんだ…)

 クラウドの手から練習用の剣がすり抜け、床に大きな音を立てて落ちた。
「お?なんだよ、もう限界か?」
 ザックスは身体を離すと剣を拾い上げ、剣身を反対の掌で受けながらポンポンと振った。
「うーん…もうちょい筋肉つけた方がいいかな。今度一緒に筋トレに行こうか」
 屈託のない笑みを浮かべるザックスを前にクラウドは居心地の悪さを覚える。
「ん?どうした?」
「…別に」
 不意にザックスが腕時計に目をやった。時刻はすでに12時を回っていた。
「ちょうどいい時間だな。メシ食いに行こうか。肉食おうぜ、肉」
「…昼間から肉なんて食べられない」
「お前なー。肉食わないと精力つかないぞ。よし、シャワー浴びて行くか」
 ザックスは大きく伸びをしながらクラウドの頭を撫でた。



 * * *



 その日の夜、クラウドは夢を見た。
「んー!」
「四つん這いにしろ」
「おら、ストライフ、しっかり膝立てろよ」
 後ろに結んだ髪をぐいと引っ張られ、クラウドは頭を仰け反らせた。その拍子に結ばれていた髪が解ける。
「すげえ…こうするとマジで女みてえだな、こいつ」
「へへ…五番街の女よりいいかもな」
 暗い倉庫へ連れ込まれ、犯された時のことが生々しく再現される。
 手は結ばれ自由が利かない。ただ薄気味悪い笑い声が響いていた。

 目を覚ました瞬間吐き気を催し、クラウドは部屋を飛び出して廊下にある洗面所へと向かった。
「…っうぇ…」
 胃の中の物を吐き出すと、荒く息を吐きながら洗面台の縁に突っ伏した。
 夢で見たのは過去のことだが、ニールが帰還したことで同じことをまたされるのかと思うと再び胃がムカムカしてくる。

(あんなやつにいいようにされてたまるか…)

 クラウドは洗面台の向こう側にある鏡の奥を睨んだ。



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