粉雪
  




第二十話 黒い執着       side:Cloud



 ザックスは自分に好意を抱いている。
 それは友情ではなく別の感情だ。自分を見つめるザックスの眼差しがクラウドに気付かせた。

 どうせザックスも自分を犯してきた連中と同じだ。これは『あいつら』への復讐なんだ。
 散々利用して気を持たせたところで裏切ってやるんだ。
 少しくらいならザックスの心に傷を負わせられるはずだ。

 クラウドの心の内に不可思議な高揚感が生まれ始めた。

 ソルジャーを本気で怒らせるとどうなるのだろう?
 自分がその地位を利用しているだけだと気付いたらザックスはどう思う?
 それが元でひどい暴力を振るわれようと構わない。例え殺されようと。

 ザックスの怒る顔が見たい。裏切られてショックを受ける姿が見たい。感情を剥き出しにして自分を罵る言葉が聞きたい。
 どんなに慕われてても、有望だと評価されてても、ザックスだって仮面を外せば自分と同じ人間なんだ。完璧なんかじゃない。善人の仮面を被っているだけで、けだものの様な『あいつら』と同じなんだ。

 嫉妬と羨望の入り混じった歪んだ感情がクラウドの思考を支配していた。

 もうクラウドの心には何もない。
 あるのはザックスへの黒い執着だけだった。



 * * *



 ザックスから謝罪された日を境にクラウドはザックスの誘いを受け入れるようになった。
 と言っても今のところ食事の誘い程度だが、周囲に二人の関係を知れ渡らせるにはそれで十分だった。

 社内食堂を一切利用しなくなっていたクラウドがザックスと共に食事を取る姿は、同じ一般兵の目を確実に惹いていた。
 こんなことをすれば、ザックスと離れて一人になったところを見計らって難癖をつけてくる人間が出る。
 それを見越してか、ザックスはクラウドに言い含めてきた。
「あのさ…何かあったら言えよな」
「何かって」
「ん…教練のこととかさ。銃器の扱いはそんなに得意じゃないけど剣術だったらアドバイス出来るし…他にも困ったことあったら何でも言えよ。オレがやれることあったら何とかしてやるからさ」
 ザックスが言わんとしていることはわかった。
 自分と一緒にいることで突っかかってくる人間がいたら遠慮なく言えというのだ。
 罪滅ぼしのつもりだろうか。クラウドの冷めた思考はそう判断した。
 言われるまでもなくそうするつもりだ。ザックスの地位を利用するだけ利用してやる。

 そうして仲が良くなって向こうが自分を本当の友達だと信用しきったところで、利用する為だけに近付いたと言ってやったら、ザックスはどんな顔をするだろう?
 悲しむ?それとも怒り狂う?
 ザックスはきっと友人に裏切られたことなんてないのだろう。
 弱い存在だと、庇護してやっていると思っている人間から裏切られたとわかったら…。

 挫折も裏切りも知らないザックスの心を打ち砕くことが出来るだろうか。
 いいや、少しでもいい。傷を負わせることが出来れば。

 自分のような捻くれた人間と同じ感情をザックスも持っているのだと証明したい。
 どれだけ持て囃されていたとしても、ザックスだって同じ人間なんだ。特別なんかじゃないんだ…。



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