トレーニングを終えた後、ザックスは仕事を終えたクラウドを捕まえて昨晩のことを謝罪した。
「ごめん。オレ…昨日すげえ嫌なこと言ったよな」
「いいよ。もう気にしてないから。オレこそ急に帰ってごめん」
怒っていないことにホッとしたのも束の間だった。
クラウドの表情を見た瞬間、ザックスは硬直した。
それは普段のクラウドからは考えられない表情だった。怒っているでもなく、険しい表情をしているわけでもない。ただ笑っていた。
「オレ、考えなしで喋っちまうことがあってさ。本当にごめんな…」
クラウドの表情は変わらない。静かに微笑んでいた。
それ以上何も言えず、ザックスは言葉を失った。
クラウドがザックスに笑った顔を向けたことなど出会ってから一度もなかった。だから笑顔を見たいと思った。
だがこれはザックスが見たいと思っていた笑顔ではない。
笑っているはずなのに、笑っていない。
ザックスは自分が思っている以上にクラウドを怒らせてしまったのだと悟った。
ザックスがじっと黙り込んでいると、クラウドは痺れを切らしたかのように小さくつぶやいた。
「…話ってそれだけ?」
「あ、いや、その…」
クラウドの怒りはまだ冷めていない。ザックスはその表情ををうかがうようにチラチラと見やった。
余計なことは言うなとカンセルから釘を刺されたが、このまま会話を終わらせることは出来なかった。
「ソルジャー、目指してるんだよな」
ソルジャーという言葉にクラウドの身体が僅かに揺れる。
神羅軍の入隊者でソルジャーを目指す者、憧れを抱く者は多い。
これまでそんなことを意識せずにいたが、ザックスはよりによってクラウドに対して無神経な発言をしてしまった己の軽率さを呪った。
どうしたら許してくれるだろう?
必死に模索しながらザックスは言葉を綴った。
「試験とか大変だよな。その…オレに手伝えることあったら何でも言ってくれよ」
今更こんなことを言ってもクラウドの心には響かないかもしれない。しかし少しでも傷口を修復することが出来ればとザックスは祈るような気持ちで話しかけた。
「ありがとう。ザックスからそう言ってもらえると心強いよ」
それは偽りの言葉。偽りの笑顔。
クラウドは自分のことを許していない。
そうだとわかっているのに、ザックスはその表情に魅入ってしまった。
天使のような美しさなのに驚くほど冷たくて。ザックスはその凍てついた瞳に囚われた。
初めて出会ったあの時と同じように。
「応援してる…」
ザックスは無自覚のうちにクラウドの肩を抱いていた。
捕まえていないとどこかへ行ってしまいそうな危うさを感じた。
今は負の感情でいい。自分へ関心を向けさせることが出来れば…。