「ごめん。オレ…昨日すげえ嫌なこと言ったよな」
飲みに行った翌日、ザックスはクラウドを捕まえてひどく気まずそうに謝罪した。
クラウドは無自覚のうちに、にこりと笑い返した。まるで心の奥底の黒い感情を覆い隠すように。
「いいよ。もう気にしてないから。オレこそ急に帰ってごめん」
許さない。絶対に許さない。
ザックスにはわからない。オレのことなんて。
劣等生のオレの気持ちなんて、ザックスにはわからないんだ。
――たった一言。
薄れかけていた警戒心と心の壁はあのたった一言でより厚く堅いものになっていた。
「オレ、考えなしで喋っちまうことがあってさ。本当にごめんな…」
詫びられれば詫びられるだけクラウドの心は醜く淀んでいく。
人を疑うことを知らないザックス。
お人好しのザックス。
たった一言でへそを曲げて怒った相手に謝るザックス。
ソルジャーなんて及びもつかない地位も名誉もない、大して仲良くもない自分に気遣うザックス。
なんて滑稽なんだろう。情けないくらいに申し訳なさそうな顔をしている。ソルジャーのくせに…。
ザックスを蔑むことでクラウドの心は湧き立った。
――こんなやつ、オレの憧れてた『ソルジャー』じゃない。
「…話ってそれだけ?」
「あ、いや、その…」
クラウドから話を終いにされそうになり、ザックスは慌てて話題を探った。
「ソルジャー、目指してるんだよな」
それはザックスに一番触れて欲しくないことだった。
「試験とか大変だよな。その…オレに手伝えることあったら何でも言ってくれよ」
およそザックスはその言葉の一つ一つがクラウドの逆鱗に触れていることすら気付いていないのだろう。
あんたにどれだけ手伝ってもらったって、オレはソルジャーになれない。
魔晄耐性は先天的なものだ。じゃあそれはどうやって鍛えればいいんだ?
尽きることなく沸いて来るドス黒い感情がクラウドの涸れた心を満たしていった。
ザックスに自分と同じ気持ちを味あわせてやりたい。どうすれば同じ目に遭わせられる?
「ありがとう。ザックスからそう言ってもらえると心強いよ」
そう言うと、僅かに頬赤らめながらザックスはクラウドを熱い眼差しで見つめた。ザックスの中に自分への特別な感情が生まれていることをクラウドは本能的に察知した。
――その時、悪魔がクラウドに囁いた。
そうだ。これを利用してやろう。
オレの手でザックスの心を挫いてやる…。
クラウドの心に湧き起こる負の感情などまるで知る由もないザックスは、その肩を抱いた。
「応援してる…」
ソルジャーになる夢を砕かれ、生きる糧を失ったクラウドの心は歪んだ形でザックスへと傾倒していった。