クラウドとアドレスを交換したものの、ザックスの元にクラウドからまともに返事が来ることはなかった。ザックスが何通も送ってやっと一通返ってくる程度。しかも一言程度の事務的な返事しか返って来なかった。
気の合う人間同士ならメールだけで打ち解けることも出来るが、相手はクラウドだ。やはり直接話す機会を設けなければならないだろう。
しかし一度口頭で約束を取り付けたものの、食事や飲みに行こうと誘っても夜勤や寮の雑務などを理由にことごとく断られてしまう。やはりまだまだ警戒されている。
メールでは埒が明かない。もう一度直接約束を取り付けようと、ザックスは仕事上がりの時間を見計らってクラウドに会いに行った。
他の一般兵に見られれば、またクラウドが絡まれることになる。周囲を見渡して、誰もいないことを確認してからクラウドに声を掛けた。
「オレに何か用ですか?」
予想通り何をしに来たと言わんばかりの視線を向けられた。お決まりの反応にザックスの中にそれを楽しむ余裕すら出てきた。
「今度さ、ダチと飲みに行くんだ。クラウドも来いよ」
するとクラウドはザックスの誘いを強い口調で拒絶した。
「オレは行かない…っ」
「どうしてだよ」
断られるだろうとは思っていた。しかし思っていた以上に拒否反応を示され、ザックスは訊ね返した。クラウドは顔を下に向けてその理由を告げた。
「…人多いの、苦手なんで」
確かに人見知りをしそうなクラウドにいきなり知らない人間と飲みに行くというのはハードルが高かったかもしれない。ならばとザックスは再び誘いかけた。
「じゃあさ。オレと二人ならいいだろ?」
「なんで…男二人で行くくらいなら彼女でも誘えばいいじゃないですか」
人見知りや多人数以前に自分自身とも行きたいと思われていないことに、予想の範囲内ではあったがザックスはガックリと肩を落とした。それでもめげることなく、今度は一芝居打つことにした。
「はは…そういうこと言っちまうか」
「は?」
「いやー、この間フラれたばっかの人間にはちっとばかしきついなあ、その一言は…地味にグサッと来たぜ」
「え…」
普段気落ちした様子を見せないザックスの暗い表情を目にしたせいか、クラウドも少し慌てた様子を見せた。これならいけるとザックスは追い込みを掛けた。
「クラウドなら一緒に来てくれると思ったんだけど…そんなにオレと行くのが嫌ならしょうがないかな…?」
「オレは……」
「一緒に行ってくれるよな?やっぱ持つべきものは友達だな」
「な、何で…」
「そしたら明日の夜行こう。な?」
断る暇を与えず、ザックスは一気に捲くし立てた。
「それとも明日は仕事入ってるか?」
明日はクラウドの仕事は日勤で夜勤は入っていない。そして次の日は休み。飲みに行くには最良の日であると事前に調べてあった。なるべくなら探るような真似はしたくなったが、正攻法ではクラウドを誘い出すことは叶わない。あまり気は進まなかったが、自身で禁じ手としていたソルジャーの権限を利用することにした。
「たまには息抜きもいいだろ?」
ザックスの思惑を見抜いてかどうかはわからないが、クラウドも観念して渋々頷いた。
「…わかりました。行きます」
「じゃあ明日仕事上がったらメールしてくれ。待ってるからな」
そう告げるとザックスは人が来ないうちにクラウドの元から離れて行った。
社内では事務的な会話しか交わせなくとも、一歩会社の外に出れば素顔を垣間見れる可能性はある。これで少しはクラウドと打ち解けられるだろうか。
たかだか食事の約束を取り付けただけでこんなに胸が躍るのは初めて出来た彼女をデートに誘った時以来、もしかしたらそれ以上かもしれない。
騙し討ちをするようなやり方で約束を取り付けてしまったことは不本意だが、こうでもしなければいつまで経っても誘い出せなかっただろう。
少なくともフラれたのはウソではない。ここ最近忙しさにかまけて会っていなかった為、先日向こうから別れを切り出されてしまった。
「…長続きしねえんだよなあ」
惜しいという感情は湧いてこなかった。すでに自分の中でも気持ちが冷めていたのだろう。
いつもこの繰り返しだった。今回は本気になれるかもしれない。そう思ってもすぐに気持ちが冷めてしまう。
今でこそクラウドに対して熱を入れているが、いずれ同じようになってしまうのだろうか。
ザックスの頭の隅に氷のように冷め切った考えが湧いてきた。