粉雪
  




第十二話 凍てつく雪は太陽を拒む       side:Cloud



「今日の合同訓練一緒だったんだな」
 ソルジャー部門と治安維持部門との合同訓練が終わった後、ザックスは機具の片付けをしているクラウドの元へ真っ直ぐ向かって来た。
 表面的には楽しそうに会話しているように見えるのだろう。二人の方にその場の視線が集まる。ザックスにとってそれは慣れ切ったもので気にもならないのだろうが、クラウドにとってこれほど居心地の悪いものはなかった。
 元々目立つのは好きではない。それにザックスと仲がいいと勘違いされれば余計なやっかみを抱かれ兼ねない。
 片付けを終えたらさっさとここを離れよう。そう思っていたが…。
「なあ。今度メシ食いに行こうぜ」
「え?」
 片付けを終えた途端に告げられた誘いの言葉にクラウドは振り向いた。するとザックスは歯を見せて笑いかけた。
「この間のミッションのお礼させてくれよ。うまい店あるんだ。な?」
 やんわり断ってもお礼がしたいの一点張りでザックスは一歩も引かなかった。周囲の視線は自分たちの方へ集まっている。断り続けている限りこれが続くのだろう。クラウドは耐え切れなくなり、ついには誘いに応じた。
「…わかりました」
 強引に押し切られ、クラウドも頷かざるを得なかった。
「じゃあ決まりな。…そういえばアドレス聞いてなかったよな。教えてくれよ」
 そう言ってザックスは携帯をポケットから取り出す。断る理由も浮かばず、クラウドも渋々業務用の携帯を取り出してアドレス交換を行った。
 それが済むとザックスは訓練場からさっさと立ち去ってしまった。一人残されたクラウドは向けられる視線から逃れるようにその場を後にした。



 * * *



 クラウドが訓練場の外廊下を歩いていると、同じ一般兵から声を掛けられた。
「ストライフ…てめえ今度はザックスさんに媚び売ってんのか?」
「お前みたいなのが側寄れるような人じゃねーんだよ」
 まただ。ザックスが親しげに接して来るから反感を買ってしまった。
 神羅軍に入隊する人間は英雄セフィロスへの憧れによる者がほとんどだ。クラウドも例に漏れない。そしてセフィロスだけでなく、一般兵にとってソルジャーそのものが羨望の的だった。
 その中で異例の速さでクラス2ndに昇進したザックスに心酔する者は少なくない。功績だけでなく、それを鼻にかけない気さくな人柄に因るところも大きかった。故に一般兵からの信望も篤い。
 だからこそ、自分のような鼻つまみ者が構われればこうなることは目に見えていることだ。それをザックスはまるでわかっていない。その無神経とも取れる行動がクラウドの心を淀ませていく。

(わざとやってるのか?うんざりだ……)

 淀んだ心に更にずかずかと踏み込んでくる目の前の二人に、クラウドは怒りの感情を静かに煮えたぎらせた。
 黙ったままのクラウドを片方が手で小突き始めた。
「ミッションの時にザックスさんに面倒看てもらったんだってな?」
「勘違いしてんじゃねえぞ。あの人は誰にでも世話を焼く人なんだよ。まさか特別扱いされたとか思ってんじゃねえよな?」
 誰に対してもおせっかいを焼いてることくらいわかってる。気まぐれで相手をしていることくらい承知しているし、言われるまでもないことだ。こんな下らないことでいちいち絡まないで欲しい。
 言いたいことはいくらでもあったが、クラウドは何も言わず、二人から視線を逸らしたまま石像のようにじっと耐えた。
 ザックスから構われれば構われるだけクラウドはみじめな気持ちになった。まるで自分との違いを如実に見せつけられているようで。
「お前、何とか言えよっ」
「おーい、クラウド」
「!?」
 掴まれていた胸倉が解放され、クラウドは声のした方向――ザックスの方を見やった。
「さっきメール送ったからな」
「…はい」
 クラウドは小さく言葉を返し、ザックスと絡んでいた連中に背を向けて反対方向へと歩いて行った。

 なぜ余計なことをするんだ。ただでさえ狭いオレの居場所をどんどん狭めていくような真似をして何が面白いんだ。
 まるで自分を目新しい玩具のようにしか見ていないザックスにクラウドの苛立ちは募っていく。
 鬱積した苛立ちは憎悪へと色を変えていった。





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