粉雪
  




第九話 好奇心       side:Zack



 治安維持部門との合同ミッションが終わり、ミッドガルに帰還した後も、ザックスの頭からはクラウドのことが離れなかった。
 ミッション後に援護射撃の礼を言おうと麓の停車場所でクラウドを探したが、早々に輸送車に乗ってしまったのか、顔を会わせることは叶わなかった。
 結局まともに話すことが出来たのは介抱した時だけだ。
 すぐにでも機会を作って話をしてみたいと思ったが、報告書の作成など副隊長に任命された為、今回は普段より事務処理を多くこなさなければならない。タイミング悪く魔晄照射を受ける時期とも重なり、そっちの方に割く時間が取れなかった。

 そしてミッションから3日後、ザックスはやっとそれらから解放され、クラウドのことへ気を向ける余裕が出来た。
 クラウドの所属部隊は先日のミッション報告を調べればすぐにわかる。しかしそれで直接会いに行くのは何となく気が引けた。自然を装ってばったり会えないものだろうかと考えたがいい案が浮かんでこない。
 その日、同じく本社に出社していたカンセルと昼を一緒に食べる機会が出来たので、ザックスはミッションの話ついでにクラウドのことを話した。情報通を自負するカンセルであれば何か知っているかもしれないと期待してのことだ。
「金髪で色が白くてさ。援護射撃も上手かったし、中々の腕だったんだけど乗り物酔いがひどいみたいで。お前知ってる?クラウドっていうんだけど」
「いや、知らないな」
 あっさりと期待を裏切られ、ザックスは大げさな動作で頭を垂れる。
「ちぇー。なんだよ、情報通のくせに…」
 口を尖らせて文句をこぼすザックスにカンセルは声を顔を引きつらせながら反論した。
「あのなあ!ただの一般兵のことまで逐一把握してるわけねえだろ。明日治安維持と合同訓練あっただろ。そこで探せば」
「あ、そっか」
 しかしそれでは情報通の名折れだと、カンセルはクラウドについて調べておくと約束した。
「お、いいね。さすが、持つべきものは情報通の友達だな」
「…ったくよー」
 調子のいいことを言いながら背中をバンバン叩いてくるザックスを適当にあしらうと、カンセルは残りの昼ごはんをかき込んで席を立った。



 * * *



 翌日、ソルジャー部門と治安維持部門とで合同訓練が行われた。参加メンバーにクラウドがいないか、ザックスが訓練場を隈なく探すが、一向に見つけることが出来ない。
 そこで訓練場にいた一般兵の一人に訊ねてみることにした。
「あのさ、クラウドってやつは参加メンバーにいないのか?」
「クラウド?ああ…今日の訓練には参加してないですよ。あいつに何か用でもあるんですか?」
 ただ会いたいからと言うわけにもいかず、ザックスは咄嗟に思いついたことを口にした。
「いや、大したことじゃないんだけど……そう、この間一緒になったミッションのことでお礼が言いたくてさ」
「確か次回の合同訓練なら参加メンバーに入ってたはずですよ」
「そっか。サンキュ」
「声掛けておきましょうか?」
 下手なことをすると身構えられてしまうかもしれない。ザックスは申し出を丁重に断ってその場を後にした。

 何を慎重になっているのだろう。
 ザックス自身不思議に思った。そもそも何が気になってクラウドのことを嗅ぎまわっているのか。
 端麗な容姿に惹かれたのは事実だが、それだけで追い回すような趣味は持ち合わせていない。
 脳裏に浮かんでくるのはあの瞳。初めて顔を合わせた瞬間に惹きつけられた。吸い寄せられるような深い蒼の瞳がまるで自分に何かを訴えかけているようで…。
 それが何なのか知りたいからだろうか。それすらもよくわからなかった。

「そういや、昼飯どこで食ってんのかな」
 そうつぶやいてから、これだとザックスは指を鳴らした。食事の時に偶然見つけたということにすれば自然に会話出来るはずだ。
 しかし思い返してみてもこれまでクラウドの姿を社員食堂で見た覚えがない。社員食堂ではソルジャーも一般兵もマスクを取っているから、視界に入っていればあの金髪を見逃すことはないはずだ。
「…となると外か?」


 翌日の昼、ザックスは早速パンと飲み物を片手に屋外で食事を取れる場所を適当にうろついてみた。普段会社にいる時は専ら社員食堂を利用していたので、少し新鮮な気持ちになりながら屋外の昼食風景を見やった。
 眺めのいい場所は神羅に勤めているOLたちが陣取っていて、クラウドの姿はなかった。
「おっかしいなー。どこで食ってんだ?」
 細身の身体をしていたし、食が細そうな印象ではあったが、いくら何でも食事を取ってないということはあるまい。軍隊の仕事はそこまで楽なものではない。
 めぼしい場所は粗方回ったが、結局その日はクラウドを見つけられなかった。ザックスは諦めて適当に空いてる場所で食事を取った。
 もしかしたら今日は昼当番の仕事を回されているのかもしれない。明日また探してみようとザックスは包装紙を詰めたビニール袋をゴミ箱に放り込みながら本社に戻っていった。




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