クラウドは無我夢中で身体を鍛え演習をこなした。
筋肉が人より付きがたい体だとわかったのはミッドガルに来てしばらく経ってからだった。それでも努力すればいつか実ると周りが遊んでいる時間も鍛練に当てた。
ストライフは堅物で遊びにも誘えない。
最初はそんな印象を持たれていたが、いつしか仕事外の時間に何をしているかわからない。何かいかがわしいことをしているんだろう。そんな風に話が擦り変わっていった。
たまに演習の成績を褒められることがあっても、容姿を利用して色を付けてもらっているからだと囃し立てる者もいた。
* * *
ミッドガルに来たばかりの頃に比べれば背も伸びたし、筋力もついた。それに加えて元々ケンカっ早い性格もあって、抗うことを止めないクラウドが軍の人間から襲われることもなくなっていった。
相変わらず上官の誰と寝ただのと下世話な噂が付き纏ったが今更だとクラウドも徹底して無視することにした。
そんなある日、クラウドは上官から執務室に呼び出された。
技能面での成績が優秀だと褒められ、この調子でいけば上等兵へ昇進も可能だろうと告げられた。
上等兵に昇進出来たからといって管理部門の異なるソルジャーになる際に有利に働くということはない。それ自体はソルジャーを目指すクラウドにとってあまり意味をなさなかったが、評価してもらえたことは単純にうれしい。
クラウドはピンと背を伸ばして上官に敬礼すると、執務室から退室しようとした。
「まあ待ちたまえ」
「は?」
声を掛けられ、振り返ると上官が軍靴を鳴らしながらクラウドに近付いてきた。
「すぐにでも昇進したいとは思わないかね?」
「…それは一体どういうことでしょうか?」
クラウドが聞き返すと、上官はニヤリと笑い、その顎を捕らえた。
「君もわからないわけではないだろう。他の連中にやってることがこの私に対して出来ないわけでもあるまい」
ああ、そういうことかと評価されたことに珍しく胸の躍る思いだったクラウドの心はスッと冷めていった。
なぜ正当に評価してもらえないのだろう。どれだけ努力しても実力を認められないのだろうか。その上、あの不快な噂を実際にしているかのようなことまで言われた。
腸が煮えくり返るほどの憤りを感じながらもそれは表に出さず、クラウドは頭を振って上官の手を払った。
「自分はそのようなことをする気はありませんし、したこともありません」
強い意志を持ってきっぱりとそう告げると、上官がクラウドの頬を叩いた。
「命令に従えないというのかね」
「…っこんな命令に従うつもりはありません!」
クラウドが睨むと、上官は呆れたような表情を浮かべた。そしてまるで手のかかる子供に説教でもするように言った。
「君は生き方が不器用だな。もっと上手く世渡りした方が君も楽なんじゃないか?その容姿ならなおさらだ。無理に虚勢を張ることもないだろう?」
それは理不尽な暴力と蔑みに懸命に抵抗を続けてきたクラウドの信念を根底から覆す言葉だった。
この人は一体何を言っているんだ…。
自分のしてきたことが間違っていたと言いたいのか?
諭すような口調がクラウドの自我を乱す。眩暈に似た感覚に襲われ、意識が現実を拒否しようとする。何かが壊れようとしていた。
上官は呆然とするクラウドの腕を強引に引っ張り、執務机にうつぶせに押し付けた。
「私はブロンドが好きでね…」
自らの生き方を否定され、またあの不快な行為を強制されようとしている。現実に押し戻されたクラウドは子供のように喚いた。
「いやだ!こんなのいやだあ!」
「暴れるのはやめるんだな。所詮一等兵の君が敵うわけがないだろう」
上官の体躯は大きく、筋力が上であることは見た目からでも容易に推測できた。実際抵抗しようにも片手で背を押さえつけられただけで、身動きが満足に取れない。そのままベルトが外され、ズボンをズリ下げられた。当然初めてではないが、この瞬間の恐怖はいつも変わらず襲ってくる。
「ひっ…」
思わず息を飲んだクラウドに上官が猫なで声でつぶやいた。
「大人しくしてればひどくはしないさ。上等兵への昇進もきちんと取り計らってやろう」
「う、あ!いや…だぁ……」
こんな形で認められたってうれしくない。実力でのし上がりたかったんだ。
犯されながらクラウドは涙を流した。身体の痛みより、己の無力さがくやしくて涙が止まらなかった。