地上に落ちた雪は白く降り積もり、やがて溶けていく。
多くの人々の足で踏みしめられながら、泥にまみれて黒く汚れた雪は
空から降り注いだ時の美しさなど見る影もなくなって…やがて土に汚れて氷結していく。
* * *
クラウドが神羅軍に入隊してすぐのことだった。
先輩の一般兵が金髪がきれいだの、肌が白いだの、瞳が美しいだの歯の浮くようなことを言いながら近づいてきた。
そんなことを言われて男が喜ぶとでも思ってるのか。郷里の人間から容姿のことで同じようなからかわれ方をされていたクラウドはうんざりしながら、なるべくその男と関わらないようにした。
しかし、その男は二人きりになった隙を見計らって襲ってきた。
たまたま一緒の仕事を回された時に、その男は豹変した。暗がりにクラウドを押し倒すと、制服に手を掛け始めた。
「ストライフ…オレ、お前が入隊した時から気になっててさ…」
「…何するんだ!」
「お前のこと好きなんだよ…なあ、いいだろ?」
「やめろ!いやだ!!」
突然のことに何が起こったのかクラウドはわからなかった。何のつもりでこんなことをするのか理解出来ない。寸でのところでその男から逃れると、クラウドは二度と近づくなと怒りを露わにして告げる。どうなることかと思われたが、その男はあっさり身を引いていった。
こんな目に遭うなんて予想もしてなかった。郷里でも同年代の少年たちと不仲ではあったが、さすがにこんなことはされなかった。なぜあんなことをしてきたのか、気持ち悪くて仕方がなかった。
だがソルジャーを目指してやって来たのにこんなことで諦めて逃げ帰るのはクラウドのプライドが許さない。
きっとあの男はどこかおかしいんだ。あの男はもう近寄って来ないだろうし大丈夫だろうとさっさと忘れることにした。
クラウドが安心出来ると思ったのも束の間で、別の男がまた近づいてきた。今度は歯の浮くようなセリフなどもなしに人気のない場所でいきなり襲ってきた。
「暴れんじゃねえよ」
「やめろ!やめろ!!何でこんなことするんだよ!?」
クラウドの悲痛な叫びを嘲笑うかのようにその男は言った。
「軍隊に来ておいて何言ってんだ?お前みたいなのはこうなるのがお決まりなんだよ」
「……っ」
男の口からついて出た言葉にクラウドは絶句した。
こうなることは最初から決められたことだと。最初に襲ってきた男やこの男のような連中から標的にされるのが自分に課せられた運命なのだと。そう告げられたのだ。
そんなことに「はいそうですか」と従えるわけがない。クラウドは必死で抗った。
しかし体格は向こうの方が上で、クラウドの抵抗はそこを貫かれた瞬間に止まった。
もうこうなってしまっては、暴れるより身を任せた方が身体への負担が少ないと本能が感じ取った。
乱暴な行為が終わると、その男は笑いながら屈辱的な言葉を吐いていった。
「なかなかよかったぜ。また頼むわ」
…どいつもこいつも同じような目で自分のことを見ているのだろうか。うんざりだ。
母親譲りのこの容姿をこれほど呪わしく思ったことはない。
自分に構ってくる連中はまたあの行為をしようと思って近付いているんだ。ここにいる誰も信用出来ない。クラウドは次第に疑心暗鬼になり、周りにいる人間が皆、敵として映るようになった。
同情する者もいたが、警戒心で凝り固まっている状態のクラウドに親しい友人を作ることも出来ず、徐々に孤立していった。元より人付き合いというものが苦手だった為、状況は悪化していく一方だった。
生意気な新入りへの洗礼と称して行われる行為がクラウドの肉体を更に疲弊させる。
それでもクラウドは屈しなかった。身体を犯されたとしても心まで犯すことを決して許さない。
心ない人間が「ストライフは売りをしている」と噂したが、クラウドの心は折れなかった。根も葉もない噂だと自分がわかっていればそれでいい。ソルジャーになりさえすれば、あんな連中など黙らせられる。好奇の眼差しも一蹴出来る。
ソルジャーになる。ただそれだけを支えに…。