ソルジャー用の輸送車の中でもクラウドはだるそうに車体に身体を預けていた。しかし一般兵用のトラックよりは幾分マシなようで、顔色はそれほど悪くないようだった。
移動の車中、ザックスは幾度となくクラウドへと視線を運んだ。
どこか冷めたような、それでいて奥に熱を秘めているような、不思議な瞳に引き込まれた。
幼さを残す端正な顔に後ろで小さく結ばれた髪。およそ軍人と思えないその容姿がザックスの庇護欲を駆り立てる。
あれだけ目立つ容姿なら嫌でも目に入るだろうに、なぜあいつのことを今まで知らなかったんだろう…。
そんなことを考えながら周りに憚ることなくザックスがクラウドをじっと見ていた為、周りからニヤニヤと好奇の視線を向けられた。
「なんだよ、そんなにあいつが気になるのか?」
「え?そら気になるさ。具合悪いから連れて来たんだぜ」
当たり前だろうと冷静に切り返すが、
「副隊長殿は優しいな」
「指揮官がすっかり板についてますなあ」
「…指揮官っていうよりは保護者だな」
「ちげえねえや」
…すっかり他のソルジャー連中にからかわれてしまった。
部下が気になっているだけだと平静を装ったが、指摘されてザックスは内心ドキリとしていた。本当に無自覚なまま目で追っていたから。
目的地に到着後、簡単にミーティングが行われると早速モンスター討伐へと向かうこととなった。目標のモンスターが大量発生しているポイントは現在地から獣道を歩いて一時間ほどの場所だ。
先頭と真ん中、そして殿をソルジャーで固めてその間を一般兵が歩く。ザックスは何人かのソルジャーと共に集団の真ん中に混じってポイントへ向かう。
前方と後方に武装した一般兵が何十と連なっていた。あの中にクラウドもいるのだろう。
不意にカンセルが居酒屋でつぶやいていた言葉が頭に蘇って来た。
そっちがそういうつもりならこっちは全員生還でミッションを成功させてやるよ。犠牲者は誰も出させねえ。
ザックスは胸の内で固く誓った。
* * *
目標地点に着くといよいよ戦闘開始となった。
「くれぐれも無茶はするなよ。危なくなったら援護する。思いきり撃ちまくれ」
ザックスの叫びに応えるように鬨の声が上がる。ザックスは背に掛けたバスターソードを手に取ると先陣を切って飛び込んでいった。
普段であればこのままモンスターの集団へ突っ込み、斬れるだけ斬り伏せればいいが、今回は後ろに控えている一般兵を守ってやらねばならない。飛び込み隊長は他のソルジャー連中に任せ、ザックスは適度な距離を保ちながら背後へも注意を向ける。
時間が経ち、混戦になってくるとどうしても負傷する者が出てくる。モンスターも行動の一歩後れ出した者を集中的に狙ってくる。
ザックスは膝をついた兵士の元へ向かい、襲い掛かってくるモンスターの攻撃を阻んだ。
「負傷者はすぐ後ろに下がれ」
「は、はいっ」
そう呼びかけた刹那、斬り伏せたと思ったモンスターが再びザックスに飛びかかってきた。
「あ、やべ…」
しかし振り返った瞬間、全身に浴びせられた銃弾によってモンスターはザックスの目の前で息絶えた。
ザックスは援護射撃が放たれた方へ視線を向ける。サブマシンガンを携えた一般兵から感じる"におい"。マスクで顔が隠れててよく見えなかったが、ザックスには確信があった。あれはクラウドだ。
ザックスはクラウドと思われる兵士に向かって親指を立てると、再び前へと出て行った。
そしてそれから数時間後。モンスターの掃討作戦が終了した。
負傷者が十数名出たが、全員無事での帰還となった。