川遊びに行こう #03



 早朝、ベッドの上で寝返りを打とうとしたクラウドの耳に低い音が聞こえてきた。
「…うるさ」
 クラウドはベッドに横になったままデスクの上で音を立てて振動する携帯に手を伸ばし、それを開いた。半分寝ぼけながら着信ボタンを押すと、聞きなれた声が寝起きの頭に響いた。
「はい…」
『こらー、まだ寝てたのか?』
「…朝からなに」
『バカ、なにじゃねーよ。一緒に川遊び行くっつったろ』
「あ」
 ザックスの言葉を聞いて、クラウドはガバっと起きた。
 前日連絡をもらっていたにも関わらず、川遊びに行こうとザックスから誘われていたのをすっかり忘れていた。
『寮の外で待ってるから早く来いよ』
 通話の切れた携帯をベッドの上に放り出すと、クラウドは大急ぎで支度を始めた。


 慌ただしく支度を済ませて寮の外へ出ると、シルバーの車体がまぶしい四輪駆動車が道路に止まっていた。ザックスはそれのすぐ横に立っていた。
「遅刻だぞ」
「…ごめん」
「まあいいや。乗れ」
「買ったの?」
「いや、借りた。これ前から乗ってみたかったんだよな〜」
 ザックスはうれしそうに車体を撫でる。見るからにアウトドア用だが、こんな車を借りてくるということは山道を入ったりするのだろうか。クラウドは助手席に座りながら今日行く場所の詳細を全く聞いていなかったことに今更気付いた。
 やがてエンジンがかかり、早朝の静かな道路に排気音が響き渡る。
「シートベルト締めたか?」
「うん」
「じゃ、出発すんぞ」
 車は市街を抜けてハイウェイへと向かって走り出した。
 朝早いので周りを見ても走行している車はほとんどない。時計を見ると六時半を過ぎたところだった。本来であれば、六時に出発する予定だったので、三十分遅刻したことになる。
「ったく。あんだけ行くぞって言ったのに、お前ってやつは」
「ごめんってば…」
 言い訳をすれば、昨日回された仕事がかなり忙しかった。ただでさえ忙しいのに暑さにやられて倒れた同僚の仕事まで任された為、寮に帰った頃にはヘトヘトになっていて翌日の準備などする余力もなかった。

「そういえばどこまで行くの?」
「ミッドガルからそう遠くないところにいい渓流があるんだよ。前のミッションでたまたま見つけたんだけどさ」
「へえ。でもそんないいところ、今の季節混むんじゃないの」
「穴場っぽいから多分人いねえよ。お前、人混み嫌いだろ」
 それを考慮して選んだ場所だという。相変わらず細かいところを覚えているなとザックスのマメさにクラウドは改めて感心する。
「それより、朝メシ食ってないだろ?」
「うん…ていうかお昼ごはん忘れた…」
「んなこったろうと思ってオレがちゃーんと用意しておいたよ。ありがたく思え」
 ザックスが言いだしっぺではあるが車にしろ食事にしろ、色々と気を回してもらってクラウドも申し訳なくなってくる。
 朝慌てて詰めたリュックサックには寝起きで準備したせいか、なぜこんなものを…というような川遊びに到底使わないであろう物ばかりが入っていた。実質的に必要な物は全部ザックスに用意してもらったも同然だった。
「腹減ってるなら後ろに昼用のタッパ置いてあるから摘んでもいいぞ」
「じゃあ…せっかくだからもらう」
 後部座席に置いてある荷物に手を伸ばし、弁当の入ったカバンを引き寄せる。タッパの一つを開けると、形は不格好だったが何種類かの具をはさんだサンドウィッチが入ってた。
「これザックスが作ったの?」
「早起きしてせっせと作ったんだぜ。オレっていいお嫁さんになれるよな〜」
「そうだね。おいしいし」
 クラウドは一際厚みのあったホットサンドを口に入れた。少々焦げが目立つが味は全く問題ない。まだ作って間もないのかほんのり暖かい。さっくりとした食感が食欲をそそる。
 ザックスは時間が許す限りはなるべく自炊をするようにしていて、簡単な料理くらいはお手の物だった。このお弁当も朝の短い時間で用意したにしては上手に出来ていた。
「川遊びなんて久しぶりだから何か張り切っちまったよ」
 でかい図体をしながら甲斐甲斐しく弁当を作る姿を想像してクラウドは少し噴き出した。
「なに笑ってんだよ」
「ん、おいしいなって」
「どうせちまちま弁当用意するオレの姿想像して笑ったんだろ」
「うん」
 クラウドが素直に返事をすると、ザックスは片手でその頭を軽く小突いた。車中で二人がじゃれ合っているうちにハイウェイに着いた。



 * * *



 ハイウェイを抜け、平原へ、そこから更に車を走らせて小高い山を少し登ったところにその川はあった。初夏の日差しを受けてキラキラと輝く川面が美しい。ミッドガルから車で二時間ちょいの場所にこんなところがあるということが純粋に驚きだった。そしてミッドガルの人間からすればレジャーにはちょうどいい距離と景観にもかかわらず、二人以外は人影も見えない。
「…すごい。本当に誰もいないや」
「だろ。オレの目に狂いはなかったな」
「うん」
 川の流れは緩やかで、遊泳するにもうってつけの場所だった。
 車を降りると、二人は靴を脱いで早速川に入っていった。
「わっ冷たい」
「川の水ってちょっと冷たいからな」
 心地よい冷たさを足に感じながら、ザックスにとっては久々の、クラウドにとっては初めての川遊びに二人は胸を躍らせた。
「よし、せっかく来たんだから泳ぐぞ」
「ここで泳ぐの?水着持って来てないけど」
「そんなの裸になればいいだろ」
「ええ?」
 そうこう言っているうちにザックスは着ているものをさっさと脱ぎ捨て、川の中に飛び込んだ。
「っかー、やっぱ気持ちいいなあ!」
 久々の川遊びにザックスは童心に帰って泳ぎ回った。ゴンガガにいた頃は毎日のようにこうして川遊びに興じていた。その頃が懐かしくなる。
 一方、クラウドはまだ躊躇っているようで、服を着たまま浅瀬に立っていた。ザックスのように思いついたら即行動ということが出来ないクラウドらしく、ミニタオルしかないけど身体を拭くのをどうしようとか、水温が結構低いが風邪を引かないだろうかと頭の中でああでもないこうでもないと考えを巡らせていた。

 しばらく一人で泳いでいたザックスは水面から顔を出すと、後ろを振り返りながらまだ浅瀬にいるであろうクラウドに向かって叫んだ。
「おーい、早く来い…」
 するとすでに服を脱いだクラウドが後ろに立っていた。
同 性だというのに、自分の浅黒い肌とはまるでちがうクラウドの白い肌に、ザックスは一瞬息を呑んだ。プールでも見たはずだが、裸と水着姿では受ける印象がまるで違った。ただきれいな身体だと思った。
 自分でも気付かないうちにジロジロとクラウドの身体を見ていたのだろう。黙ったままのザックスを不審に思ったクラウドが口を開いた。
「…なに?どうかしたの?」
「え、いや。別に。ほれ、こっち来いって」
「あ、ちょっと…!」
 ザックスはぐいとクラウドの腕を引っ張ると自分の方へと引きこんだ。その拍子にクラウドは水しぶきを上げて川の中へ沈んだ。水中から飛び跳ねてきた魚のごとく、クラウドは勢いよく川から飛び出てきた。そして笑いこけているザックスの元へと近付いた。
「…もうっ!危ないな!」
「ははは、こんなの大したことないだろ」
「この!」
 クラウドは笑うザックスに思い切り水を掛けてやった。
「こいつやったな!」
 ザックスも負けじと水を掛け返す。二人は子供のようにはしゃぎながら互いに水を掛け合った。
「な、面白いだろ」
「うん」
 自分と同じく子供のようにはしゃぐクラウドを見て、連れて来てよかったとザックスもうれしくなった。



 * * *



 すっかり川に慣れたクラウドが自分から離れて対岸側へと向かって行ったので、ザックスは声を掛けた。
「あんまり奥行くなよ。深くなってるから」
「わかった」
 しばらく水面から顔出して川中を歩いていたが、深みに足を取られたクラウドが水中へ沈んでしまった。
「バカ…!」
 言わんこっちゃないとザックスが急いでそちらへ向かって泳いでいくと、まるでそれを待っているかのようにクラウドが静かに水中を漂っていた。気を失っているのか、身動き一つしないクラウドの身体を抱きかかえると、ザックスは水面へ向かって一気に上昇した。
「おい、大丈夫か?」
 ザックスが呼びかけても身体を揺さぶっても返事はない。ザックスは急いで川から上がり、平らな岩の上にクラウドを寝かせた。飲んでいた水を吐き出させるが、それでも意識が戻らない。
 ザックスは気道を確保すると、慣れた動作でクラウドに人工呼吸を行った。数回それを行うと、クラウドの瞼が静かに開いた。
「…え…ザックス何して…」
「気が付いたか?お前川で溺れたんだよ」
 まるで溺れていたのがウソのようにケロッとするクラウドにザックスは脱力した。とりあえず何事もなくてよかった。これで水を怖がるようになってしまっては元も子もない。
「あ…そうだったの…」
「そうだよ。心配かけんな…」
 存外落ち着いた様子のクラウドをザックスは腕の中に抱き入れた。
 ザックスは腕の中のクラウドの冷たさに気付き、一旦休もうと言った。

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