メール談義から二週間経った。相変わらずクラウドからメールが送られてくることはない。それどころかこの二週間クラウドとまともに話をしていない。
たまたま顔を会わすことがないだけなのかもしれないが、これまで毎日のように顔を合わせていたのにこれでは、どこか意図的なものを感じる。おまけにこちらから送ったメールの返事すら来なくなった。
あれ…オレもしかして避けられてる?
そんな不安が胸を過り、ザックスは情報通の友人カンセルにどこかでクラウドを見掛けたら連絡をくれと頼んだ。カンセルもソルジャーなので一般兵であるクラウドとは行動範囲に差異があるが、ダメ元でお願いしたところあっさり居場所を知らせる連絡が来た。
『さっき本社の第5資料室の方に歩いて行ったぞ』
「お、サンキュー」
『てか…お前何やってんの?』
「何ってクラウド探してんだよ」
『いや、アドレス知ってるんだから直接連絡取ればいいだろ』
「ん…その、事情があってだな…」
『…まあ頑張れよ』
友人の暖かい応援を貰い、ザックスは仕事を一旦切り上げ、教えてもらった第5資料室へ急いだ。
第5資料室へ続く廊下を早足で駆けていると、ちょうど向こう側から見覚えのある金色のツンツン頭が見えた。ザックスは声を掛けようと近付いたが、それに気付いたクラウドはなぜか反対側へ向き直り、逃げるように走り去った。
「ちょ…何で逃げるんだ!?」
慌てて追いかけるが、前方の十字路を左折した後どこかの部屋に隠れてしまったのか、文字通りザックスの前から姿を消してしまった。
…避けられてるどころか、嫌われた!?
強烈な拒否反応を示され、ザックスはがっくりと肩を落とした。
二週間前、会話している最中に突然クラウドの様子がおかしくなったのは覚えてる。しかし記憶にある限り、いきなり避けられるほどの発言をした覚えはない。もしかしてメールを寄越せとしつこかったから怒ってしまったのだろうか?
もう一度会話の一つ一つを思い出してみる。
―――例えばお前だってオレの顔見ながらだとちょっと言いにくいこととかあるだろ?
…これか?オレに対して何か言いにくいことでもあったのだろうか。
「前から思ってたけど、ザックスのことウザかったんだ。金輪際オレに近寄らないで」
想像をしただけで目の前が真っ暗になった。そんなことをメールででも言われようものなら、しばらく立ち直る自信がない…。
落胆した様子でザックスは元来た道をとぼとぼと歩いて行った。
残っていた仕事を片付けるべくソルジャー用の執務室に戻ったものの、その後はほとんど仕事にならず、心配した同僚からデスクワークは代わりにやっといてやるから帰れとまで言われた。ありがたい申し出だったが、帰ったところで事態が好転するわけでもなく、何か気を紛らわしたかったのでそのまま残って仕事を続けた。
しばらくして執務室に戻って来たカンセルは何かを察したらしく、同僚たちに「しばらく放っておいてやれ」と言っていたが、それがザックスを一層惨めな気持ちにさせた…。
* * *
兵舎の自宅に戻ったザックスは背中からベッドに身体を沈めた。
二週間連絡がなかったのも顔を合わせることがなかったのも、忙しかったり偶然あることだと自分に納得させることは出来た。
しかし今日のはさすがに堪えた。顔も見たくないのだろうか。あれほどあからさまに避けられればそんな疑問も当然浮いて来る。
「何でこうなっちまったかなあ…」
クラウドに関しては空回りしてばかりだ。惚れた弱みというやつなのだろうが。
(メール送ってもらいたかっただけなんだけどな…)
そんなささやかな願いを持ったことすら今は厭わしい。あの時あんな風に迫らなければこんなことにならかったかもしれないのにとザックスは自分の行動を悔いた。
そんなことを考えていると、リビングに置きっぱなしにしていた携帯が鳴った。
ザックスはベッドから飛び起きるとすぐさま携帯を取りに行く。見なくても着信音で誰から来たのかはわかるが、それでもドキドキしながら携帯を開くと、果たしてクラウドからメールが届いていた。
初めてのクラウド発のメール。うれしいはずなのにボタンを押すことを躊躇してしまう。
もしもう会いたくないなんて書かれていたら?ザックスとはもう付き合いきれないと書かれていたら?
ネガティブなことばかり浮かんできてなかなかメールを開く気にならなかったが、今更何が書かれてようがもう状況は変わるまいと受信メールを開くべくボタンを押した。
From :クラウド
Subject:無題
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さっきはごめん。突然逃げたりして、本当に悪かったと思ってる。
メールの返事もしてなくてごめん。ちゃんと読んでたし、返事もするつもりだっ
たんだ。
この間ザックスから言われたことずっと考えてた。
言いづらいこと、あるんだ。でも言うのが怖くてずっとどうしようか迷ってた。
メールでなら書けるかなって思って、書いてみたんだけどやっぱりダメで何度も
書き直したけど結局送れなかった。
でも今日あんなことして、ザックスに誤解されるのは嫌だから書くことにした。
ザックスに遊びに誘ってもらったり、一緒にごはん食べに行ったりするのが楽し
くて、こんな友達出来るなんてこっちに来た時には思ってなかったからすごくう
れしかったんだ。母さんへの手紙にザックスのこと書いたら母さんも喜んでくれ
て、この関係がずっと続けばいいなって思った。
だけど最近そうじゃなくなった。ザックスのこと考えると何か変なんだ。多分オ
レの中でザックスはもう友達じゃないんだ。どうしたらいいのかわからなかった。
今の関係壊したくないからずっと黙ってようと思った。でもメールでなら書ける
かなって思って何度もメール書いてたら、もうザックスの顔見るのも恥ずかしく
なって顔合わせられなくなった。だから今日も逃げちゃったんだ。
あんなことするつもりじゃなかったんだ。あの時ザックスのことを考えてて、そ
したら突然目の前にザックスがいたからびっくりして。
オレ、ザックスのこと好きなんだ。気持ち悪いって思うかもしれないけど…。
本当はこういうこと直接言わないといけないってわかってる。ごめん。
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ザックスはメールを何度も繰り返し読む。
そして矢も盾もたまらずメールを打つと一般兵の寮へと向かって走って行った。
From :ザックス
Subject:Re:無題
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オレもお前のこと好きだ
今すぐ会いたい
つか今からそっち行く
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