クラウドは結構筆まめである。
実家の母親に月に一回は近況報告で手紙を出しているそうで、その姿を見てザックスも実家を飛び出てからろくに連絡を取っていない両親に手紙の一つでも送ろうかと一度は思ったものである。実際のところ何を書いたらいいのかわからなくなり途中で投げ出した。
とにかく手紙を書くこと自体は嫌いではないはずなのである。
なのに。
「…なんでオレにメールくれないの?」
メール魔であるザックスはアドレス交換してからクラウドに頻繁にメールしているが、自分が送るメールの返信は来てもクラウド発のメールはアドレス交換をして大分経つが、いまだに一回も来てない。…正確には一度来た。アドレス確認の為に送られて来たメールが。
返信の内容も「わかった」「今日はダメ」「いいよ」という端的で何とも味気ない一言メールばかりだった。
「毎日顔合わせてるのになんでメールする必要があるの?」
クラウドに言わせれば言いたいことは直接言えばいいし、口頭で言えば済むことを敢えてメールすることが理解出来ないのだという。これはザックスに対してだけではなく誰に対してもこうなのだ。
そもそも彼がアドレス交換した人間はザックスを含めて指で数える程度しかいないそうだが。
「お前この間オレが遠征行ってた時もメールくれなかったじゃん」
「え、だって仕事中だろ?」
遠征期間中=ずっと仕事中ということらしい。仕事中にメールなど以ての外なのだという。クソがつくほど真面目な彼らしい。
「ここまで来るとオレにメールしたくないんじゃないのって思えてくる…」
「…だって何書いたらいいのかわかんないよ」
「な、何だっていいだろ?今日の昼ごはんのこととか、いい天気だから空の写メ送るとか」
「社食のA定食の写メなんか見て楽しいの?空だって屋外に出れば見えるし」
ある意味すごく合理主義なのかもしれない。
正攻法は通じないとザックスは子供のようにねだり出した。
「それでもクラウドからメール欲しいんだよ〜。なあくれよ〜」
「な…なんでそこまでして欲しいんだよ…」
「お前がくれないからだよ」
「わけわかんない…」
「だってせっかくアドレス交換したんだぜ?」
「でもメールより会って顔見ながら話した方が楽しいよ」
「…ん?それってオレと会って話すのが楽しいってこと?」
「え、いや、うん…」
「オレと直接会って話したいからメールしないってこと?」
「な…何でそうなるんだよ!そんなこと一言も言ってないだろ!?」
赤面しながら抗議するクラウドに平謝りしながら、あながち外れでもないんだろうかとザックスは淡い期待を抱いた。
アドレス交換した当時はたまたまミッションで一緒になったから交換しただけだった。クラウドに限らずミッションに参加した人間とメアド交換をするのがザックスの習慣になっていた。
が、それからというものザックスの中で彼の存在が日に日に大きくなっていった。
最初は単純に男にしてはかわいい容姿をしていたから気になって目で追うようになった。しかしごはんに誘ったり、自宅に招いたりするうちに段々気持ちが変わっていった。
警戒心が強く人見知りなせいか、打ち解けるまでに時間は掛かった。しかし打ち解けさえすればクラウドは様々なことを話すようになった。
故郷でのこと、仕事のこと、ソルジャーになりたいと思ってること、料理が壊滅的に苦手なこと。そうやって自分のことをたくさん話してくれた。当たり前のことだが喋らないだけで胸の内に秘めていることはいくらでもあるのだ。
どうも故郷での対人関係の悪さをそのまま引きずっているようで、こちらでもなかなか交友関係を築けないでいることもわかった。
そういう自分以外の誰も知らない面を知るようになって、いつの間にか友達以上の感情を持つようになっていた。
いつか気持ちを伝えようと思いつつも、この関係が壊れることを厭い、中途半端な気持ちのまま過ごす日々が続いている。
「そもそもメールってどこがいいの?」
「手紙や電話と違って気軽に送れるだろ?あとほら、口では言いにくいこともメールでなら書けることもあるし」
「口で言えないことって?」
「あー…告白とか?」
「…そんなのメールで済ますものなの?」
「まあ…それで済ましてるやつも中にはいるぞ」
「そう、なの」
「例えばお前だってオレの顔見ながらだとちょっと言いにくいこととかあるだろ?そういうのを送るとかさ」
「………」
「え?」
急に黙りこくってしまったクラウドは「今日はもう帰る」と一言残して寮へ帰ってしまった。
「…オレなんかまずいこと言ったっけ?」