女の子たちとの飲みは思っていたほど楽しくなかった。何か物足りない気がした。
夜になって自宅に帰ると、そこはもぬけの殻だった。ルームメイトと言っていたあいつはどこへ行ったのだろう。
まあそのうち戻って来るだろう。
ベッドに身体を沈めると睡魔が襲ってきた。
夢の中でも眠くなるなんて、不思議な夢だ…。
* * *
夢の中で夢を見た。
あいつが泣きそうな顔をしていた。どうしたと聞いても何でもないとしか言わない。
何でもないわけがない。身体に見た覚えのない痣が出来てる。
それを指摘しても階段で転んだと言い張って口を割らなかった。
その原因は知り合いが教えてくれた。
誰かからオレのことで心ないことを言われたからだという。
その誰かとはオレの後輩だった。
どうするか悩んだが、泣きそうなあの顔が頭にちらつき…後輩に会いに行くことにした。
「…どうかしましたか?」
すっとぼけるそいつを睨みながら背後の壁に思い切り拳を叩き付けた。
もうあいつに近付くな。言いたいことがあるならオレに言えと釘を刺すと、そいつはくやしそうな顔をしながら反論して来た。
「何であなたがあんなやつに構うんですか?あいつは…」
何かを言いかけたが、オレの顔を見て一瞬たじろぐと、そいつはそのまま黙り込んだ。
お前がオレの何を知っている?
オレがあいつと付き合おうが何をしようがお前には関係のないことだ。
そう告げると無言で走り去って行った。
後輩にこんなことを言うのはあまり気分のいいものじゃない。だが言わずにはいられなかった。
…肝心のあいつは、その後どうしたんだっけ。
* * *
ちがう夢でもう一人のオレに会った。
もう一人のオレは、どんどん好き勝手なことをしている。
友人と話したり、女の子と遊び歩いたり。
本当はそんなことをしたいんじゃない。やめろと叫ぶと、もう一人のオレがこちらを向いた。
―――じゃあ何がしたいんだ?
そう問われ、答えに困った。オレは一体何がしたかったんだろう?
思い出さないといけないはずなのに…それを思い出そうとするとあの薬品のにおいが鼻を掠め、頭が痛くなる。
あともう少しで思い出せそうなのに、手を伸ばした先に"それ"があるのに、何かが阻む。
"それ"に近寄るな
触れるな
手を出すな
誰かが叫んでいる。
目が覚めても靄で覆われた世界はまだ続く。
欠けたピースは徐々に取り戻していっているのに、最後の一つが埋まらない。
一番大きな、ピースが…。