本社ビルから少し離れた場所に倉庫などがある通称B棟と呼ばれる場所へ足を運んだ。銃器なども収容されているここはビルの陰になっていて昼間でも薄暗い。
今日任されていた仕事は警備だったはずのに、出社してから急にそこの倉庫整理を言い付けられ、だるい身体を引きずりながらやって来た。
ここのところまともに寝ていないせいか、頭が重く鈍痛がする。
重い機材などの整理は気が進まなかったが、気分が乗らないという理由で拒否するなど許されるわけもない。
指示された倉庫に足を踏み入れ、電灯をつけようと手探りでスイッチを探していたところ、誰かに手を掴まれた。
自分以外に誰もいないはずの部屋に誰かがいる。
急に怖ろしくなり、手を振り払い、ドアの方へ向かうと、カギの閉まる音が聞こえた。
一体何が起こっているのかわからず、壁に張り付いて暗がりを見回した。
「よー、ストライフ」
「!?」
脇から突然声が聞こえ、反射的にそちらを振り返る。暗くてよく見えないが、一人ではない、複数の人の気配がする。
倉庫整理は一人でやるという話だったはずだ。なぜここに人がいる…?
「無防備だなあ。こんなところに一人で来て」
目が段々と暗闇に慣れてきた。いつの間にか4、5人の神羅の制服を着た男たちに囲まれていた。
「ザックスさん、もうお前に飽きたんだって?」
「ひどいよなー、簡単に捨てちまうなんて」
「な…何を…」
言っているんだろう?
飽きた?
捨てられた?
「なあ、今度はオレたちの相手してくれよ」
全身に汗が浮かんでくる。何をしようとしてるのか鈍い頭がやっと理解した。ここでの仕事を言い付けられたのも罠だったんだ。
慌ててドアの方へ向かうが、男たちに阻まれ、あっさりと壁際に戻されてしまう。
「や…やだ……」
じりじりと迫ってくる足音が逃げ場を奪っていく。
「オレ結構前からこいつのこと目つけてたんだ。最初にやらせろよ」
「ソルジャー相手に慣らしてたんだろ?たっぷり楽しませてくれよな」
そう言いながら逃がさないよう身体を掴んできた。身体を捩って抵抗しても複数が相手ではまるで効果がなかった。
「いやだあ!離して、離してよ!!」
「騒いだって誰もこねーよ」
背中に衝撃が走る。それと同時ひんやりと冷たい感触がした。床の上に仰向けで倒されたと理解した時には連中の一人が馬乗りになっていた。そして他のヤツが制服を脱がし始めた。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
ザックス以外のヤツにされるなんて、想像しただけでも吐き気がしてくる。
どうしてこんなヤツらに……
これも罰なの?
色々なものがザックスによって守られていたのだと痛感する。
自分がこんなにも脆弱なのだと思い知らされる。
「やだ!やめて!…ザックス助けてっ」
助けを求める声も無碍な言葉の前に崩れて行った。
「来るわけねーじゃん。あの人もうお前のこと何とも思ってないってよ」
「そうそう、お前のこと好きにしていいってさ」
うそだ…うそだ……
でも…ザックスはオレのことなんか忘れてしまって…どれだけ助けを求めても…
タスケニキテクレナイ
無情な言葉を告げられ、抵抗する力もなくなりかけたその時、カギのかかったドアが轟音を立てて開いた。
僅かな期待を込めてそちらに目を向けるが、現れたのはザックスではなかった。薄暗くて顔はよく見えないけどスーツを着込んだ赤髪の男がドアの側に立っていた。
「誰だてめえ」
「あのさあ、今取り込み中だから出て行ってくれない?」
その人はこちらを一瞥するとつかつかと靴を鳴らして歩み寄って来た。
「いたいけな少年を寄ってたかって乱暴するなんてあまりいい気分のするものじゃないぞ、と」
鋭い目つきでオレを囲んでいる男たちを睨みつける。まるで獲物を見据える獣のようだった。連中もそれに怯んだ様子で無言のまま身動き一つしない。
「素直に引き下がれば見なかったことにしてやる。…どうする?」
赤髪の男は手に持った警棒を肩にポンポンと当てる。その動作を見て思い出した。あれはザックスと仲の良いタークスのレノだ。
「…くそ」
タークスが相手では敵わないと諦めたようで、連中はオレの身体を解放すると倉庫から去って行った。
連中がいなくなるのを見届けると、レノはこちらに寄ってきてわざわざオレを助け起こしてくれた。
「あ…ありがとう…ございます」
「お前も色んなやつに好かれて大変だな」
同情か皮肉か…どういうつもりで言っているのかよくわからなかった。
「人気のないところに来る時は気を付けるんだな。どこかの誰かさんがお前とザックスが別れただとか、あることないこと適当なことを吹聴してるらしいぞ、と」
アラン…だろうか。それを聞いてもザックスは何とも思ってくれないのだろうか。
「本当に別れたのか?」
「え?」
いきなり顎を掴まれ、上を向かされる。
「前から気になってたんだけど。いつの間にかザックスのヤツが手つけちまったから」
獣のような瞳が怪しく光る。
先ほどの恐怖が蘇り、レノを身体を突き飛ばす。そして壁に身体を寄せ、守るように腕で身を包んだ。
「やだ…や、やめて…」
「あー、悪かった。冗談だ。今言うと洒落にならんな。お詫びにビルまで送るから」
レノは降参するようにパッと手を上げる仕草をすると困った顔をしながら頭を掻いた。
本社ビルに着くとレノは挨拶する間もなくどこかへと行ってしまった。