ザックスはいまだ戻らず、極秘実験の為、詳細な情報を得ることも叶わない。頼みの綱のカンセルさんからもあれっきり連絡はない。
あれからわかったことといえば、表向きにはザックスがメディカルチェック中に身体に異常が見つかり、そのまま検査入院を余儀なくされたという扱いになっていることぐらいだ。
神羅という組織の怖ろしさに寒気がした。
ザックスのことを隠蔽しようとしている。人一人の命が掛かっているというのに。
ザックスへの思いは日に日に増していく。会いたくて会いたくて堪らない。
遠征で長期間ミッドガルを離れたこともあったが、何かにつけて連絡を寄越してくれていたので、これほど焦がれることはなかった。
一体ザックスはどうなってしまっているのだろう。意識はまだ戻らないのだろうか?それとも…。
その先を考えて涙が浮かんで来る。
ザックスは死んでいない。生きる為に今必死で闘っているんだ。そう自分に言い聞かせる。
ザックスの苦しみを代わってあげられるのなら代わってあげたかった。だけど今は無事を祈ることしか出来ない。
明日こそは無事を知らせる連絡が来ることを信じて眠りにつく。
* * *
実験から五日経った。空っぽの心で過ごしていた日々に転機が訪れた。
その日の業務を終え、本社の廊下を力なく歩いていたところにメールが届いた。カンセルさんからだった。
From :カンセル
Subject:ザックスの容態
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ザックスの容態がわかった。
あれから昏睡状態が続いてたそうだけど、今日目が覚めて今じゃピンピンしてるって。
とりあえずは一安心だな。ただ後遺症があるみたいで、念の為、検査を受けるそうだ。
命に関わるようなものじゃないらしいから安心しろ。
早ければ明日には帰宅出来るかもしれないぞ。
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携帯を抱えたまま、へなへなと床の上にしゃがみこんだ。その横を通りすぎていく人たちが不審な目でオレを見ていたがそんなことどうでもよかった。
ザックスが帰ってくる。やっと会える…。
それだけで胸がいっぱいになった。自分の中でザックスの存在がこれほどまでに大きくなっていたことに改めて気付かされた。
後遺症と書かれていたのが気になったが、命に別状がないならそれほど心配しなくていいのだろう。 しばらくミッションには参加出来ないかもしれないが、数日間意識不明だったんだ。それくらい当然休ませてもらえるはずだ。
明日になれば、ザックスが帰ってくる。折しも、明日は公休だ。ザックスを自宅で出迎えられる。
先ほどまでの重い足取りはどこへやら、オレは小走りで帰宅した。
一日千秋の思いで待ち続けた空虚な時間が終わりを告げようとしている。
会ったら何て言おう?実際に相対すれば、今考えていることなど頭から吹っ飛んでしまうのだろう。とにかく労ってあげたかった。身体は本調子ではないだろうし、日常生活に多少は支障が出てしまうかもしれない。
やれることは何でもやってあげたい。
明日になれば、ザックスと会える。早く明日になって…。