本社ビルから帰宅したザックスは部屋を見回したがリビングにクラウドの姿がないので寝室へ向かった。
果たしてクラウドはベッドの上にいた。ザックスが家を出てから今まで眠っていたのか、裸のままボーっとした様子で視線の先にある壁をただ見つめていた。
まだ寝ぼけているのだろうと、ザックスはベッドに腰を下ろし、クラウドの肩を抱き寄せた。
「クラウド、身体の調子は…」
「やっ!」
その瞬間、クラウドはザックスの手を跳ねのけ、布団で自分の身体を隠した。
家を出た時との様子の落差に驚き、ザックスはクラウドを凝視した。向けられる眼差しには不安と恐怖の色が見て取れた。
「…オレ、なんでこんな格好…」
「あ…」
クラウドの意識がはっきりと戻ったことがわかった。先ほどまでの記憶も徐々に蘇りつつあるようで、クラウドは両手で頭を抱えながら振った。
「…どうして?なんであんなこと…?」
求められたから。それは言い訳だ。
あれはただのきっかけに過ぎない。心の奥底にはずっと抱きたいという欲望があった。
何と取り繕うと現実は変わらない。意識の混濁していたクラウドを手に掛けた。だが誤解はされたくなかった。ただ迫って来られたから抱いたのではないということを。
今言うべきではないかもしれない。しかしザックスは口を衝いて出る言葉を止めることが出来なかった。
「ごめん。今更こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど…ずっとお前のことが好きだった。だから…堪えられなかったんだ。本当はこんな形で言いたくなかった。ごめん…」
その言葉をどう受け止めればいいのか、クラウドはザックスから視線を逸らした。抱かれた後に急に好きだったと言われても素直に受け取ることなど出来ない。ザックスもそれはよくわかっていた。
ザックスから背を向けるとクラウドは布団で身体をすっぽりと包んでぽそりとつぶやいた。
「しばらく…一人にして…」
本当は先ほどレノたちと話してきたことを伝えたかったが今はお互い冷静ではない。頭を冷やす為にも少し時間を置いた方がいいだろう。ザックスは寝室から出て行った。
* * *
リビングの窓から夕陽が差し込んでいた。時間はあまりない。レノたちが手を回してくれている間にこちらもミッドガルを出る準備を進めたい。
ザックスは寝室のドアをちらりと見た。
ミッドガルから逃亡する話を出したところで、クラウドはついていくと言うだろうか?
もう一緒にいたくないと言われるかもしれない。
それを考えた時、ザックスの心にズンと重石が落ちてきたような衝撃が走った。
全てはあの事故から狂っていった。あの事故さえなければ、今もクラウドと平穏に過ごせていたかもしれないのに。
だが、本当にそうだろうかとザックスは自問した。
事故が起きずとも、いつかは気持ちを抑えることが出来なくなって同じような状況に陥っていたかもしれない。
たった二日ではあったが、クラウドと通じ合えていたあの時間は満たされていた。それだけ求めていたということだ。
ザックスは不毛な思考に見切りをつけ、今自分に出来ることを始めることにした。