二人は狂ったように身体を重ねた。
理性という名の鎖から解放され、激しく互いに求め合った。
何も身に着けず、ベッドの中でただ抱き合って過ごす時もあった。
二日間、誰にも妨げられることなく、それは続けられた。
やがて、退廃的な時間は終わりを迎える。
正気に戻り始めたザックスはこれからどうすればいいのか、途方に暮れた。
クラウドを元に戻す方法は結局わからずじまいだ。この先ずっとこのまま生きて行かねばならないのかもしれない。
医療設備の整っているミッドガルにいれば不測の事態には対応出来る。
しかしクラウドをこんな状態にした元凶がいるこの街にいて本当にいいのか。神羅は信用ならない。そして自分たちは監視されている。いつまたクラウドを実験道具にしようとするかわからないのだ。
かと言ってクラウドをここから連れ出すなど出来るだろうか。あの状態のまま外に出せば、自分以外の者を求めるかもしれない。…そうなるくらいならいっそ自分の元に閉じ込めておきたい。
クラウドの今後と自分の感情を天秤にかけるなんて間違っている。でも誰の手にも渡したくない。
――オレはすでに正常な判断を下すことが出来ないかもしれない。
いよいよ持ってザックスは追い詰められていった。
* * *
ザックスが研究室へ行った日から二日後の朝。
気だるい身体にカーテンの隙間から差し込む朝日が当たる。ザックスはベッドから半身を起こし、隣で眠るクラウドへ目を向けた。
二日間、身体を重ね合っていた時の充足感は消え失せ、代わりに耐え難い無力感に襲われた。
ずっと求めて止まなかったクラウドを抱いた。だがその代償は重い。
ザックスが思い悩む暇もなく、クラウドが目を覚ました。
「…ザックス?どうしたの」
「…目覚めたのか」
眠たげな目を擦りながら身体を伸ばすクラウドはこれから先のことなどまるでわかっていないようで。ザックスはクラウドの頭を静かに撫でてやった。
「今日も、一緒にいられるよね」
「…ああ」
「うれしい……一緒にいたかったのに、外出てばっかだったから…寂しかった」
「ん…ごめんな」
自分へ一途に思いを傾けてくれるクラウド。これは本心?それとも例のジェノバ細胞を植え付けられたことによって造られた感情?
もしクラウドが我に返って、何をされたのかはっきりと自覚をしたら――
嫌悪されるだろうか。それとも……?
次々に湧いてくる疑問に頭がおかしくなりそうになる。
欲望に負けて意識の混濁しているクラウドの身体を蹂躙した。
研究室で見たレポートに書かれていたことがザックスの頭を過る。ジェノバ細胞が心の奥底でクラウドを求めていた自分の思考を読み取り、クラウドにあんな行動をさせたのかもしれない。
であったとすればここしばらくのことは本人の意思による行動ではないのだ。
クラウドは自分のことを許さないかもしれない…。
「ザックス?」
クラウドは身体を僅かに起こすと隣で苦悩するザックスの顔を覗き込む。
「具合悪い?」
「いや…そうじゃないんだ」
心配そうに見やるクラウドを安心させようとザックスは力なく笑った。
するとクラウドはザックスの身体をさすりながら悩ましげに笑みを浮かべた。
「ザックス…しよ」
「クラウド…もう今日は…」
拒否されたとわかるやいなや、クラウドの表情が翳る。
「嫌になった?オレのこと嫌いになったの?」
涙ぐんだ顔で見つめられ、ザックスは慌ててクラウドを抱き込んだ。
「違う、違うよ。そんなわけないだろ?」
そして腕の中に入れたまま背後に押し倒した。
口づけをしながら身体に触れようとしたところでザックスは我に返った。このままでは同じことの繰り返しだ。
何とか行為を止めたものの、クラウドが再び顔を覗き込んでくる。誘うような瞳に負けそうになり、ザックスは頭を振り払った。
「…ザックス?」
「ごめんな、本当はちょっと調子悪いんだ。医者に行ってくるからここで待っててくれるか?」
「すぐ帰ってくる?」
「すぐに帰ってくるよ」
「…わかった。待ってる」
今の状態のクラウドを一人にするのは心許ないが、ここに留まっていては何も進まない。何より誘惑に打ち勝つ自信がザックスになかった。
着替えをすますと、ザックスは出かける前に寝室に戻ってクラウドを軽く抱いてやった。
「すぐ戻って来るから絶対に外に出るなよ」
「うん…」
不安そうな面持ちをしながらも、クラウドはこくりと頷いた。