クラウドを自宅に連れ帰った後、ザックスはミッドガルから少々離れた地に赴いていた。
当面の仕事から外してもらうよう申請したが、どうしても外せないミッションがあった為、已む無くクラウドを置いて来た。
と言っても遠征というほどの移動距離でもなく、比較的楽な内容ということもあり、順調にいけばその日の夜までにミッドガルに帰還出来る。
早く済ませるべく一心不乱にミッションをこなすザックスに他の参加メンバーも触発されて熱心に取り組んだ。このおかげで夕刻には撤収出来る見込みとなった。
留守の間、容態が悪くならないか気がかりだったが、それと同じくらい他の誰かにこのことが知られないか不安だった。だから決して外に出ないようクラウドに言い含めてきた。
会社の用意した兵舎に居住していないし、今の住んでいる場所を教えているのは親しい人間だけだ。訪問する人間は限られているが、万が一誰かが来ても居留守をしろとも言っておいた。
とにかく誰の目にも触れさせたくなかった。クラウドのことを気に掛けているからだけでなく…訳のわからない独占欲に駆られた。
元に戻せる見込みは今のところ皆無だ。鳥籠に閉じ込めておくような生活をいつまでも続けられるわけがない。
休憩の間、そんなことばかり考えていた。あと10分ほどで任務を再開する頃合いになってから同僚のソルジャーがザックスに声を掛けてきた。
「試験の最中に倒れた一般兵、お前のところにいるんだって?」
「ああ。まだ調子良くないからさ」
「お前も優しいねえ。わざわざ自分とこで面倒みてやるなんてさ」
表向きにはクラウドは魔晄照射テスト中に体調を崩し、ドクターストップがかかったことになっている。表の事情しか知らない人間から得られる情報などたかが知れてる。今はとにかく早く戻って情報を仕入れたい。
そんなことを考えながら話を適当に聞き流していると、同僚が興味深い言葉を発した。
「そいつも災難だよな。前にも似たような事故あったらしいけど」
「そうなのか?」
「試験中の事故って結構あるじゃん。オレが聞いた中で一番ひどかったやつだと受験生の一般兵が突然狂って暴れちまったやつとか」
初耳の話だった。適性試験で受験者が負傷したりすることは珍しくはないが、大きな事故が起こったなどという話は耳にしたことがなかった。おそらく意図的に隠蔽され、こうして噂程度の話として伝わっているだけなのだろう。
「…そいつはどうなったんだ?」
「死んだってよ。魔晄中毒で」
「適性試験の魔晄照射テストで?」
「そそ」
魔晄照射テストは微弱な魔晄を浴びせ、魔晄耐性を調べる。ソルジャーの強さの要因となっている魔晄への耐性がない人間は試験の合格対象から外されることとなっている。
しかしあくまでテストとして浴びせるのであって中毒に陥るほどの量を照射するなど考えられない。
「多分間違って強力な魔晄を照射されたんだろうな。そうだとしてもここは責任なんざ取らねえし。お前のダチも同じことされたんじゃねえか」
同じことをされたのだろうか?
それならクラウドも魔晄中毒になっているのではないだろうか。だが意識ははっきりしているし、魔晄の影響であんなことになったとは思えない。ドクターも魔晄を浴びただけで肉体が変異するなど前代未聞だと言っていた。
しかし全くの無関係とも思えない。状況が似通っている。
黙ったまま考え込んでいるザックスに同僚は更に続けた。
「詳しく知りたいなら当事者に聞きに行ったらどうだ」
「当事者?だってそいつは死んだんだろ」
「いや、その一般兵と仲良かった人が神羅にいるからさ」
それは誰なんだとザックスが問い質そうとしたところで、集合の声が掛かった。