シスネと別れた後、方々を当たって今回の件を調べたい欲求に駆られたが、とりあえずクラウドの元へ帰ることにした。過保護かもしれないがあまり一人にしておきたくなかった。
「着替え適当に持ってきたぞ」
「ありがとう。…そんなに持って来たの?」
「あっと、これは…」
クラウドは着替えを入れた袋とは別にザックスが持っていた手提げ袋を不思議そうに見やった。
「あー…医務室のナースさんがそのうち必要になるかもしれないからって色々と用意してくれて」
「ふーん」
咄嗟に思いついたウソだったがクラウドはザックスの言葉を疑う様子もなく、袋をジロジロと見やっていた。中身はここに来るまでにザックスもざっと確認したが、女性用の下着などが入れられていた。まだ不安定な状態のクラウドには見せるべきではないと今更ながら気付き、クラウドが袋のジッパーに手をかけた瞬間、ザックスは張り上げて注意を自分の方へ向けさせた。
「なあ、メシどうする?今日はデリバリーのピザでいいか?今から用意するのも面倒だしさ」
「ああ、うん。いいよ」
「んじゃ食いたいもの選べよ」
ザックスはローデスクの引き出しからカタログを取り出すとクラウドにそれを投げ渡した。
「ザックスは?」
「辛いやつ一枚頼んどいて。後はクラウドの食いたいもんでいいよ。好きに選んでいいから」
クラウドがカタログを広げてどれにするか悩んでいる隙に、ザックスは先ほどの袋を部屋の隅へ追いやった。
カタログとにらめっこを始めてから5分ほど経ってクラウドは注文の電話を掛けた。頼んだのはピザ三枚とサイドメニューのサラダ。
さほど混雑していなかったようで30分しないうちに頼んだピザが届いた。好みの物を頼んだこともあり、クラウドはあつあつのそれらをおいしそうに頬張った。
頼んだピザのほとんどはザックスが平らげたが、クラウドも普段と同じくらいの量を口にした。食欲もあるし、体調も悪くないようだ。傍目には何の変化もない。だが、目の前のクラウドは今までのクラウドではない。それをはっきりと認識させられたのは入浴の時間だった。
夕食後、風呂が湧いたことを知らせるアラームが鳴り、ザックスはクラウドに入浴を促した。
「いいの?オレが先に入って」
「いいからいいから。病院じゃ風呂入れなかっただろ?好きなだけ長湯していいぞ」
そう言ってザックスはクラウドを脱衣所に押し込めた。
リビングに戻ったところでタオルを渡し忘れたことに気付き、ザックスはタオルを片手に脱衣所のドアを開けた。
「悪い、タオル忘れて…」
ドアを開けた瞬間、白い素肌が目に入った。二人はお互い息を飲むとサッと身体を反転させた。
「あ、タオル渡すの忘れてたから」
「…そこ置いといて」
言われてザックスは中を覗かないようにして脱衣所にタオルを置くと、慌ててその場から離れた。所在なげにリビングをうろつき、ソファに座らずに床に腰を下ろした。フローリングがやけに冷たく感じる。身体が少し火照っているようだ。
ドアを開けた瞬間目に飛び込んで来た白い肌。丸みを帯びた身体にふくらんだ胸。腰も少しくびれていた。先ほどの情景を思い返す度に胸がどくどくと鼓動を鳴り響かせる。
女の裸を見るのはこれが初めてではない。抱いたこともある。それなのにクラウドの裸体が目に焼き付いて消えなかった。
本当に女性になってしまったのだ。
だからと言ってザックスにとってクラウドは友人であることに変わりはない。だが何もかもをこれまで通りにするわけにはいかなった。
「クラウド、寝室のベッドはお前が使っていいから」
リビングで涼んでいたところ、風呂から上がったザックスに開口一番にそう言われ、突然何を言うのかとクラウドはぽかんとした。
一方的にそう言うと、ザックスは髪から僅かに滴る水を床にぽたぽたと落としながらキッチンへ向かった。リビングにいるクラウドと顔を合わせるのが気恥かしかった。
しばらく冷蔵庫を物色し、飲み物を取ってリビングに戻るとクラウドはザックスに問いかけた。
「ザックスはどうするの?」
「オレはソファで寝る」
「そ、そんなわけいかないよ。オレが世話になってる身なのに。だったらオレがこっちで」
「バカ。医務室送りになったくせに何言ってるんだよ。先生からもちゃんと療養しろって言われただろ」
「でも…」
「これくらい平気だって。遠征中はもっとひどい場所で寝ることもあるだろ。それに比べりゃソファでも十分だよ。というわけで病みあがりはベッドでゆっくり休みたまえ」
そう宣告した時にはすでに予備の枕とタオルケットをソファのところへ持って来ていた。
寝床を分けることに特別な意味はない。この間まで医者の世話になってたのだからゆっくり休ませてやるだけ。そう装ってクラウドを納得させた。元々ザックスが自分に対して過保護なところがあるのはクラウドも承知していることで、特に不自然がることなく、ザックスの好意を受け入れた。