Does Anybody Really Know What Time It Is? 〜鳥籠の少年〜 #02





 ドクターは端末の電子カルテを操作しながら躊躇いがちに口を開いた。話すことが億劫になるほどひどい状態なのかだろうか。ザックスは覚悟を決めて話に聞き入った。
 どのような症状が後々まで残るのか。これまで仕事で組んでいた仲間にも後遺症を負って神羅を去った者も少なくない。だから想定出来るありとあらゆる症状を覚悟した。
 しかしドクターから告げられた内容はザックスが頭の中で描いてたどれとも合致しなかった。
「な…何を言ってるんだ?冗談はやめてくれよ!」
 ドクターの話に耳を傾けていたザックスは座っていたイスから立ちあがって抗議した。あまりに現実離れしたその話を否定することしか出来なかった。それも無理からぬこととドクターは冷静に返した。
「冗談ではないよ。彼…いや肉体的には彼女と言うべきか」
「ふざけるな!」
「落ち着いてくれ。私自身なぜこのようなことになったのか全く理解出来ないんだ」
 ドクターはザックスを宥めると順を追って話を始めた。

 適性試験は事故が起きるまで順調に進んでいた。事故が起きたのは魔晄照射テストの最中。
 クラウドはテスト開始からしばらくして試験官に身体の異常を訴えた。試験官が即座に魔晄照射を中断するもクラウドの意識はなく、すぐに医務室に運び込まれた。そしてドクターがクラウドの診察したが、その時すでに身体は男のものではなかったという。

 ドクターの話は俄かには信じ難かった。男であったはずの人間が女になった。どうしてそんな話を信じられるだろう。
 そもそも実際にこの目で確かめたわけではない。これが自分を騙す為の狂言だと言われればザックスはそちらを信じるだろう。
「…んなの、信じられるかよ……」
「彼は本当に男だったんだね?男と偽って入隊していた可能性は?」
「ない。それは絶対にない。…クラウドは男だ」
 ザックスの脳裏に施設内にある大浴場で一緒に入浴をした時のことが蘇る。紛れもなく、男の身体だった。その時のことは鮮明に覚えている。見間違えなどということはあり得ない。

 ドクターはデスクの上に置いてあるディスプレイをザックスからも見られるよう向きをずらした。
 そこにはクラウドの身体をスキャンしたような画像が映っている。女性の形をしていた。ザックスは無言でそれに見入った。
「魔晄を浴びたわずかな時間で性別が変わるなんて前代未聞だ…症例がない」
「なあ、先生。元に…戻るんだよな?」
「原因がわからない以上、私の口からはどうとも言えないよ」
 無情な言葉の前にザックスは言葉を失った。
 それを静かに見守っていたドクターの首に下がっていた携帯電話が電子音を上げた。
「…すまんが少し席を外すよ」
 ドクターは着信ボタンを押しながら部屋から出て行った。

 部屋に一人残されたザックスは頭を抱えた。昨日まで普通に会話を交わしていたクラウドの身に何が起きたのか、まだ理解出来なかった。
 なぜこんなことになった?ただ試験を受けに行っただけでどうしてこんなことになったのか。
 本音を言えばクラウドに試験を受けさせたくなかった。
 ザックスもクラウドと同じくソルジャーになることを夢見て神羅へ入社した。しかし念願の叶ってソルジャーになったものの、そこは想像していたものとはまるで別世界だった。
 神羅に逆らう者はそれが女子供だろうと斬り伏せる。どれだけ己の手を血で汚してきたかわからない。神羅の花形職として飾り立てられたソルジャーの実態はただの殺人マシンだ。
 そんな世界にまだ汚れを知らないクラウドを入れたくない。
 そう思ってはいたが、入社してからずっと憧れを抱いている人間を説き伏せるのは至難の技だ。それとなく業務の大変さや辛さを伝えてもクラウドはソルジャーになることを諦めなかった。
 他人が口で言っても無駄だということはわかっていた。己もまたそうだったからだ。自分自身の目で見定めなければ、真実を知ることは出来ない。だからクラウドの選んだ道を阻むことは諦めた。その代わりしっかり支えてやろう。どんなひどい境遇だろうと自分が側にいてやればきっと大丈夫。そう思って試験に送りだした。

 だがこんなことになるならどんな手を使ってでも止めておけばよかった。
 肉親を亡くし、自分を一番の親友として慕ってきたクラウドをザックスも本当の弟のようにかわいがっていた。
 どうして止めなかった。試験自体に事故がつきものだということくらいわかっていたはずだ。過保護だと言われようと身体を張ってでも止めればよかったのだ。
 後悔の念が湧き起こってやまなかった。


material:Alice






テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル