sequel.3 天使のお留守番 #04





 予告通り、30分後にセフィロスは迎えに来た。
 兵舎から車を走らせて十数分ほど、繁華街を少し外れた場所にある店へとクラウドを連れて行った。
 少々古めかしい佇まいだが、内装はレトロながらも高級感のある造りをしていた。
 ここは知る人ぞ知る名店として有名な洋食の店で、神羅のVIPもお忍びで訪れる。
 セフィロスが姿を現すと店員が恭しく頭を下げて、店の奥――上等のカーテンで仕切られた個室へと案内した。

 席に着くとクラウドはメニューを広げて頭を悩ませた。
「何が食べたいんだ」
「シチュー…グラタン…でもハンバーグ……」
「悩むくらいなら全部頼めばいい」
「いいの?」
「お前が食えるならな」
 今日の午後は間食をしていないので、お腹はペコペコだった。
 クラウドはタンシチューとカキのグラタン、そしてデミグラスソースのハンバーグ、三品を頼んだ。
「あ…ザックスが野菜も食べろって言ってたから野菜も…」
「それでしたらこちらの温野菜サラダはいかがでしょうか?」
 店員から薦められ、それも追加で頼むことにした。
 オーダーが終わり、店員が姿を消すと、クラウドは冊子型になっているメニューをパラパラとめくり出した。
「この数字は?0がたくさんあるけど」
「お前は気にしなくてもいい」
 この様子では一人で買い物をさせたことがないのだろう。
 セフィロスはクラウドからメニューを取り上げると小さく苦笑した。



 *  *  *



 つまみで一杯やるセフィロスの向かい側でクラウドはあつあつのグラタンとシチューを口に運んでいた。
 すでにサラダを一皿食しているにもかかわらず、その小さい身体のどこに入るのか不思議なほどきれいに平らげていく。
 カキのグラタンのホワイトソースは牛乳の濃厚な味とさらっとした舌触りが食欲をそそる。じっくり煮込んだ肉の旨味が凝縮されたタンシチューも付け合せのパンを使って最後の一滴まで残さず食べた。
 そして最も好きな料理の一つであるハンバーグがテーブルに運ばれるとクラウドは早速フォークとナイフを使って器用にそれを切り分けた。
 口に入れると肉汁とデミグラスソースが混ざり合い、何とも言えない味が口の中に広がった。
「ザックスが作ってくれるのもおいしいけど、これもすごくおいしい」
「ふん…甲斐甲斐しいことだな」

 最後にやって来たハンバーグをクラウドが食べ終わったところでセフィロスは話を切り出した。
「こっちの暮らしはどうだ」
「こっち?」
「上と比べてだ」
 そう言われて、クラウドはぽかんとした。
 そしてややあって、セフィロスが言っていることの意味を理解した。
「楽しい。ザックスいるし、食べ物もおいしいし……でもエアリスに会えなくなっちゃったからちょっと寂しいかな」
「ほう…」
 クラウドが天使として過ごしていた時、いつもそばにいた美しい亜麻色の髪を持つ天使エアリス。
 二人は姉弟のように育った仲だった。

 天界に戻った時、人間になりたいと言ったクラウドをエアリスはただ一人祝福してくれた。
 クラウドが堕天された後、一度天界に戻った時を最後に二人は顔を合わせてない。

 別れの時をクラウドが思い出していると後ろから懐かしい声が聞こえてきた。
「クラウド」
 声の聞こえてきた方を振り返ると、一人の女性が薄布の向こうからゆっくり歩いてくる姿が目に入った。
 赤いミニジャケットにピンクのワンピース。結い上げた長い亜麻色の髪が静かになびく。
 見慣れた服装ではなかった為、一瞬誰だかわからなかったが、クラウドはハッと息を飲んだ。
「…エアリス?エアリスなの?」
「そうよ、私よ」
 クラウドはイスから飛び降りると一目散にエアリスの元へ駆け出し、その胸の中へ飛び込んだ。
「どうしてここに?」
「特別に許可をもらって来たの。会いたかったわ」
「オレも会いたかったっ」
 まるで母親に甘えるようにクラウドはエアリスに抱きすがった。



 *  *  *



 追加で一人分の席を作ると、エアリスは出された紅茶を一口飲み、息をついた。
 クラウドの方を振り返り、ナプキンでクラウドの口元を拭ってやりながら話し始めた。
「こっちはどう?人間と仲良くやれてる?」
「うん」
「そう…よかったわ。本当は心配だったの。クラウドはちょっとのんびりさんだから下界に行って大丈夫かなって」
「ザックスと一緒だから大丈夫だよ」
 幸せそうに微笑むクラウドを見ながらエアリスもまた微笑み返した。
「そうなの。ザックスは今日はいないの?」
「仕事でいないんだ。一週間帰って来れないんだって」
「ザックスは遠征でここを離れてる。お前が代わりにしばらくここにいてやれ」
 エアリスはクラウドの方へ向けていた視線をセフィロスの方へと向けた。
「いいんですか?そんなに長くいて」
「好きにすればいい」
 それだけ言うとセフィロスは席を立ち、カーテンの向こう側――フロントの方へ歩いて行った。
 残されたクラウドはエアリスの服のすそを小さく引っ張った。
「エアリスもこっちにいられるの?」
「そうね…あまり長くいられないけどちょっとだけクラウドのところにいようかな」
 エアリスの言葉を聞き、クラウドは大喜びで再び抱きついた。





material:NEO HIMEISM






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