sequel.3 天使のお留守番 #03
夕方になり、空が赤く染まり出した頃。
滅多に鳴ることのないインターフォンの音が部屋に響いた。
ザックスを訪ねてくる人間も同居を始める前に比べれば減ったので普段クラウドが一人で過ごしている時に訪れる人間はほとんどいない。
宅配便などの届け物も一階に詰めている管理人が代理で受け取ってくれるので部屋に配達物が直接届くこともない。
そういうわけでこういう時にどうすればいいのか、クラウドはよくわかっていない。
数少ない訪問者が来た時のザックスの行動を思い返し、とりあえず玄関に向かった。
少し前にザックスが遠征に行くと言って家を出た時は結局その日のうちに帰って来た。
もしかしたら今日も早く戻って来れたのかもしれないと、訪問者を確認することなく、クラウドはドアを開けた。
「ザックス?…あ」
ドアの先に立っていたのはザックスではなかった。
いたのはごく一部の例外を除いて相対した人間、誰もが畏怖を抱くであろう存在。神羅所属、ソルジャークラス1st・セフィロス。
しかしクラウドにとってセフィロスはどこか親近感を覚える存在だった。
ここではない場所で会ったことのあるような、そんな不思議な感覚。
クラウドがザックスの代わりに届け物をして以来、二人は顔を合わせていない。
今日が久しぶりの対面となる。
「ザックスはいないよ。一週間帰って来れないって」
「…お前、夜はどうするつもりだ?」
「夜は夕ごはん食べて、お風呂入って……寝るよ」
言ってからクラウドは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「なら夕飯はどうするんだ」
「え?…どうしようかな」
クラウドは首を傾げながら冷蔵庫の中の食べ物や買い置きしてある物を思い浮かべる。
そうやって考えているうちについ先日ザックスが作ってくれたグラタンがおいしかったことを思い出し、無性にそれが食べたくなってしまった。
クラウドがうんうん言いながら考え込んでいるとセフィロスは意外なことを口にした。
「まだ決めてないならオレに付き合え。好きなものを食わせてやる」
思いがけないセフィロスの言葉にクラウドの目が輝く。
「本当に?好きなもの食べていいの?」
「30分経ったらまた来るからそれまでに外に出る準備をしておけ」
それだけ言うと、セフィロスは玄関を出てエレベーターホールへと向かって行った。
* * *
日が暮れ始めた頃、ザックスたちは野営の準備を始めていた。
お目当てのモンスターは結局あれから見つかることはなかった。
暗闇であってもソルジャーの視界は利くので夜間であろうと任務は続けられる。
しかし新種モンスターの捕獲以外に害獣となっているモンスターの討伐も並行してこなしていた為、全員疲労がまっていた。
今日のところは休息を取って明日の早朝から再開することにした。
テントの設営が終わって休む準備が整うと辺りはすっかり暗くなっていた。
ザックスは比較的電波状況のいい場所を探しながら携帯電話をいじり始めた。
「…電話に出ねえ」
「お前な…いい加減にしろよ」
呆れ果てるカンセルを物ともせず、ザックスは再び自宅へ電話を掛ける。が、着信されることはなかった。
一向に止める気配がないのでカンセルはザックスの手から携帯電話を無理やり奪い取った。
「あ!何すんだよ!」
「お前、今日から一週間携帯禁止」
「ちょ、待てよ!こんな時間に電話に出ねえんだぞ?クラウドに何かあったんじゃ」
「お子様は寝る時間だ。今頃夢の中だろ」
「いやあ?いつもだったらこの時間はオレとラブラブモードでさ」
「ノロケてんじゃねー!!さっさと自分のテントに戻れや!」
カンセルに蹴り飛ばされながらザックスはテントへと押し込められた。
「あれじゃどっちが隊長かわかんねーな」
遠巻きに見ていた他のソルジャーたちも騒ぎを横目にテントの中へ引っ込んで行った。