sequel.3 天使のお留守番 #02





 ザックスが出発した数時間後、クラウドは目を覚ました。
 キョロキョロと部屋を見回しても誰もいない。しばらくボーっと考えてから、ザックスが早朝に家を出たことを思い出した。
 いつも通り洗面所へ行って朝の支度を済ますと、クラウドのお腹がきゅるっと鳴った。
「お腹すいた…」
 クラウドはキッチンへ向かうと棚に置かれている箱を手に取った。それと冷蔵庫にある牛乳、食器棚からボウルとスプーン。
 テーブルに全て持ってくるとボウルに箱の中身を開け出した。出てきたのはチョコのトッピングされたコーンフレーク。クラウドが朝食として好んでよく食べている物だ。
 それを食べ終わるとシンクに持って行き、使った食器を洗い始めた。

 クラウドの日常はのんびりとしたもので、朝食と食器洗いが終わると午前中は他に何もすることがなかった。
 家事はザックスが全てやっていて、掃除も洗濯もクラウドはやっていない。
 正確にはやらせてもらえない。
 楽しそうだからやってみたいとクラウドが頼んでも今はいいとザックスが手出しさせなかった。
 過保護といえば過保護だが、地上での生活に慣れ切っていないクラウドに家事をさせるのが心配だったからだ。
 今では電子レンジやAV機器くらいなら簡単な操作は出来るが他の家電はまだあやしい。

 そういうわけでザックスがいない間、クラウドのやれることは限られている。
 おまけに一人のときは外出もなるべくしないように口を酸っぱくして言い付けられているので基本的に家で過ごすことになる。

 こうして一人になってしまうと非常に刺激の少ない生活だが、クラウドにとって救いなのはそれを退屈と感じないところだ。
 やることがない時は退屈を感じる前に眠ってしまう。まるで赤子のように一日中寝て過ごすこともあった。
 今日はたまたま見たいDVDがあったので午前中はそれを見ることにした。

 大好きなチョコレートの包みを開け、一個口にほお張りながらリモコンの再生ボタンを押した。
「ザックス、今どこにいるのかなあ」



 *  *  *



 ミッドガルを出発してから数時間。ザックスは目的地に到着していた。
 今は同じ隊の者と一緒に運よく遭遇できた新種のモンスターの出方を探っている最中だ。

 新種である為、どんな行動を取るか、どういう攻撃をしてくるかデータがない。
 体躯もなかなか大きく、向こうの出方によっては大怪我を負う可能性も0ではない。隊の人間も慎重に様子を見張っている。

 同行しているカンセルが少し身を乗り出して遠方を探ろうとしたところ、ザックスが神妙な面持ちで考え事をしていたので小さく声を掛けた。
「なんだ?罠でもかけるか?」
「いや、クラウドどうしてっかなって。今頃昼メシ食ってるかな」
「てめえ、仕事に集中しろ!!」
 カンセルの怒鳴り声が響いた直後、遠方で何かが引いて行く音がした。
 ハッとしてモンスターがたむろしていた場所へ視線を戻すと、すでにその姿はなくなっていた。
「あーあ…逃しちまった」
「だ、誰のせいだ、誰の!」
「もういいから昼休憩にするか」
 他のモンスターの気配もないのでザックスは同隊の人間に促し、その場で早めの昼食を取ることにした。
 昼食とは言っても補給食を齧るだけの味気ない食事だった。
「クラウド何食べてるかな〜」
「黙って食え!」
 まさかこんな状態が一週間も続くのかとカンセルはゲンナリしながら食事を取り始めた。



 *  *  *



 一方、クラウドはDVDを見終えた後ソファの上で寝そべっていた。
 空腹を覚え、眠りからさめて掛け時計を見ると、12時を少し過ぎたところだった。
「…ん。お昼ごはん」
 クラウドは身体を起こすと、ぽてぽてとキッチンへと向かった。

 冷蔵庫の中にはザックスが家を出る前に食料が尽きないよう買い込んでおいた食材がぎっしりと詰まっていた。クラウドが誤って食べないように賞味期限に余裕がない物は入っていない。
 冷蔵庫の中は好きなだけ使えるようにしてあるが、デリバリーや外食も出来るようにとクレジットカードも置いて行った。レトルト食品やカップラーメンもキッチンの棚に買い置きしてある。
「んー…どうしよう」
 選択肢が多すぎるのも迷いを生むものだ。クラウドは何を食べようかキッチンで頭を悩ませた。

 ザックスが日中仕事で家を空ける日は朝出勤して夕刻か夜に戻ってくるというパターンがほとんどだ。
 その際クラウドの昼食はザックスが出かける前に作っておいたものを電子レンジで温めるだけで済むようにしていた。
 しかし今日は出立が早朝の為、準備はされていない。

「…カレー食べたいな」
 クラウドは冷凍庫から小分けにして保存されているごはんのパックを取り出した。ザックスが事前に炊いておいたものだ。
 それとレトルトのカレーを棚から下ろした。辛い物が食べられないクラウド用に購入しておいた甘口のカレーだ。
 皿にそれらを盛り付けると、電子レンジに入れて温めた。

 テーブルに温めたカレーライス、そしてジュースを添えて昼ごはんは完成した。
 小さい身体ながらクラウドの食欲は旺盛だ。10分程度できれいに食べ終えたが、ザックスがいる時ならサラダやカットフルーツも用意してくれていたから、これだけでは物足りなかった。
 とは言っても包丁を扱えないクラウドには用意できないので、諦めて買っておいたプリンでお腹を満たすことにした。





material:NEO HIMEISM






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