sequel.3 天使のお留守番 #01
ここは神羅ビル、ソルジャー専用フロア。
ザックスはフロアにある端末で次回参加予定のミッションの確認をしていた。
難しい顔で端末を見つめるザックスの元へ友人のカンセルが歩み寄ってきた。
「おい、ザックス。次の…」
「…ついに来ちまったな、この日が」
カンセルの言葉を遮り、ザックスは独り言をつぶやいた。
「何が来たってんだ」
「ああ。遠征だよ」
そう言ってザックスはミッション内容が表示されている端末をカンセルに示した。
内容はミッドガルから離れた地に潜んでいると情報の入った新種のモンスターを確保するというものだ。加えて同じ場所に住みついている厄介なモンスターの掃討。期間は一週間程度と見込まれている。
ザックスはクラウドと同居するようになってからミッドガル内及びその周辺の任務を重点的に入れるようにしていた。その代わり外泊を伴うミッションは極力避けてきた。
先だってついに遠征が入ったと思いきや、蓋を開けてみれば日帰りで何とか終わらせることの出来る任務だった。
つまり今回が正真正銘、クラウドが来てから初めての遠征となる。
しかも隊長に任命されてしまった為、今回ばかりは拒否することが難しい。
「まあいつまでも避けてらんねえもんな。…っつーわけで、遠征中クラウドの様子時々見てくれよな」
「…オレもそのミッションの参加メンバー入ってんだけど」
ザックスに背中を強かに叩かれたカンセルは呆れ顔で言った。
画面に表示されている参加メンバーの箇所を見ると、確かにカンセルの名前がある。
それを見つけるやいなや、ザックスの顔が青ざめる。
「じゃあクラウドの面倒どうすんだよ!?お前のこと当てにしてたのに!」
「知るか!留守番くらい一人でさせろ!!」
* * *
「こらー!服着ないとダメだろ!」
入浴後、裸のまま脱衣所から出て行ったクラウドに向かってザックスは叫んだ。
小さな子供のようにはしゃぎながらリビングを駆けるクラウドとそれを追うザックスの鬼ごっこが始まった。
「おら!捕まえた!」
「あはは!」
ザックスは捕まえたクラウドをソファへ連れてきた。
腕の中できゃっきゃっとはしゃぐクラウドは幼い子供のようだ。
実年齢はいまだによくわからないが、天使として過ごしてきた時間はザックスの年齢より長いかもしれない。
しかしだからといってこちらで暮らすようになったのはごく最近のことだし、生活する上で不慣れなところもまだまだある。一週間も一人にさせるのが心配になってくる。
ザックスは半濡れのクラウドの髪をタオルで拭いてやりながら次のミッションでしばらく家を空けることを話した。
「…ということで一週間、家帰れねえんだよ。……寂しいなあ!」
クラウドの寂しがる反応を待っていたが、待ち切れずにザックスは身体に巻き付けた腕をきゅうきゅうと締めて愛しげに抱いた。
対するクラウドはケロリとした様子でザックスにされるがままになっていた。
「じゃあ留守番してるね」
「一人で大丈夫か?一週間だぞ、一週間。七日間だ」
「うん」
「そ、そうか…」
満面の笑みを浮かべて返事をするクラウドを前にザックスも黙ってしまった。
一週間離れ離れになってしまうことに何も感じていないクラウドにザックスはがくりと肩を落とした。少しくらいはごねるかもと思っていただけに少々ショックのようだ。
* * *
ミッション当日の早朝。
ザックスはクラウドに家を空けることを話した際のことをカンセルに愚痴った。
「随分とまあ聞きわけのいいことで。いい子でよかったなあ」
未練がましく兵舎の方角を見つめるザックスにカンセルは皮肉を吐いた。これではどちらが子供かわからない。
「一週間かそこらでどうにかなるわけねえだろ」
「でもよ、突然強盗に押し入られでもしたらって思うと…」
「ソルジャーばっかの兵舎にあえて侵入するやつなんかいねえよ」
「メシ大丈夫かなー。風呂入れるかなー」
「赤ん坊じゃねえんだよ。一人でそれくらい出来るだろ」
ぶつぶつと心配事を口にするザックスをカンセルは薄目で見やった。
「そんなことより最上階の人の心配でもしたらどうだ?」
「え?」
「前にちょっかい出されたって言ってただろ。あの人、確かしばらくオフだったよな」
最上階の人――セフィロスのことが完全に頭から抜け切っていたようで、ザックスは慌てて携帯電話を取り出した。
「やっべえ…家に来ても絶対入れるなって言わねえと!」
「さーて、出発だ。携帯しまえよ」
「オレやっぱり家に戻る!」
「1stが情けないこと言ってんじゃねえ」
カンセルに首根っこを掴まれ、ザックスはずるずると引きずられながら輸送車に乗り込んだ。