scene.11 天使が還る(後編)
注:性描写あり
どこをどう歩いて自宅に戻って来たかわからない。気付けば二人で自宅へと帰って来ていた。
ザックスはキッチンへ向かうと震える手でココアの袋を開いた。温めたミルクをカップに注ぎ、クラウドに渡してやると、こくこくとココアを飲む。そしてにっこりと変わらない笑顔でザックスに笑いかける。
「おいしい。これ好き」
「そか…」
「ザックスの言ってたこと、当たったね」
「え?」
「オレがこれ好きだって」
「あ、ああ…」
なぜか遠い昔に交わした会話のような気がしてザックスは気の抜けた返事をした。
クラウドがココアを飲み終えると、そこがあらかじめ決められた場所だったかのように二人はソファに並んで腰掛けた。距離を置こうとしたザックスのすぐ横に座ると、クラウドは徐に口を開いた。
「お礼も言わないで出て行ってごめんね」
「いや、お礼なんて……」
礼を言い忘れたから戻って来たのだろうか?それを言ったらまたお別れなのか?
冷静を装っていたが、目の前の存在がまたいなくなってしまう恐怖にザックスは薄氷を踏む思いでクラウドの一言一言を噛み締める。
「オレ…元々人間を監視する為に下界に降りてきたんだ」
「…監視?」
おそらくあの夜に話していた『仕事』のことだ。なぜ今更こんな話をするのだろう。話したいことは山のようにあるのに。
今までどこに行っていた?これからまた帰るのか?それとも自分の元にいてくれるのか?
焦る気持ちを何とか抑え、クラウドの話に耳を傾ける。思えばクラウドから身の上話を聞くのはこれが初めてだった。
「人間が何をしているか監視して、大天使様に報告するのがオレの仕事なんだ」
「そう、なのか」
「もういつだったか忘れちゃったけどその時にザックスを見掛けたんだ」
見ていた…?オレを?
ザックスは身体を強ばらせながら次の言葉を待った。
「いつも明るくて楽しそうに笑ってて…でも時々すごく悲しい顔して。かわいそうだなって思った」
それでわかった。クラウドは自分の全てを見ていた。同僚とバカ騒ぎする姿も女と遊ぶ姿も…そして戦いに明け暮れ、人を殺める姿も。
『監視』していたのだ。天使としてずっと。
「気が付いたら…仕事そっちのけでザックスばかり見てた。そんなことしてたら大天使様に怒られちゃった」
例の怒ると天界一怖いという天使か…。
大丈夫だったんだろうかと思ったが大丈夫じゃないから堕天されたのだろう。
「人間に恋をしただろうって言われた。オレよくわからなかった…。ただ見ていたかっただけだから。でも全部お見通しだって言われて……天界では天使が人間に恋をするのは禁忌なんだ」
「え?それって…じゃあ…」
「オレ…ザックスに恋しちゃったから…堕とされたんだ」
何ということだ。それが堕とされた理由だったとは…。
自分と同じ気持ちだったのだとわかってうれしいが、自分のせいで堕天させられたのだと考えると少々複雑だった。
「下界を直に見て来いって言われた。人間の穢れを知ればお前の熱も冷めるだろうって」
穢れ…そうだ、オレは穢れきっている。天使に――クラウドに似つかわしくないほどに。わかってはいたことだが改めて言われると胸が抉られるように苦しい。やはりオレの元からいなくなってしまうのだろうか。
ザックスは縋るような目でクラウドを見やる。
「でも…もっとザックスのこと好きになっちゃった」
頬をうっすら赤らめながらクラウドはザックスをちらりと見やる。
ザックスの胸の中で燻っていた黒い何かが消え去り、愛しさが込み上げて来る。感情の昂ぶりが抑えられない。全てを知った上で受け入れてくれるのだろうか。こんなにも汚れきった自分を。
帰したくない。自分の元にいて欲しい。
それは禁忌を犯すこととなる。そして天界との決別を意味するだろう。自分にそこまでさせるほどの価値があるのだろうか。相手は天使だ。住む世界の違う存在だ。
だがそんなのは所詮建前だった。例え何を捨ててでも、この目の前の存在を手に入れたい。
ザックスは無我夢中でクラウドの両肩を掴むと自分の方へ向けさせた。興奮した面持ちのザックスにクラウドは無言で瞬きを繰り返す。
「また天界に帰るのか?」
「え…」
「帰るなよ」
「ザック…」
「帰さない」
思いのまま捲くし立てると、ザックスはクラウドを強く抱きしめた。クラウドもまたほっそりとした腕をザックスの逞しい背に回し、ひしっと抱き返す。
「…帰りたくない…ザックスの側にいたい」
焦がれるような、切ない声でクラウドは思いを吐露した。
それで全ての箍が外れた。ザックスは薄桃色の唇に自分のそれを重ねるとクラウドをソファに静かに押し倒した。
「んっんっ…」
啄ばむようなキスを繰り返しながら、次第に互いの舌を絡め激しく求め合った。
会えなかった間の空白を埋めるようにザックスはクラウドの唇を貪る。仄かにココアの甘い味がした。それすらもザックスの情欲を駆り立てる。味わっても味わい足りない甘いキスに二人は溺れた。
「んっはぁ…ザックスぅ…」
神々しくて触るのが憚れるようなその金糸に優しく指を絡ませながら、ザックスはクラウドの顔を覗き込む。
「…いいのか?オレもう今度こそ止められねえ…」
「ザックスこそいいの…?人間と契った天使は…もう天界に帰ることが出来なくなるんだ。そしたら」
「そしたらずっと一緒にいられるんだろ?」
「…うん」
縋りつく身体を強く掻き抱いた。
もう離さない。決して。
* * *
それはまるで儀式のようだった。
電灯の消えた室内。クラウドは服は一切纏っておらず、頭上で淡く光る輪が両翼とそのしなやかな肢体を包み込み、暗闇の中で浮かび上がらせていた。
ベッドに腰を下ろし、その様を黙って見つめていたザックスの元にクラウドは静かに歩み寄り抱きついた。ザックスの膝の上に跨るクラウドの背に腕を回す。
ザックスが背を撫でようとすると翼に手が当たった。それをやわやわと撫でるとクラウドは小さく声を上げた。
「あっ…ん」
「?…ここ感じるんだ?」
「んっ…そんなことないもん」
口をとがらせるクラウドに軽くキスを落とすと、首筋を舐め上げる。
「ひゃぅ…」
「くすぐったい?」
「なんか…わかんない」
少し身体を離して鎖骨のラインを舌でなぞり、そのまま下へスライドするとほんのり色づいた突起を刺激してやる。
「あっ!」
身体を捩らせて逃げようとする腰を捕らえながらそこを下から上へと何度も舐め上げ、時折舌でぐりぐりと突いてやるとまた色のある声を上げた。
「ひあ!そこ、やぁ…!」
「嫌か?」
「ん…やじゃ、ないよ…」
「素直だな」
クスリと笑うとそこを執拗に弄る。すると下腹部が兆しを見せ始めたので空いている手で先端を弄ってやるとクラウドは一際高い声を上げて喘いだ。
「あっん…はぁ…はぁ」
快楽による刺激から膝の上でガタガタと震えだしたので、クラウドをベッドの上に寝かしてやった。ザックスはトロンとした目で見つめてくるクラウドを舐めるように睨め回す。
劣情をそそる蕩けそうな表情が、だらしなく涎を零す口が、刺激を受けてぷっくり膨らんだ乳首が、蜜を垂らしながら勃ち上がる幼い茎が、全てがザックスを煽り立てる。
穢れることのなかった天使が目の前で乱れるその様に生唾を飲み込んだ。純潔の身体を犯すことへの背徳感と征服欲が綯い交ぜになり、これまでにない興奮が全身を走る。
「…ザックス…」
名前を呼ばれ、ザックスは堪らず華奢な身体の上に圧し掛かると、耳元に寄せた唇と舌でそこを攻め立て、震える茎を扱いてやる。
「ふあぁ!ダメ!そんなにしたら…っ」
最後まで告げることなく、クラウドは身体を震わせながら白濁を吐き出した。
「あ…出ちゃったの…?」
「我慢出来なかった?」
「うん…ごめんね」
「バカ。謝るようなことじゃないだろ」
こんなことで謝るクラウドがかわいくて、頭を軽く撫でながら額にキスを落とした。
「あ、ザックスの…」
「ん?」
視線の先にあるのはザックスの股ぐらだった。そこはすでに硬く勃ち上がっており、腹につきそうなほど反り返っている。クラウドはそれをまるで今まで見たことのないものを目にしたかのように興味津々で見つめる。
「オレもしていい?」
「…出来るのか?」
「わからないけど、やってみるね」
クラウドは四つん這いになって陰茎を手に取ると静かにさすった。
「おっきいね…」
そして目の前のそれを迷うことなく口の中へ誘い入れた。
「っ…!?」
まさか口淫するとは思っていなかった為、ザックスも思わず息を飲む。
苦しそうな表情をしながら一度口から出すと、今度はアイスでも舐めるように鈴口にぺろぺろと舌を這わせた。かわいらしい口から覗く赤い舌の淫靡な動きと、熱を帯びた瞳で悩ましげに舐めるその表情に否応なく熱が高まっていく。
「ちょ…待て、それは反則だ」
堪らずクラウドの頭に手を置くが、止めることなく行為を続ける。そして再び口に含んだ。
「んっ…んう」
「マズッ…!」
先端をちゅうちゅうと吸い上げられ、ザックスは強引にクラウドの頭を引き剥がした。
「ん、やっ!」
引き剥がしたと同時に射精してしまった為、クラウドの顔にもろに掛けてしまった。ザックスはサイドテーブルからティッシュを取ってくると急いで顔を拭いてやった。
「悪い…」
「ううん、大丈夫だよ。気持ちよかった?」
「めちゃくちゃ気持ちよかったデス…」
ザックスがそう言うと、クラウドはうれしそうにザックスの頬にキスをする。ザックスは寄せられてきた顔をそのまま引き寄せると唇を吸った。
「…今度はこっちも舐めてくれる?」
そう言ってザックスは右手の人差指と中指を差し出した。
「ん…」
目の前に出されたそれに素直にしゃぶりつくと、またあの悩ましげな表情で指に舌を這わせる。その淫猥な姿に欲を吐きだして萎えていたザックスの雄が再び起立した。
「んむ…はぁ…」
十分に濡れたことを確認すると口から引き抜く。ベッドの上にクラウドを寝転がすと足を広げさせ、そして硬く閉じられた蕾へ一本ずつゆっくりと指を差し入れ始めた。
「…っん」
「痛いか?」
「……平気」
そうは言っても顔は苦痛で歪んでいる。少し気後れするが、そのまま続けた。
「ちょっと我慢な。力抜けるか?」
「うん…」
きつく締めるそこをゆっくりほぐしながら短く声を上げる口を慰めるように吸い上げる。徐々に奥へと挿入し、内襞を刺激してやるとびくりと身体が震え、艶のある声がクラウドの口を衝いて出た。
「…はぁっ…あ!?」
「ここがいいのか?」
中で指を鉤型に曲げて刺激を与えると、クラウドはシーツをぎゅっと握り、身体を捩った。
「ん!…あ、そこ…っ」
誘うように腰を揺らして、そこがいいのだと言外に主張する。内側を刺激しながらぷるぷる震える茎を扱いてやると快楽に耐えるように頭を嫌々と揺らす。
「ふぁあ…気持ち…いぃ…」
更なる刺激を求めて締め上げる内襞から指を引き抜くとクラウドが薄らと涙を浮かべながらザックスを見上げる。
「…ザックス…?」
「悪ィ…オレもう限界だ…」
かすれた声でそう告げるとクラウドの膝裏に手を入れて両腿をさらに広げる。そして怒張した自身を押し当て、中へと挿入した。
「やああぁっ!」
指とは比べ物にならない質量を後孔から押し入れられ、クラウドは喉が嗄れんばかりに声を上げる。手加減してやる余裕もなく、ザックスは細腰を掴んで思うさま抽迭を繰り返す。
「クラウド…クラウド!」
「あっ!あっ!ザック…っ」
クラウドは自身の腰を捕らえる両腕を握りしめながら五体を支配する疼きに耐えられず爪を立てた。先ほど探り当てた快楽得る箇所を擦ってやると、よがり声を上げながら白魚のように背中を仰け反らせた。
「やぁん、そこダメだよ…っ!」
「ダメ?気持ちいいんだろ?」
焦らす様に動きを緩めるとコクコクと首を縦に振りながらザックスに懇願した。
「あ…ぅん…気持ちいい…もっとして…」
「…お前本当に素直だな」
「んっ?あ…なに?」
それに答える代わりにザックスは腹の間で小さく勃ち上がっている細茎を扱いてやる。
「きゃうっ!ザックスぅ…イイの…ぉ!」
ベッドに押し付けられた両翼を僅かに揺らしながら快楽に悶える姿が何とも淫靡で。
自分の手で純白の天使を犯しているという背徳感がザックスを絶頂へと昇り詰めさせる。
「クラウド、好きだ…っ」
「オレも、大好き…」
「もうどこにもいかせない。オレのものだ…」
「あ、ザックス!ザックス…!」
仰け反る顎を吸いながらザックスは自身を奥へ奥へと打ちつける。
「クラウド…中に出す」
「うん、いいよ…出して…」
それを受け入れると、クラウドは無意識のうちに両足をザックスの腰に絡めた。ザックスは誘われるまま律動を早めると、最奥で白濁を吐き出した。
「んっ…!」
「ふあ…あう…っ!」
中で断続的に放たれる熱い精に合わせてクラウドもびくびくと身体を震わせて達した。
「あ…出てる…ザックスの、いっぱい出てる…」
うわ言のようにつぶやきながらクラウドは残らず絞るように締め上げた。
「はぁ…はっ…」
長い射精を終えて、ザックスが中から自身を引きずり出すと、その後を追うようにひくつくそこから白濁の液がとろりと流れ出る。だらしなく投げ出された両足のおかげでその様子がザックスの目からもはっきり見て取れた。
クラウドの腹の上も自身の放った精が撒き散らされ、白濁の欲にまみれた身体を上下に揺らしながらうっとりとした表情でベッドに顔を埋めていた。快楽の余韻がまだ消えないのか、時折喘ぎ声を口から漏らしている。
「んっ…あん…」
上気した淫らな肢体は人間に犯し穢されてもなお天使の面影を残している気がして。
まだ足りないとザックスの欲に火がつく。
「クラウド…しゃぶって」
「ふあ…?」
眼前に突き出された雄はまだ硬度を僅かに保っており、粘液で滑っていた。クラウドは言われた通りに従い、それを口に含む。
「んん…」
「残ってるの全部飲んで」
「ふ、んむ」
口をすぼめて中に残っている精をちゅうと吸い取るとこくんと飲み干した。淫らな糸を引きながらそこを口から離すと名残惜しそうに鈴口をぺろっと舐めた。
「…これでもう、戻れない」
「あ…?ザックス…?」
「オレのものだ…」
ザックスはお互いの白濁で汚れた身体のまま放心しているクラウドを胸の中に抱き寄せる。まるで連れて行かれないよう、何かから隠すように。
天使はザックスの手の中に堕ちていった…。