epilogue...
朝の訪れを告げる鳥の声とカーテンの隙間から差し込まれる光でザックスは目を覚ました。ふっと顔を横に向けると、腕にあったはずの重みがないことに気付き、がばっと身体を起こした。
「…っクラウド!?」
先日の悪夢が蘇り、ザックスは慌ててベッドから飛び起きるとリビングを見回した。すると一糸纏わぬ姿で窓際にぺたんと座るクラウドの姿が目に飛び込んできた。
「おはようザックス」
「お、脅かさないでくれよ…」
クラウドの側まで行くと、ザックスはその横にへなへなと座り込んだ。クラウドは何事もなかったように自分の前で項垂れるザックスの頭を撫でた。
「ザックス」
「ん?」
「なくなっちゃった」
「…何が?」
ザックスが尋ね返すと、クラウドは自分の背中を指差した。
そうか。昨日の"契り"で本当に人間になったのか。
「もう…戻れないな」
「うん」
「…本当によかったのか?」
「うん。ザックスと一緒にいられるもん」
かわいいことを言ってくれるとザックスは背中から包み込むようにしてクラウドを抱いた。自分を包む身体に安堵しながら、クラウドは背中に体重を預けて微睡むように目をつぶった。
「…いなくなった間、何してたんだ?」
「えーと…大天使様のところに行って、やっぱりザックスのこと好きですって言ってきた」
怖いもの知らずといえばいいのか、どこまでも直球で行動するクラウドにザックスはしばし言葉を失う。
「お前…怒られたんじゃないのか?」
「ううん。なら勝手にしろって」
おそらくは呆れながら言ったのだろうが、禁忌とされている行為をいともあっさり許してくれるとは、天界一怖いらしい大天使様も意外に寛大なのかと妙に感心してしまう。
「でもね…」
「でも?」
「人間は天使じゃなくなったお前に興味なんか持たないって言われた」
「……」
「ザックスもそう思う?」
ザックスは自分の方へ向き直って見つめてくるクラウドの鼻を摘んでやった。
「んー、痛いよ」
「バーカ」
痛そうに鼻をさするクラウドを胸の中に引き入れた。そして翼の消えてしまった背中を静かに撫でてやる。
「天使だろうと何だろうとクラウドはクラウドだろ?」
「じゃあ一緒にいてもいい?」
「当たり前だろっ」
心配そうに覗き込むクラウドに口づける。
「…翼なんかなくたって、お前はオレの天使だよ」
心地よい体温を感じながら、目の前の愛しい存在とこれからも過ごすことの出来る喜びを噛み締める。
するときゅるっとかわいい音が響いた。
「ザックス、お腹すいた…」
「はは…そういえば昨日夕飯食ってなかったもんな」
小さく笑いながらクラウドの頭をくしゃりと撫でる。
「じゃ、ホットケーキでも焼くか」
「うん。あれ大好き」
窓から照らされる眩しい朝日を浴びながら二人は新しい一歩を踏み出した。