scene.4 ソルジャーは見た
ザックスの居住する兵舎は繁華街の近くに立地しており、深夜まで営業している店や24時間営業の店も多く、生活が不規則なソルジャーにとってこの上なく便利だった。ショッピングモールも充実していたし、衣服を揃えるにも事欠かずに済む。
その施設の一角にあるファミリー向けのファッションフロアにザックスは足を運んだ。ここならサイズも豊富にそろっているし、何より奇抜なデザインの服は取り扱っていなかったのでただでさえ目立つ容姿をしているクラウドにはちょうどよい。
サイズは抱き上げた時の感触からXSと直感で決めた。あとは適当にポイポイとショッピングカートに投げ入れて行く。靴はスニーカーにしようと思ったが足のサイズまではさすがに見当もつかず、サイズの融通が利くコンフォートサンダルを選んだ。
服以外にも気に入りそうなお菓子やら何やらと買い漁った為、結構な大荷物になってしまった。
大荷物を抱えて兵舎へ帰ると、エレベーターホールで昇降ボタンを押したところで後ろから声を掛けられた。
「よお、ザックス」
同期のソルジャー、クリスだった。クリスはザックスの抱えている大荷物を尻目にその肩に自分の腕を回してきた。
「今回の遠征、随分大変だったらしいな」
「おー…帰って来たの昨日よ」
そういえば一昨日は任地でミッションに参加してたんだよなと改めて思い出した。
それが今日になって天使に出会って、ごはんを食べさせ、服を買ってと誰がこんなことが起こると予想出来ただろうか。まさに青天の霹靂だった。
「ふーん。昨日の今日でなあ」
「あ?」
含みのある言い回しをするクリスを訝しげに見やる。
「いや、お前がイメクラから朝帰りしてるのを見たって話聞いてさ」
「………」
もしかしなくともクラウドのことだ。今朝巨木の下からお持ち帰り(?)している姿を目撃されていたのだろう。
「すっげえかわいこちゃん抱えてコソコソ部屋に戻っていったって聞いたぜ」
小突くクリスに「見られてたか…」とあからさまにバツが悪そうな顔をしてしまった。そしてそれが余計に向こうの好奇心を煽り立ててしまうこととなった。
「どこの店の子捕まえたんだよ」
「あー…それ誰から聞いた?」
「ロイド」
あいつか…あいつ口軽いんだよな…。
厄介なヤツに目撃されたものだと心底面倒くさそうにザックスは溜息をついた。
「どうやってイメクラの子をお持ち帰りしたんだよ?」
「いや…ちがうんだ。たまたま拾った子でさ」
「だってすげえ格好してたんだろ?天使のコスプレしてたって」
コスプレじゃなくて天使そのものなんだよ。
とは口が裂けても言えなかった。
「まあ事情があって置いてやってんのよ…」
「どんな事情だよ」
「話せねえよ」
話したところで信じはしないだろう。いや、クラウドの姿を見せれば一発で信じるかもしれないが、たかがそんな理由でクラウドを見せるなど勿体ない。
「…繊細な子でさ。そっとしといてくれよ」
「ふーん…そんな繊細な子をお前のところに置いとく方が心配だなあ」
「…どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。ま、そこまで言うなら詮索はしないさ。ただロイドのやつは知らねえぞ」
「ああ」
あっちはほぼ諦めている。周りに吹聴されてもいつものお持ち帰りだとすぐに忘れ去られるだろう。
(…いやでもオレそんな頻繁にお持ち帰りしてないぞ?)
ともかく、自分は仕方ないにしてもクラウドを好奇の目に晒すのは憚れた。
クリスと別れた後、ザックスはエレベーター内で大きくため息を吐いた。