『続・蘭世ちゃんのヰタ・セクスアリス』:6666カウントゲット記念



◎中編

2日後。
カルロが帰国し、久しぶりのデートである。
結局蘭世は誰にも”そのこと”について相談できず、調べる機会もないまま
その日を迎えてしまっていた。

蘭世はおみやげ?にブランド物のスーツと宝石をもらい、
すでにそれらを身に纏っている。
最初のうちは再会できたことが嬉しくてあれこれと楽しく会話が弾んでいた。

夕食を済ませた後、2軒目の店である。
この店にはカウンター席もあり、最初カルロはそちらへ行こうとしたのだが
蘭世が首を横に振ってテーブル席になったのだった。
(・・・だめだぁ・・・)
ムード満点のそのカウンター席を見て、蘭世はひるんだのだ。
それまで忘れていた”あの雑誌の記事”のことを思いだしてしまったのだ。
きっと身体が触れたら、カルロにもらった緑の指輪が
私が何を考えているかを彼に伝えてしまうだろう。
(あの事を心配してるなんて、カルロ様には知られたくない・・・
 やっぱり恥ずかしいよぉ)
さりとてカルロ家の指輪を外すわけにはいかない。
・・それでテーブル席を選んだのだった。

向かい合わせの席。
高層ビルの最上階にある店。
テーブルにはカクテル。
・・・次第に夜も更けていく。

カルロは両肘をテーブルにつき、手を組む。
組んだ手の向こうから蘭世を見つめる瞳。
その視線は、優しいような、それでいて妖しいような・・・
見つめられるだけで身体の芯がクラクラしそうだった。

以前の何も知らない蘭世だったらここで同じように
両肘を付いて微笑むだろう。
視線の中に混じる妖しさの意味を知らなかったから・・・。
だが、今は・・・
(・・・う・・・どうしよう・・・)
背を伸ばし両手はテーブルの下にしまったままだった。
心臓がドキドキと波打つが・・・指先が冷たくなる感覚があった。
(きっと・・・今日、よね・・・)
思わず下を向いてしまう。

カルロも蘭世の様子がおかしいのに気づき始めていた。
蘭世の表情がなんだか固い。
飲み物だって、テーブルに運ばれて来たときに一口飲んだっきりだ。
(・・・)
カルロだって、出張前の約束はしっかり覚えている。
今日こそ・・・という思いは同じだった。
(・・・それで 緊張しているのか?)
下を向いて顔を青ざめさせている蘭世。
カルロは待てよ、もしや・・・?と思い聞いてみた。
「どこか気分が悪いのか?」
カルロのその問いには、あわてて蘭世は首を振った。
「ううん!そんなことないよ!」
「では、何か心配事でもあるのか?」
ぎくっ。
蘭世の表情が変わったことを、カルロは見逃さない。
「え、えへへ・・・私、今日そんなに変かな」
ごまかし笑いをしても無駄だった。

カルロはそっと蘭世の頬に手を伸ばす。
(心を読まれちゃうっ!)
蘭世はギクッと身をすくめ、つい引いてしまった。

(・・・)
カルロはふっ とため息をついた。
カタン、と席を立つ。
「・・・外へ出よう。」
「・・・」
カルロの表情は前髪に隠れて判らない。
蘭世も黙って頷き、続いて席を立った。

レディファーストなので店の中では蘭世はカルロの前を歩いている。
後ろでカルロがどんな表情をしているか心配になる・・・。
が、振り返るのが怖かった。

店の前は広いガラス張りの展望エリアになっていた。
平日のせいか、人も少ない。
屋内であり、コートさえ着ていれば寒くはなかった。

(・・・)
(・・・)
ふたり、並んで夜景を眺める。
肩と肩の間に、5センチの隙間があった。
カルロが葉巻に火をつける。

しばらく、沈黙が続いた。
夜景は目に映っていたはずだが心ここにあらずで、
景色は無いも同じ状態だった。

(・・・怒らせちゃったかな・・・)
さっきのリアクションはまずかったよね・・・
触れただけで以心伝心、というのは時と場合によっては厄介な物だ。
好きな人には隠しておきたい事だってあることを
今回で蘭世は痛感したのだった。
(でも、こんなエッチなことで悩んでるなんて・・・
 誰にも、ましてやカルロ様には知られたくないよ・・・!)
だが、蘭世はカルロの差し出す手から
身を引いてしまったことは後悔していた。
カルロ様のことは大好きなのに。
もう、覚悟・・・していたはずなのに。
このままじゃ、カルロ様が嫌なのかと誤解されちゃうかも・・・

蘭世は手すりを握りしめ、覚悟を決めた。

カルロ様のこと大好きなんだもん。
カルロ様に誤解されて嫌われるのは・・・もっと嫌だ。
・・・Hな事考えて変な子だと思われるかも知れないけど・・・
思っていることは言わなくちゃ、だめよね・・・

大きく息を吸う。
「カルロ様・・・さっきは、ごめんなさい」
やっと、一言言えた。
蘭世はまずほっ と息を吐く。
「ランゼ・・・?」
カルロは別に怒っていたわけではない。
ただ、蘭世のリアクションを待っていたのだ。
・・・胸の裡(うち)にある”心配事”を話してくれるのを。
カルロは葉巻をそばにあった灰皿でもみ消した。
心配そうに蘭世の横顔をのぞき込む。
だが、蘭世はまだ夜景へ視線を落としたままだった。
「謝る必要はない。何か心配事があるのか・・・私でも話くらいは聞ける」
「あのっ・・・私、私・・・」
もごもごと蘭世は口ごもる。相変わらず下を向いたままだ。
「私っ・・・変な子だと思わないでね・・・」
「?」
「前にあったときの・・・約束、覚えている?」
「・・・元気になったら、っていうあれか?」
コクン、とうなずく。
「わたし・・・そっ、その・・・」
ここからが肝心なところなのに。
蘭世は乙女な羞恥心と必死に闘っている。
言わなきゃ。
でも。
恥ずかしいよー
蘭世は必死に言葉を探す。
「そのっ・・・あれからね、いろいろそのことについて勉強したの・・・
あのっ、私、本当に何も知らなかったでしょう?」
「・・・そうだったな。」
「ルームメイトにね、本を借りて・・・あっ、ちゃんとした教科書みたい
だったの!ヘンなのじゃないのよ!!」
カルロはそれを聞いてぷっ と吹き出す。
「別にヘンなのでもいいではないか。私は構わないぞ」
「いやっもう!からかわないでっ」
蘭世はちょっとむくれる。
ここでやっとカルロに視線を戻していた。
だが、ハッと我に帰りまた顔を赤くして夜景へ目をそらした。
また、深呼吸。
「どうやってするのかも判ったんだけど・・・その・・・」
”17センチ。”
この言葉が頭の中を走り抜けていく。
だめっ。変な言葉は使いたくない。
「私、日本人・・みたいに小柄だし、その・・・体格の大きい欧米人の
 カルロ様とかは・・・そのっ・・・きゃーっ!」
蘭世はひとりで悶えてしまった。夜目にも顔を真っ赤にしているのが判る。
顔を覆って座り込んでしまった。
(・・・)
たぶん、アレのことかな?
その蘭世のリアクションでだいたいカルロは見当がつきだしたのだが・・・
「・・・そうだな、蘭世は細くて華奢だな」
気持ちも読むことが出来るのだが、
言葉で遊ぶのも楽しいだろう・・・。
「言いにくいことならば小さな声で。私に聞こえさえすればいい・・・」
カルロも隣に座り片膝を地面につけた。
含み笑いを浮かべながらカルロは蘭世の頬にキスをし耳を寄せた。
蘭世はもう気が動転しっぱなしだ。
でも、ここまでされたらもう言うしかない。
「そのっ・・・17センチもある大きなのが入ったら、
 きっと私こわれちゃうっ」
しまったっ。
”17センチ。”
言うつもりのない台詞まで口をついて出てしまった。
カルロは・・・今も葉巻を手にしていたらきっとぽろっ と
取り落としていたに違いない。
「そんなサイズの情報まで教科書に書いてあったのか?」
ちょっと驚いた表情で蘭世の顔を見る。
「ちちちがいますっ・・・これはあのそのっ、
 日本の女の子の雑誌にのってたの・・・」
「日本の・・・ね」
カルロはほっ、とうれしさと安堵の混じった笑顔を蘭世に向ける。
蘭世の思い詰めていた事の内容が、こんな可愛いことであったとは。
「あっ!馬鹿にしているでしょ?」
蘭世はまた拗ねて顔をしかめる。
「そんなことはない。・・・新鮮だなと思っただけだ」
「え?・・ぅっ」
蘭世が言葉の意味を聞き返そうと何気なくこちらへ振り向いたところへ。
すかさず頬へ手を伸ばしそっと桜色の唇を塞ぐ。
「ランゼ。お前の気にしていることはわかったよ」
唇を離して、蘭世をのぞき込むカルロの表情は少し楽しげだ。
そして、少し首を傾げてカルロは思案し・・小さな提案をした。
「そうだな・・・私に少し任せてもらえるかな?悪いようにはしない。
 私は強制はしたくないし、辛かったら途中でやめてもいい」
蘭世の胸はどきどきと高鳴り・・・体中が、
指の先までも火照って熱くなっている気がしていた。
「どうかな?」
(・・・)
真っ赤な顔をして蘭世は小さくコクンと頷く。
私の心配事はわかってくれたみたいだし、
きっと手加減してくれる、よね・・・。

カルロは立ち上がった。
微笑んで、まだ座り込む蘭世に右手を差し出す。
「ランゼ。おいで」

蘭世はその差し出された手を・・・見つめた。
深く息を吸いこみ・・・その大きな手に華奢な細い手を、重ねた。


つづく


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