ショートストーリー:−なるとも様イラスト「a Woman in Red」に寄せて−

3)

カルロは 蘭世をそっと広いベッドの上へ横たえる。
それはまるで繊細な花々で出来たブーケを・・その花びらを傷つけまいと扱うがごとく。
蘭世の心に未だ残る不安を 少しでも取り除けるように。
彼女への想いを初めて遂げてから まだそんなに時が経ったわけではない。
(今日 私は・・・あなたのために この赤を選んだの。)
彼女なりの精一杯。
ガラス細工のように透明で繊細な彼女のその決意を砕いてしまわないように
カルロは細心の注意を払う。
・・・蘭世を愛しく思う気持ちが 彼の動きひとつひとつから零れ落ちてくる・・・

真白なシーツの上に 真紅の薔薇を纏った白妖精が一人
窓からこの部屋へ入ってくる淡い月明かりが 部屋の調度品に ・・広いベッドの上にも
そしてその上の恋人達へも藍色の陰影をつけていく。

蘭世は愛しい男の顔を見上げる。
藍色の空気の中でなお 彼の微笑みは蘭世の心を溶かしていく。
(なんて きれいなひとなのかしら・・・)
恥じらいながらも瞳を潤ませ ゆっくりと愛しい男の両頬に手を伸ばす。
そして蘭世は心を込めて彼の名を呼ぶ。
「カルロ様・・・」
あいしてる。口にしなくても 声がそう彼に呼びかけている・・・

藍の中でも その初々しい紅い花は カルロの心に情熱の火を灯す。
「ランゼ・・・」
甘く熱く視線を絡め合わせ 覆い被さるようにして唇を重ねていく。
カルロは窓辺にいたときよりも さらに情熱的に蘭世の唇を求める。
彼女の唇から熱を帯びた吐息が零れたのを合図に カルロはその舌を滑り込ませる。
「・・・んぅ・・・」
蘭世の頬が紅く染まる。
白い首筋をのけぞらせ 彼の首筋に置いた両手の指先で
金色の髪を梳くように絡ませ・・それを思わず きゅ、と握っていた。
そして
紅の魔法なのだろうか
いつもなら受け身でじっとその舌を受け入れるだけの蘭世が 
突然その熱い口づけに応えてきたのだ。
自分からも その侵入してきたカルロの舌へ求めるように小さな舌を絡め合わせていく。
その可憐な花の初めて見せた情熱に カルロの心は一層熱く惹き込まれていく。
熱く熱くお互いを・・それこそ貪るように求め合う悦楽に溺れる・・・ 

それでも。
(・・・っ!)

カルロがさりげなく白く細い足の膝にそっ と手を載せ 太股の内側をゆっくりと撫で上げると
核心のことを思い出したのか 蘭世の身体は途端にきゅ・・と固く強張る。
そうして両膝をぴったりと閉じてしまった。
(・・・)
少し唇を離しその表情を伺えば 恥じらって固く目を閉じ 眉を寄せているではないか。
小さな顎が 細かく震えている・・
扇情的な衣を纏ってはいるものの 心の奥底までは淫らな紅に染まりきっていないらしい。

(ならば 紅い薔薇の蕾を見事に花開かせてみせよう この私の手で)

カルロは口元に笑みをたたえ 愛おしげな視線を落とすと彼女のこめかみにそっと唇で
触れていくのだった・・・。


つづく


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