『a foreign・・・』

(11)




数ヶ月後。
やがて本格的に吸収合併が始まった蘭世の会社に、多くの異動命令が出され始めた。
中にはかなり無体なのもあって、それは暗にリストラを要求しているようなものまで
存在していた。

筒井は激戦区で何かと忙しく 良い意味でやり甲斐のある 悪く言えば
やたらと苦労が絶えない市場の国・・中国へ転勤が決まる。
(課長補佐だから栄転なんだろうか・・・?)
筒井はそれでも なんだか左遷されたような気分だった。
カルロの闇の手を背後に感じずにはいられない。
(・・・べつに飛ばされなくたって 僕はもう何も反抗する気はないんだけどな)
筒井はため息をつく。
あのとき、筒井は悟ったのだ。もう それはイヤと言うほど。
蘭世の心は 誰のものか。どんなに長く離れていても あの二人の絆がどんなに堅固なものだったか。
まざまざと見せつけられたじゃないか。
終始目隠しはされていたが 彼女の息づかい 声 シーツの上で悶える衣擦れの音・・

もう カルロへの仕返しにそれを誰かに公表しようなどと思えないほど 蘭世はあのとき
はっきりと カルロとの交わりを悦んでいたんだ。あの場にこの僕がいようと すっかり眼中から
消え去るほどに・・・
(やっぱり 僕は蘭世ちゃんが悲しむのを見たくない ・・はは すっかりしてやられたよな)
カルロはそれを見越して あんな悪戯をしたのだろうか・・
悔しい。だが ここまですっぱり完全に負けたとなると 何故か諦めることもたやすく思えるのだ。
(最初から 僕の独り相撲で 僕の出る幕は無かったと言うことだ)
それに気づかないほどには 筒井は愚かではなかったようだ。
できれば ”あの再会の時”から気がついていれば良かったのに。
なかなか運命とはそうは行かないもののようだ。

筒井は中国へ・・
そして 蘭世は。

(え・・・フランクフルト・・・!?)
・・ドイツへの異動である。

これを受諾しなければ蘭世は会社を辞めなければならない。
リストラの波が蘭世の身にも降りかかってきたように 周囲の者たちには見えた。

「・・・蘭世がドイツ?!ドイツ語なんてあなた話せたっけ?」
「無理しないほうがいいわよ!転職先なんて今なら結構増えてるんだから」
知り合いは そう口々に言う。
いつもの蘭世なら 素直にこくん と頷いて 皆の言うとおりにするに違いない。
ところが。
「えへへ・・そうだよね でも 新しい自分にも挑戦してみようかな なんて思って」
いつもと違う反応に 周囲は驚かされる。
「え?!本当に行っちゃうの??!」
「うん・・みんなと別れるのは辛いけど・・」

周りから見ればそれはまるで清水の舞台から飛び降りるよう。
(江藤さんて 実は結構骨があるひとだったのね)
海外へ行く蘭世に皆驚いたり励ましたりする。
そして蘭世はあたたかいまなざしに見送られてドイツへ渡る・・・





ドイツ、初日。

やはり秘書の仕事を与えられた蘭世は、担当となる上司がいる部屋へ向かう。
仕事は・・ドイツ支社長の秘書だった。
覚えたての片言ドイツ語で「おはようございます、はじめまして」などと挨拶し・・

蘭世は支社長室のドアを ノックする。


ドアを開けば 綺麗に磨かれた広いオフィスの奥 人影が見える。

(!)

大きなデスクの向こうに座っていたのは。
カルロ、その人だった。
蘭世を認めると彼は椅子から立ち上がり 広いデスクの横をまわってこちらへ近づいてくる。
いつもと同じく グレイのゆったりとしたスーツを粋に着こなし そして 両腕を広げて・・・
彼の口から流暢な日本語が 流れてくる。
「良く来たね・・待っていたよ」
「カルロ様!」
蘭世は思わず駆け出し、その懐へ飛びこんでいった。

カルロは支社長も兼任することになり 生活の拠点がドイツに移ったのだった。
だが 今度は一人で蘭世のもとを去ったりはしはない。

本来なら二人手に手を取ってドイツへ渡りたかったのだが
お互いの仕事の都合上 どうしても蘭世が後から単身で入国することになったのだ。

「ひさしぶりだな・・」
「うん。」
7日ぶりでも ”久しぶり”とカルロが言ってくれる事にも 蘭世は幸せを
感じることができてしまう。

「一人で心細かっただろう?」
「うん・・ドキドキしちゃった。なにしろ海外旅行これがはじめてだもん。
 でもやれば私でもできるのね!」

カルロは腕の中に蘭世を包み込み 流れるような黒髪を優しく撫でる。
その心地よさに 思わず蘭世はカルロの胸に頬をうずめる・・

「おまえを住み慣れた日本から引き離さなければならないのが辛かった」
「ううん!いいの 私は大丈夫よ・・・!」
そう。
あなたと一緒ならば どこだって楽園になる。どこまでもきっと 強くなれる・・・
「ランゼ。困ったことがあればすぐに相談しなさい」
「うん。ありがとう・・・言葉もお仕事も一生懸命覚えるね!・・その あんまり
 どっちも早くは出来ないかもしれないけど」

はにかんで答えるその小さな額に カルロは唇を寄せる。
「おまえは 異国でだって きっと綺麗に咲くことが出来る。」
蘭世はその言葉に 色々な意味でどぎまぎする。
「そっ そうかな・・」
「大丈夫だ。私がいつでも側にいる」

不思議。カルロ様がそう言うと ほんとに何もかも上手く行けるような気がする。

私は 異国で咲く花に なれるかも しれない・・・


end.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき。



あしかけ1年以上にもなりましょうか。
ようやく最終回を迎えることが出来ました。 ああ 思ったよりも長くかかって
辛抱強く待って下さった皆様には ほんとうに感謝 感謝です・・そして お待たせしてごめんなさい。

このお話は 公表している連載の合間に、ほそぼそと綴っていまいりました。
内容を振り返る前に まずこの話を書く決心をしたきっかけについておはなししなければなりません。

それは 旧名 「柚子書房」様 ・・現在は「愛ある世界」 さまにて
さる方のリクエストから描かれたイラストでありました。
カルロ×蘭世 のリーマンもので3枚組のものです。
もうそれはそのup当時 そのイラストに萌えまくりまして。
お話が書きたくなってこれの第1話があっという間に 出来上がってしまったんです。

そのときに ちらり と柚子様にはその事をメールで申し上げたのですが
(おそらくお忘れになっていると思います・・)
その続きを私が書く事を いろんな意味で どうしようか随分迷っていたのです。

完結まで終わらせる自信もまったくなく
(なにしろ柚子様とご縁のある表の”新・魂のゆくえ”も えんやこら続行中ですし)
それでも1話だけで放置してしまうのも勿体なく
迷いに迷った挙げ句

こそっ

とこんなところで書き進めることにしたのでした。
そして もしもめでたく終わらせることが出来たそのときには 柚子様に報告しようと・・・
素敵なイラストに萌えて こんな話をつい書いてしまった ヘタレな輩がいた ということだけでも
お伝えしようかと 思っていた次第です。

いえね、なにしろ1年前から書いたもので 後から読み返すと アラが一杯 目について
しまって・・・穴があったら入りたい・・・だから読んで下さい とはとても言えず
さりとて改訂する気力がでない今日この頃・・トシを感じます;
そして
きっと誰にも気づかれず 読んでもさほど感想はもらえまい・・と思っていたのに
有り難くも この隠れ家を見つけて下さった読者の皆様には更新のたびに温かい感想メールで
いつも励ましていただいて 
間違った形かも知れないといつも思いながらも ああ 書いて良かった・・と思う毎日でありました。
感想を下さった全ての皆様に 改めて感謝申し上げます。

途中で突然レイプ要素が入ったりして驚かせて いまさらですが その節は本当に失礼いたしました。
予め前書きで警告文を添えるよう これからは気をつけますね・・
(今から読む方(いらっしゃるかどうかわかりませんが)のために先頭へ添えておきました);
そして、カルロ様の神聖なイメージを壊してしまっていると思います 本当にごめんなさい・・

素直に白状してしまいますと 書いてて 楽しかったです。
リーマンカルロ様、私の好きなジャンルになりました。
別パターンも書いてみたくなっている 懲りない私・・・

異世界ものも 半分(いえおおいに)皆様に引かれながらも めげず
これからもあれこれ書いてみたいです。
あらためて 柚子様に(勝手に(ほんとうに・・汗))感謝の気持ちを捧げます・・

                                悠里 拝
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