冬馬の棺桶へ 


『パラレルトゥナイト:零れ話・硝子様カウント2万ゲット記念』



『The Black-Velvet』


(2)



蘭世の瞳から 涙が ぽろり ぽろりとこぼれ落ちる
ひとつ またひとつ

広い広いスイートの応接間 机の上 1人取り残されて

こんな格好で恥ずかしい とか 酷いコトされて悲しい とか
そういうことを考えもする
だけど なんだろう


貫かれた身体の痛みより 心が 痛い


嫌われちゃったのかな 私
ダークの気持ち考えずに 後先考えずに行動しちゃって
やっぱり 私だって ダークが私以外の女の人と一緒にいたら嫌だもん
ダークだって同じ思いだって 思っていいよね?

でも こんなにダークは怒ってる
ひょっとして 私
迂闊すぎて 判って無くて 子供っぽすぎて
あきれられちゃったのかな

もうこのまま ”愛してる”って 言ってもらえないのかな

そんなことを考えて 心が痛い・・・

ダーク 早く帰ってきて
ううん
帰ってくるのが 怖い・・・
ふたりのその先を知るのが こわいの





「・・・おい 聞いてるのか カルロ」
「すまない 考え事をしていた もう一度たのむ」

 私としたことが 
 仕事に私情は禁物だというのに


この私が 集中できずにいる


「ちょっと疲れてんじゃないのか 最近会議詰めだからな お前も休め」
「・・・構うな 説明を続けてくれ」

人を殺したときだって こんなに動揺はしない
同じようなこと・・いや もっと非道いことをしたときだって ある
そのときはなんともなかった この私が 何故?
どうしてこんなに普通でいられないのだ

この私が うろたえている?
まさか。


再び私があの部屋に戻ったとき ランゼはどうするだろう
あの口封じを解いたとき どんな台詞を零すのだろう

泣いて縄を解いてくれと懇願するだろうか
それとも私を非道い男だと非難するだろうか
もう この非道い私を 嫌うだろうか

もしランゼが私を嫌っても 私は彼女を手放す気はない
執拗に閉じこめ 誰にも会わせない
私の元から逃がしはしない
おそらく 逃げようとすればするほど 私は追い詰め行く手を塞ぎ
奥へと閉じこめていくだろう

愛なのか 狂気なのか もう わからなくなる・・・・





カチャリ

軽い金属音がして 空気が動いた
密閉された空間だった部屋のドアが動き・・・部屋の主(あるじ)が帰ってきたのだ。

蘭世はその音にビクッと身体を震わせる
帰ってきて欲しいけど 帰ってきて欲しくなかった
ついに この時間が来てしまった

コツ、コツと靴音が部屋に響く

「・・・」

カルロは未だに無言・・

少し離れたところで傍らの壁にもたれ 腕組みをしている
懐から細い葉巻を取り出し 火を灯した
蘭世はその無表情な男の視線をとらえようと 必死に潤んだ目を向ける
それは捨てられる事に気づいた子犬のような 悲しげな瞳で
紫煙のむこうに霞む君を 唯一自由に動く視線で追い求める
「・・・」
何か 彼の内部でも決意したのだろうか
カルロは ふと瞳を伏せ俯くと つ・・と右手を挙げる
その瞬間 蘭世の口を封じていたハンカチが緩み宙へ浮いた


「ダー・・ク」

自由になった蘭世の唇は、真っ先に彼の名を呼ぶ

「ダーク・・・ごめんなさい・・私・・・」

そして 涙は止めどなくあふれ続けていて

「何故お前が謝る?」
非道いことをしているのは私の方なのに

俯く彼から零れる言葉は未だ氷のよう

「私・・・悪い子だから・・・どんなことされても仕方ないもん・・・」

その言葉に 俯いていたカルロの瞳が上がる
はっ、と驚くような表情で

「もう ダークに愛して貰う資格・・・ないよね」

真っ赤に泣き腫らした目をして 嗚咽をこらえて くぐもった声で 
彼女は詫びる

「ダークが嫌がるようなことして・・ごめんなさい。 
 私 まるっきり子供で わかってなくて・・
 でもわかって・・私は ダークのこと ほんとに愛してるの
 でも もう 私なんか迷惑な子かな」

彼女は 解いて欲しいとも言わず
私を非道い男だと責めもしない

吸いかけた葉巻を灰皿へ捨て 視線が蘭世の頬をつたう涙へ釘付けになる

ああ そうだ
これはそういう娘だったのに

こんな優しくもか弱い心根の娘を 私は得ていたのに
私は・・・

そして 一歩一歩 蘭世へ近づいていく

「だめだ ランゼ」

否定の言葉に 蘭世はまた怯える

「お前のようなか弱い娘は 他の男には任せられない」

「え・・・」

カルロは蘭世をくくりつけた机のすぐ側まで来ると彼女の素足の膝へ指先で触れる

「・・っ」

触れられた途端 先程の痛みを思いだし蘭世の体がすくむ
蘭世の両足は机から垂れ下がったままである

カルロは右手を足に軽く触れたまま下へすうっ・・と滑らせる
(・・・っ)
その動きに合わせて 蘭世は思わず息を飲み込む
恐ろしさと・・違う”何か”が 心の中で混ざり合っている

やがて小さな踵に到達すると その細い左足首を持ち上げた

(また 怖いことをするの?)

でも ”おしおき” だもん しょうがないわ
覚悟を決めて・・でも怯えて蘭世はぎゅ と瞳をまた閉じる

「ランゼ・・・」

足先を包み込む柔らかい感触がして、ふと目を開くと カルロが両手でそれを包み込み
足の甲に頬を寄せていた





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