口の中に小石のような粒が入ってきて、口許に冷たい物が当たるのを感じて、ジョナサンは目を開けた。レナードが片手でベッドに寝ている彼の頭を支え、コップで水を飲ませてくれようとしていたのであった。ここは寮の自室のらしかった。ちゃんと短パンとタンクトップも身につけていた。
「抗生物質だ」
レナードは説明した。
「綺麗に洗って…消毒もしておいたが、傷ができてて感染するかもしれない。飲んでおけ」
ジョナサンはまだ頭に霞がかかっているようで、彼の言葉の意味はよくわからなかったが、されるままに錠剤を飲み下した。
「よし…もう少し、休んでいろ」
レナードはジョナサンの顎に零れた水をタオルで拭ってやり、寝かせてぱさっと毛布を掛けた。
「おれは、事務局に行って来るから」
レナードはそう言って部屋を出ていった。
事務局に何の用だろう、とぼんやり思ったが、憔悴しきっていたジョナサンは、また眠りに落ちた。
 
ジョナサンは再び目覚めると、レナードがじっと自分をのぞき込んでいることに気づいた。レナードは笑って、
「済まない…見納めかと思ったから」
と言った。
「見納め?」
レナードは窓の外を見た。また、夜が来たようだ。
「俺はまた別隊に送られるようだ」
「…どこに?」
「とりあえずは土星だ。土星の衛星のどこかの小隊らしい」
「…最前線じゃないか!君が何を…」
そこまで言って、ジョナサンははっと気づいた。
「例の事件は秘密裡に処理された。だから、お前のことは中央司令部には報告されていない…。でも、俺はここにいるわけにはいかない」
「…レナード……僕のせいで……」
ジョナサンの瞳には、涙が浮かんでいた。二年前冥王星のコロニーが突然襲撃されて以来、海王星も天王星もひとたまりもなく陥落し、土星もほぼアポカリプスに征服されようとしていた。そこへ行くとなると、防衛戦ではなくて、征服されたところを取り返すことが目的であるから、不利な戦いは免れないだろう。ましてや、現行のパワードスーツでは、とても奴らに太刀打ちできるはずがない。
「お前のせいなんかじゃない。気に病むな。俺は俺がしたいままにやっただけだ。…あんな男が上官にいると、兵士がいくらいても足りない。あいつは自分の欲でしか動けない奴だ。部下が次々に死んでしまう」
「……」
「お前は、偉くなってちゃんと部下を率いてやれ。お前なら、できるはずだ」
レナードは冗談めかしてジョナサンの肩を軽く叩きながら言ったが、それはなおさらジョナサンの胸を切なくさせた。
「…レナード……」
今ジョナサンが望むことは、ただ、レナードの最前線送りが破棄されることだった。しかし、現在のジョナサンは何の権力も持たない非力な一戦士でしかなかった。だから…それは叶わぬ願いでしかなかった。
 
──そして数日後、レナードの旅立ちの日がやって来た。
レナードは、ジョナサンが手伝うまでもないほどの、自分の少ない荷物を整理し始めた。そして、あのナイフに目をやり、手に取った。そのまま、ジョナサンに差し出した。
「いろんな思い出がしみついちまった物だが…受け取ってくれるか?」
「………」
鞘に納まったナイフは、血痕はちゃんと洗い流してあるようだった。ジョナサンは複雑な表情をした。まるで形見みたいだ…という考えが、脳裏によぎってしまい、胸が苦しくなった。それでも、微笑んで見せて、受け取った。
「元気で、な」
レナードはそれだけ言って踵(きびす)を返し、部屋を出ていこうとした。
「…待ってくれ!レナード!」
ジョナサンは叫んだ。
「…なんだ?」
しばらくためらったが、勇気を振り絞って、言った。
「…君は、その気のない奴を無理に抱いたりはしない、と言ったな」
レナードは、少し不思議そうな表情を浮かべて、振り向いた。
「ああ」
ジョナサンは、どういう表情をしていいかわからず、視線を微妙に逸らしながら言った。
「僕の事を君の弟と重ね合わせていることも知っている。…だが、僕は…」
それ以上は、言えなかった。それでも、レナードには、ジョナサンが言おうとしていることを理解した。
レナードはゆっくりとジョナサンに歩み寄り、肩に手を置いた。
「お前は、お前だ…」
そして、ジョナサンをぎゅっと抱きしめた。ジョナサンもやや遠慮がちに、彼の身体に腕を巻き付けて応えた。
レナードはジョナサンを愛おしげに抱きながら、真摯な瞳で、
「今生の思い出に、一夜をくれないか…?」
と囁き、唇を重ねた。
 
レナードはジョナサンをベッドに座らせ、跪くようにしてブーツを脱がせた。そして後ろから抱きしめながら、着ていたものを一枚一枚丁寧に取り去り、現れた肌を撫でた。しかし、ジョナサンの身体は少し強張り気味だった。
「傷は大丈夫か…?怖いんじゃないか?」
ジョナサンは無言で首を振った。とはいえ部屋で寝かせたジョナサンは、時々うなされているように苦痛の声をあげていた。その上、現場も見てしまったレナードには、きっとコンチネンタルと秘書により、酷く苦しめられたであろうジョナサンが、どうしても怯えるに違いない、と推測するのは容易なことだった。彼を苦しませることは、避けたい。
レナードは、手を止めて、ジョナサンの眼をのぞき込んだ。
「本当に、いいのか?」
ジョナサンは一瞬、間をおいた。しかし、レナードを見つめて、
「ああ…構わないさ」
とだけ答えた。
「…出来る限り優しくする。それでも痛くて我慢できなかったり、辛かったら言え。ちゃんと止めるから」
レナードは最後の一枚に手をかけた。ジョナサンがびくっと身体を震わせた──恐ろしかった記憶が、蘇った。
「嫌なのか?」
手をすぐに止めてくれた。
ジョナサンは、彼の気遣いを嬉しく思い、首を左右に振って、レナードのされるままになった。
──あの行為は、怖いけど…レナードなら、いい。すべて、受け入れたい。自分をああまでして守ってくれた彼の気持ちに、応えられるのなら。
そして、「すべてまかせた」とでもいうように、ベッドに仰向けになって、目を閉じた。
自分も脱いだレナードは、身体を堅くしているジョナサンの両手を取って、そっと覆い被さった。
逞しい胸…。彼に包まれていることと、肌の感触が気持ちよくて、ジョナサンはレナードの手を、握り返した。
「脚を、広げられるか?」
レナードが、自分の下で身体を縮めているジョナサンにそう声をかけると、ジョナサンはおずおずと広げた。レナードはその間に、自分の脚を割り込ませた。目を見開いて、息を詰める様子を見たレナードは、大丈夫だ、というように手を強く握った。
「息を吐いて、楽にしていろ。怖がるな…」
ジョナサンの耳元で囁き、そのまま耳朶を舌で愛撫した。
「……!」
ジョナサンが身体をぴくっと震わせた。危うく上げそうになった声を飲み込んだ。寮の部屋は安普請で、隣の音や話し声が聞こえることがよくある。喘ぐ声が聞かれたら…恥ずかしい。そう思ってジョナサンは、息を吐くだけにとどめようとしていた。でも、レナードが首筋、鎖骨、と唇で辿るまでは何とか耐えられたが、乳首を舌でつつかれた時、それは破られてしまった。
「ああっ…!」
ジョナサンは思わず、喉の奥から低い声を漏らした。
レナードは芯を持ったそこを、唇で含んで充分に濡らし、歯の先を当てて丁寧に愛撫した。そうしながら、もう片方も、指先で擦り、軽く抓(つま)んだ。ジョナサンは、敏感な皮膚への刺激に耐えきれずに、断続的に声を上げた。
「あっ…はあっ…」
「そうだ…素直に、感じてくれ」
そう言われても、ジョナサンはやはり恥ずかしくて、声を抑えようとした。レナードはジョナサンの恥じらう気持ちを分かってはいたが──それでも彼の身体の、すみずみまで目に焼き付け、すみずみまで愛撫したいと思った。反応を見ながら、ジョナサンの身体を後ろに向けさせ、うなじや背中や腰にも舌を這わせた。
「あっ…はああっ……あああっ!」
尾てい骨の辺りまで愛撫を施されて、ジョナサンは叫んでレナードの腕から逃れようとした。
「…どうした?」
「なんだか…そこ…すごく……」
ジョナサンは最後まで言葉を綴れず、ベッドに伏せった。
ジョナサンの初々しい反応が愛おしくて、レナードはジョナサンの顔を上げさせ、彼の舌を自分の舌に絡めて貪った。
「んっ…んうっ…」
ジョナサンは深いキスをされて、頭がぼうっと熱くなってきた。腰も熱くなって、触られていないのに自分のそれが、張りつめてくるのを感じた。
口を離されたジョナサンは、身体の力が抜けて、ぐったりしていた。
「…疲れたか?」
レナードは身体を起こして、ジョナサンを見下ろした。
「少し…」
「これ以上はできないか?」
ジョナサンは「これ以上」の意味を考えて、顔が熱くなったが、首を振って、身体を起こした。二人は、ベッドの上で抱き合った。
レナードはジョナサンの手をとって、手の甲にキスした。ジョナサンは体をぴくっと震わせた。こんなところも、レナードに優しくされると感じる。
「…変だ、僕」
「いや…感じてくれた方がいい」
レナードは身体をずらし、ジョナサンの脚に唇をあてた。ジョナサンは全体的に体毛は薄いので、刺激はダイレクトに伝わる。仰向けにさせたジョナサンの大腿を、持ち上げて、その裏側を少しきつめに吸うと、ジョナサンは自分の頭を押さえて、声を上げた。
「あっ…!」
気持ちよさに、もどかしいような感覚も加わって、ジョナサンはもう片方の腕を伸ばした。彼に触れて、どこかで繋がっていないと快感のあまり飛んでいきそうな気がした。レナードはそれに答えて、ジョナサンの手を握ってやった。
男に愛撫されることに、抵抗感が無くなっていることを感じ取ったレナードは、ジョナサンの脚を軽く開かせた。ジョナサンの性器は勃っていて、先端は、透明な液体で濡れていた。レナードは根元を握りしめた。それはビクッと堅さを増した。
「はあっ…レナード!そんなっ……」
ジョナサンは思わず脚を閉じようとしたが、レナードはもう身体を、ジョナサンの脚の間に滑り込ませていた。
軽く手を動かすと、透明な液がまた流れ出てきた。レナードはその先端にそっとくちづけて、それを舌でぬぐい去った。それから、愛おしい男のものを、歯を立てないように、優しく口の中に包み込んだ。
「……ああっ!!」
ジョナサンは激しい快感に、身体を大きく捩(よじ)って、シーツをきつく握りしめた。
レナードは口に含んだものを、唇と舌で圧迫しながらジュプジュプと音を立てて、強く吸い上げた。ジョナサンは息を詰めた。腰が浮き上がるような感じがした。
汗だくになりながら、そっと目を開けてみると、レナードが自分の開いた脚の間に顔を埋めて、目を瞑(つむ)ってジョナサンのものを口に含んで無心に慈しんでいるのが見えた。
ジョナサンはシーツを握っていた手を離し、腕を伸ばして、自分の腹を軽くくすぐっている、レナードの金色の前髪を掻き上げた。レナードはゆっくりと目を開けて、ジョナサンと視線を合わせた。──彼の蒼い瞳が、自分をまっすぐ見つめている。レナードはまた目を閉じて、より深くくわえて愛した。
「ああっ!はあっ……!!」
ジョナサンはのけぞって低い喘ぎ声を上げ続けた。彼の喉の奥に当たるくらいに含まれて、下腹が痺れるように熱く感じた。限界が来そうだった。息が上がっていて、話すこともできないくらいだったが、
「レナード…離してくれっ……」
と必死で訴え、手で頭を押してどけようとした。レナードは、一端口を離した。だが…。
「達ったら、ちゃんと綺麗にしてやるから…」
そしてレナードはまた唇を当てて、根元を握っている手を動かし始めた。
「そんなっ…あああっ!はあっ!あっ!」
ジョナサンは申し訳ない、恥ずかしいという思いを抱きながらも、快感に勝てず、彼の前髪を指に絡ませたまま、熱い液を彼の口の中に放った。レナードは唇を離さず、ジョナサンのそれが達した衝撃でびくん、びくんと震えるのがおさまるまで含んだままでいて、中に残っていた残滓まで丁寧に吸い上げ、飲み込んだ。
「はあっ………!レナード……」
やっと離してもらったジョナサンは、身体を横に向けた。恥ずかしくて…顔が見られない。
「もっと、達けそうか?」
「……分からない」
ジョナサンは羞恥から少し無愛想に答えたが、レナードは彼の背中側に横になり、片足を立てさせ、後ろから手を回した。
「まだ、ここは堅いな…大丈夫そうだ」
「はあっ…!」
そして、丁寧に、少しだけ緊張の解けたジョナサンのそこを手で扱き始めた。
「あっ…はあ、はあっ……」
すぐに、堅さが回復していった。自分でするのとは違う感覚だったが、それよりもずっと気持ちがよかった。レナードはジョナサンが、痛みを感じる一歩手前の快感になる強さで握りしめて、激しく動かし、時々敏感な先端をつつくようにした。絶妙な刺激だった。それでも、一度達したものは、再びそうなるには時間がかかりそうだった。
「もう…後ろに、していいか……?」
レナードが耳元で、低い声でそう囁いた。ジョナサンはその声と、意味していることに、かっと身体が熱くなった。
レナードは手を離した。そして、ジョナサンをうつ伏せにし、腰を少し持ち上げた。このまま挿れられるのか、と思ったジョナサンが、痛みを予感して身体を堅くすると、そこに濡れた、熱くて柔らかいものが当たった。
「ああっ!うあっ!」
ジョナサンは腰を思わず引いた。舌でそんなところを愛撫されるなんて、予想外だった。
「嫌なのか?」
「嫌だ…恥ずかしい」
「元々乾いているところだから、濡らしておかないと傷つく…恥ずかしいのは、我慢しろ」
レナードは恥ずかしそうに逃れようとするジョナサンの脚を、軽く押さえつけて丁寧にそこを舐めて愛撫し、軽く指先で開かせながら、中に舌を差し入れてきた。ジョナサンは身体を捩(よじ)りながら、喉の奥から喘ぐような掠れた声をあげていた。
自分の上げる声も、彼が立てる音を聞くことも堪えがたく、頭を枕に埋めていた。そうすると、なおさら彼から与えられる感覚が直接的に伝わってきて、気持ちよさと羞恥心がない交ぜになって、叫びたいのを必死でかみ殺した。枕にしがみつくようにして、耳を真っ赤に染めて身体を震わせているその姿は、あまりに官能的すぎた。
レナードが唇を離すと、ジョナサンのそこは濡らされたせいで、外気に触れて冷たく感じた。しかし、すぐさま熱くて堅い物があてがわれた。そして…
「あああっ!痛…いっ!」
先端の部分が入ったところで、ジョナサンが思わず悲鳴をあげた。レナードはすぐに身体を離した。
「すまない…焦って…」
「大丈夫だ、…続けていいから……」
「いや、痛かったのなら無理にしない…やめるか?」
ジョナサンはレナードの方を向いて、首を振った。こんなに自分をやさしく気遣ってくれる彼を、このまま拒否するなんてできるはずがなかった。確かに入ってきた時に裂かれるような激痛はあったが、それでも構わないと思った。
「きつかったな…もっと奥も、ちゃんとほぐさないとダメだな」
「えっ…」
レナードは立ちあがって、荷物の中から、薬を出してきた。前に、鞭打たれて、傷つけられて眠っていた彼に、塗ろうとしたものだ。
本当はもっと、専用の潤滑剤を使った方がいいのだろうが…彼の申し出は、予想外だったから、そういったものは用意していない。とりあえず、これくらいしか代用できそうなものはなかった。刺激が少ないものだから、粘膜に塗っても痛くないはずだ。
何をされるのかよく分からず、少し不安げな表情のジョナサンを仰向けにして、脚を折り曲げさせ、クリーム状の薬を、骨張った五指にたっぷりとって、いちばん細い小指をぐっ、と内部に挿れた。
「ああっ!…んっ…ううっ!」
「滲みるのか?」
「痛くないけど……変だ………」
「こうしたら、滑るようになって、入りやすくなるから…」
「はっ…ああ!」
「熱い…な」
ジョナサンの表情を伺い、痛がっていないのを確認しながら、レナードは指を動かした。
男同士で身体を繋いで、ひとつになるとしたら、ここを使うしかない。しかし、そこは濡れない薄い粘膜の襞が、堅く閉じている箇所で、本来受け入れるのには適していない。しかも、初めて同然の相手ならば、入れられる、という事には慣れていないから、怖がってなおさら堅く閉じ、もっと痛い思いをさせてしまう。
だから、挿入する側が、相手を傷つけないため、ちゃんと慣らしてやり、また濡らして滑るようにするといった処置を、丁寧を行わなければいけない…たとえ、受け入れる側がひどく恥ずかしがったとしても。
実際、ジョナサンは恥ずかしそうな表情を浮かべ、逃げるように、ずり上がろうと脚を動かしたが、レナードは腰を掴んで、指で身体の内部を押し開かせた。
ジョナサンの内部は強張って、きつく締まっていたが、抜き差しするように、そして回すように動かしながら、深く潜り込ませていくと、それが解(ほど)けていくようだった。ジョナサンは恥ずかしさと、中で指が動かされる異物感と、微妙な快感とに、荒く息を弾ませていた。レナードの指が根元まで入ったところで、小指を抜いて、もう少し太い薬指で、と順番に指を替えて挿(い)れていき、人差し指を滑りこませ、その先がジョナサンの内部の壁に当たった時、彼は大きく叫んで身体を震わせた。ここが彼の性感帯らしかった。
「あっ…ああ!」
レナードは探り当てたその箇所を数回擦り、そして中指も挿れて、二本の指で拡げるように動かしたが、抵抗感が少なくなっていた。内部全体が潤ってきたようだ。
「はっ…ああっ!…くぅ…んっ」
ジョナサンの表情が、切なそうになって来た。唇が震えて、頬が心なしか紅い。
「もう…だいぶ慣れたか?」
「……分からないけど…さっきよりは…」
「腕で、身体を支えるんだ。腰から下は力を入れないように…」
ジョナサンは四つんばいになって、そうするように心がけた。
「あ…っ」
レナードが自分の背後に来て、手を置かれて、ぐいと強い力で左右に開かれる気配を感じて、ジョナサンは不安そうに振り向いた。
この姿勢が一番し易いのはなんとなく分かっても、やっぱり心許なかった。
「大丈夫だ、無理にしたりしない…」
安心させるため、そう声をかけた。充分に慣らしたとはいえ、ジョナサンのそこはやはり狭そうで、彼が相当な痛みを感じるだろうと思われた。かといって、
このまま止めることは、いくら彼を気遣ってやりたいレナードとしても、無理なことだった。恥ずかしそうに、少し恐れながらも、身体を開いて自分を受け入れようとする彼を、レナードはたまらなく愛おしく感じた。
レナードは、自分のものをジョナサンのそこにもう一度あてがった。
「あふっ…!」
彼のものの先端が滑(なめ)らかに、自分の内部に入り込んできたのをジョナサンは感じた。しかし、そこから奥は、まだ強い抵抗感があった。さっき見た、レナードの逞しいものの、一番張った部分が入ろうとしているのだろうか…。あんなに色々気遣ってくれたのに、どうしても苦しい…。圧迫されて、痛い…。ジョナサンは苦痛に身体を震わせ、それでも歯を食いしばって耐えようとした。
「ここが、入ったら…楽になるから…息を吐くようにしろ」
彼が強張って、自分をきつく締めつけている様子を感じとったレナードは宥(なだ)めるように、ジョナサンにそう声をかけて、汗ばんだ背中を片手で撫でてやった。そして、腰を掴んでいた腕に力を入れた。
「はっ…!…っ…!!」
ジョナサンは出かかった悲鳴を飲み込んだ。声を上げたら、またレナードは止めてしまうだろう。きつく、シーツを握りしめて、痛みと大きく拡げられる感覚に耐えた。
レナードは滑りに乗りすぎないように、ゆっくりと深く、根元まで入ってきた。
レナードを受け入れている部分が、熱くて…心臓がそこに移動しているかのように、激しく脈打っているように感じた。彼と一つになっている…そのことをありありと感じて、ジョナサンの瞳には涙が溢れそうになっていた。
「…大丈夫か?」
「…ああ」
「お前と、ずっとこうしたかった…受け入れてくれて、本当に嬉しい」
「レナード…」
レナードはジョナサンの腰を抱きかかえるようにして、そっと動かした。
「ああっ!」
ジョナサンはより深くなった感覚に、低い声で喘いだ。レナードはその動きを繰り返し、突き入れられるたびに、ジョナサンは声を上げた。その強い衝撃に、耐えて支えていた腕が限界を訴え、ジョナサンはがくっとベッドに突っ伏してしまった。そのために、二人の身体は離れた。
「くぅ!…はあっ、はあっ……」
「ああ、すまなかった…」
「いや、僕こそ…」
ジョナサンは身体を起こした。レナードが、本当に申し訳なさそうな顔をして自分をのぞき込んでいた。
「…続けても、いいか?」
ジョナサンが頷くと、レナードは仰向けに寝かせたジョナサンの腰の下に枕を引き寄せて置き、そこが露わになる格好をさせて、両膝の裏を掴んで高く抱え上げた。
「レナード…?」
「顔をよく見せてほしい…」
そして、もう一度押し当てた。そうされた時のジョナサンは喉の奥から声にならない吐息を漏らし、きゅっと目を閉じて、怯えているような、悦んでいるような、非常に微妙な表情を見せて、レナードの心を煽りたてた。
「はああっ!」
一度入れられたそこは、先刻よりは楽に彼のものを受け入れた。奥まで彼の逞しいものが入ってくる感覚に、ジョナサンは苦しそうな声を上げたが、苦しいだけではなく、彼によって擦られている、先程指で教えられた箇所が疼いているように感じた。
「痛かったか?大丈夫なのか?」
「レナード……強く、してくれ…」
ジョナサンは目をあけて、彼の理想的な肢体を見上げながら、そう頼んだ。ジョナサンを気遣っていたため、あまり激しく抽挿しないようにしていたが、彼から望まれたのだったら──。
「いいのか?」
「いい…ああっ!」
レナードは仰向けにされたジョナサンの肋骨の辺りを両腕で掴んで、腰を小刻みに激しく動かした。ジョナサンは荒い息を吐いた。激しく擦られて痛みと共に強烈な快感が走り、頬や、身体全体が薄い紅色に染まっていた。レナードはその愛らしい表情を堪能しながら、深く、より深くと腰を突き動かした。
「はあっ…はああっ!ああーっ!」
ジョナサンは震えながらシーツを堅く握りしめて、身体をのけ反らせて、熱いものをまた放った。
それは、上体を倒し気味にしていたレナードの下腹部を汚した。
「あっ…すまない」
「いや、平気だ…そのまま、動くな」
レナードは腹部や手をタオルで拭い、指を綺麗にしてから、汗に濡れたジョナサンの髪を撫で、身体を抱き起こしてやった。
そして手をとった。
「約束だ…もしお前が戦場で、変わり果てた俺の姿を見つけたら…」
レナードは、ジョナサンの掌を自分の頬に当てさせた。
「お前のこの手で、俺を…殺してくれ…!」
悲痛な、願いだった。
ジョナサンは、返事の代わりに、自らレナードに唇を重ねた。少しだけ、レナードは驚いた表情をしたが、愛おしげに舌を吸い返した。
それから…。
レナードは少しだけ、強引にした。ジョナサンを押し倒して、片方の脚を胸につくほど折り曲げさせて、そこを露わにさせ、抱きしめながら深く貫いた。
「…ああっ!…ああっ!はあっ!」
ジョナサンはレナードの広い背中に、しがみついた。耳元で、彼の息づかいも荒くなっているのが聞こえた。
狭い部分に受け入れていることも、脚を大きく曲げている体勢も、苦しくはあった。しかし、それ以上にレナードと堅く抱き合い、彼と一つになって、身体を揺すられて突き上げられていることに、ジョナサンは彼と溶け合ってしまうようななんともいえない感覚を抱いた。それは、単に快感というよりももっと深い、精神的な幸福感と呼ぶのがふさわしいようだった。
 
「……耐えてきたが、もう限界みたいだな…このまま、いいか…?」
身体の動きを一端中断し、ジョナサンの耳元で囁いてきたレナードの声は掠れていた。
「レナード……!」
自ら脚をきつく絡めることで応えると、レナードはジョナサンの背を抱き寄せ、支点にしていた膝を、大きく揺らし始めた。
レナードの息づかいが、一段と激しくなり、切なそうな声が途切れ途切れに聞こえた。そして、深く、ジョナサンを突き上げた。ジョナサンは思わず息を詰めた。
「うぅ…はあっ!」
「ああっ…はあっ…はうっ……はふうっ!!」
ジョナサンは、自分の身体の奥底が、彼の熱いもので満たされる感覚に、理性が吹き飛んで、裏返った声で大きく叫んだ。レナードの背中にきつく抱きついたまま、ジョナサンは激しい快感に意識が遠のくように感じた。
 
衣擦れの音に気づいて、ジョナサンはゆっくりと目を開けた。
「気がついたか?」
レナードは、タンクトップを着ようとしていた。
「僕は、気を失ってたのか?」
「ほんのちょっと、な。痛くはないか?」
「…まだ、……入っているみたいだ」
ジョナサンは横たわったまま、恥ずかしそうにしながらも正直に答えた。レナードは困ったように笑った。
「俺は…あんなに何度も、激しくするつもりはなくて…ただ、抱きしめるだけでいいと思っていたんだがな……でも、お前を見たら、つい…」
「そんな、君は、優しく……してくれて……」
ジョナサンはもっと紅くなって、続きは言えずに視線を外した。
レナードはジョナサンを抱き起こし、背中を撫でた。が、手を引いて、
「…よそう。またお前を抱きたくなってしまって…出られなくなる」
「もう、行くのか?」
「朝の点呼の時に、ここにいてはまずい。もう夜が明ける」
レナードは、軍服をとるために立ちあがった。
「レナード、僕も見送る…」
すっかり消耗した身体を動かすのは少し辛かったが、それでもとジョナサンが立ちあがろうとベッドを降りた途端、その衝撃で熱いものが身体の奥から溢れて、大腿をとろりとつたって流れ落ちていく感覚を味わった。
「あっ…!」
それが何か、すぐに理解して、ジョナサンは顔が熱くなるのを感じた。
「どうした?」
立ちつくすジョナサンに、レナードは目を向けた。
ジョナサンが口には出せなくて、恥ずかしそうな表情を浮かべていると、レナードは何が起こったのか理解できたらしく、すぐにタオルを濡らして、きれいに拭きあげてやった。そして、もう一枚タオルを用意して、気怠そうなジョナサンが自分でやろうとするのを制して、軽く抱きしめながら、身体中を清めてやった。
ふと、医務室で彼の気持ちを知った事を思い出した。…自分は、いつでも守られる側だった。
「…レナード、君にはずっと世話になってばっかりだった…僕は、君に何もできなかった」
「いや…俺はお前に会えただけで、幸せだった」
彼の表情は、晴れ晴れとしていて、それは心から言っているようだった。しかし、すぐに真剣な表情になった。
「もし、お前が俺に何かしたいというなら…約束を、果たしてくれ」
「……!」
ジョナサンの目頭は熱くなった。顔を背けて、「…行こう」と促した。
 
人目につかないよう、非常口から出ると、空は薄く紫がかった青色で、明るくなる一歩手前だった。
「じゃあ、ここまでで…」
そういって、門の方に向かい、手を振ろうとしたレナードの背中に、ジョナサンはがしっと抱きついた。
「レナード!…帰って…帰ってきてくれ!…僕は、あの部屋で、待ってるから…!」
たとえ、それが万に一つもありえないことだとしても、ジョナサンはそう願わずにはいられなかった。涙を浮かべ、子供のように激しい感情を露わにした。
レナードは、向き直ってジョナサンを抱きしめて、額にキスした。そして、少し屈(かが)んで唇にキスしようとしたが、人の足音を聞いて、身体をそっと離した。
足音の主は、軍旗を掲げる当番達だった。
彼は、
「じゃあな」
と短く挨拶し、歩いていった。そして、少し立ち止まって、朝陽に照らされて掲げられる軍旗を見上げていたが、やがて裏門の方へ歩いていった。
ジョナサンは、レナードの背中が見えなくなるまで、ずっと、ずっと見送っていた。

 

     

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