智明が三毅を堕とそうと色々する話(5)

 4日目を迎えた。
 その日の智明は、朝食兼昼食となる食事をした後、真っ直ぐに「亜毅」のいる物置へと向かった。
 溝口に起こしてもらうついでに「亜毅」の仕度については頼んでおいたので、準備はもう整っているはずだった。

「おはよう、亜毅!」
 智明は良い笑顔と芝居がかった言葉と共に、物置の扉を開いた。
 薄暗い物置の中には「亜毅」がいる。
 執事の服をきちんと着て、髪の毛もそれらしく整えられて、そして……縄で括られている。
 左の手首が、左の足首に。
 右の手首が、右の足首に。
 それぞれ繋げられ、太い荒縄でぐるぐる巻きにされていた。
 辛うじて自力で座ってはいたが、少しバランスを崩せば倒れてしまいそうな様子である。
 智明はその整然とした縄目の並びに溝口の丁寧な仕事を感じ、思わず芝居を忘れて息を呑んだほどだった。
「……亜毅ちゃん。ご主人様に、お返事は?」
 しかしやるべきことがある。智明は改めて「亜毅」の顔を見る。
 こうしてもう一度見てみると「亜毅」はあまりにも「亜毅」である、と智明は思う。
 薄暗いからというのもあるだろうが、その場にいるとどうしても比較してしまう藤堂が今はいない、というのも大きい。
 智明はそんなことを思いながら「亜毅」の姿をしげしげと眺めていたが、やはり返事は何も無かった。
 今日は、口を塞ぐような物は付けていないにも関わらず、だ。
 智明は苛つきながらも、一歩一歩「亜毅」へと近付いていく。
 これほどギチギチに縛られているのだから、身の危険は感じなかった。
 目の前まで来ると、智明は「亜毅」と目線を合わせるようにしゃがみ込んでみた。
「何か言えよ」
 静まり返って環境音さえほとんど何もしない物置の中で、聞こえるのは「亜毅」の呼吸の音くらいだった。
 荒い息遣いというほどではないが、やや間隔が短く、緊張状態にあることが伺える。
 智明は、目も見てやろうと首を傾けて覗き込んでみたが、「亜毅」は徹底して智明から目を背けている。
「……」
 小さく舌打ちをした。
 見ているだけなのも面白くないので、智明は「亜毅」に向かって両手を伸ばして、髪の毛を触ってみることにした。
 確かに覚えのある、硬い手触り。やはりこいつは「亜毅」だ、と確信を深める。
 ただ、顔には疲れの色が出ているな、と思った。こんな居心地の悪いところで寝起きして、食事もろくに食べないのだから当然だろう。いつもより少し老けて見えるのも、きっとそのせいだと思うことにした。
「なぁ、亜毅……」
 そうやって呼びかける毎に、その思いが強まっていく。
 これは「亜毅」だ。
 藤堂から分かれた、もう一人の「亜毅」。
 そんな風に考えてみると、智明の中で自分でも思いもしなかった感情が湧き出てきた。
「亜毅…可愛いなあ、お前」
 そう、可愛いのだ。「亜毅」なのだから、そう思うのは当たり前のことだった。
 智明は髪を触っていた手を滑り落として、頬の辺りを撫で始める。壊れ物に触れるかのような、優しい愛撫だった。
「どうして、俺のこと忘れちゃったんだよ……俺は今でもこんなに、亜毅のこと愛してるのに……」
「亜毅」の肌に、鳥肌が立ったのがわかった。
 それだけではなく、表情も嫌悪感が剥きだしになっていた。
 智明はそれでも構わなかった。
「どうしたら、俺のこと思い出してくれるんだよ? 一昨日だって俺達の思い出あんなに説明したのに、全然わかってくれなかったよなぁ……」
「……」
「俺は全部、昨日のことみたいに覚えてるぞ? 亜毅、全部忘れちゃったのか?」
 頬の手をぎゅうぎゅうと食い込ませる。
「お前……」
 息だけを使って言ったような、か細い声だったが「亜毅」がこの日初めて口を開いた。
「え?」
「お前……頭、おかしいんじゃ、ねぇの……?」
 掠れ声のたった一言だが、智明を逆上させるのには十分すぎる言葉だった。
「はぁ? おかしいのは亜毅の方だろ。俺のこと忘れてるし、挨拶してやってるのに返事もしないし、それどころかご主人様である俺をお前呼ばわりか? ふざけるのもいい加減にしろよ! こうなったらもう仕方ねえな、俺もこんなことしたいわけじゃねーんだけど? 言葉で言ってやっても思い出せないってんなら、体の記憶を呼び起こすしかないよな!」
 智明は「亜毅」の顔から手を離すと同時に、肩を軽く突き飛ばした。たったそれだけで「亜毅」の体はあっさりと仰向けに倒れていく。
「ぐっ!」
 背中と後頭部を床に打ちつけて、「亜毅」は短く呻く。
 智明はその隙に、「亜毅」のベルトを外してスラックスとパンツを縄の結び目のところまでずり上げた。
 と言っても縄が引っかかるのでほとんど脱げない。尻だけが露出しているような姿になる。
 智明は、先程食堂で借りてきたオイルを少量、自分の手に出すと、その露出している「亜毅」の肛門辺りに塗りたくる。
 何だか、これまでに触ったのと少し感触が違うような気がした。
 引き締まっていると表現するのがいいのかもしれないが、きっと食事をとらないせいだと思った。
「亜毅ぃ、お前、ちゃんとメシ食ってないから痩せたんじゃねえの? だから食えって言ってんのに」
 等と言いつつ硬めの尻の肉をつねった。
「うっ……」
 さすがに、これから何をされるのかはもう理解しているのだろう。「亜毅」は逃れようと身を捩った。
 しかしほんの数センチ後ずされたところで、何の意味も無い。
 智明はまだ油の残る手で、縄目の部分を掴んで「亜毅」を押さえ付ける。
 ぎっちり並んだ縄目が気持ち良くて、思わず撫で上げた。
「さて……ほら、亜毅、お前の大好きなご主人様のチンポだぞ? よーく味わえよ、なっ!!」
 有無を言わさず、智明は自身のペニスをパンツから取り出すと「亜毅」の中に捻じ込んだ。
「ひぐっ……いっ、ぐあああああああ!!!」
「亜毅」の悲痛な叫び声が耳をつんざいたのと同時に、未だかつて体験したことのない刺激が智明の陰茎を襲った。
「うっ……あぁっ!? 何、何だ…コレ……!? 俺、こんなの、知ら、ない……!」
 その肉筒は、智明を拒絶し、必死で外へと押し出そうとしていた。
 智明を決して受け入れまいとする、反発しようとする強い圧迫感。それが逆に智明にとってはかつてない快感となった。
 拒否されているのに、敢えて捻じ伏せて強行突破することの愉悦は何事にも替え難いものだとわかった。
 智明は冷たい床に手をついた。腰を動かすのが、止まらなくなる。
「うあ、ああああ!! ぎゃああああ!! 痛っ…! や、やめっ、やめろおおお!!」
「やめるわけ、ねーだろ、バーカ! こんな気持ちいいのに、やめるはず……ッ! っあ、あぁ、すげッ…!!」
 悦楽となる要素はそれだけではなかった。
「亜毅」としか思えない相手から発せられる、この家の執事にはあり得ない罵倒。
 罵倒しながらも、結局は服従せざるをえなくなっているというこの状況。どちらも智明の支配欲をこの上なく満足させるものだった。
「あぁ、ひぎぃッ! う、ぐあああ!! やめ…ッ、抜け、抜けよ、抜けっつってんだよおおお!!!」
「はぁ? やめてほしいなら、もっとそれらしい言葉、使えよなっ! 亜毅!!」
「んぎいいいっ!! はぁ、ああ、嫌…だ……ッ! いいから…早くっ、抜け、よおぉぉ!! ぎゃぁあああ!!」
 どちらにしても、智明は最後までやめるつもりなど全くなかったので「亜毅」の態度は関係がなかった。
 深くまで、奥の奥まで、抉るようにペニスを突き刺す。
「オラァ亜毅!! 早く抜いてほしいなら、もっと頑張って、ご奉仕しろ、よッ! 心が忘れてても、体は覚えてるはずだろうがぁ!」
「ヒッ…! 知ら、ねぇ…! そんなこと、知らねぇよ……ッ! ん、ぎぁあああ!!」
「亜毅」は歯をギリギリと鳴らして痛みに耐えている。
「あっ、でも、もう、出そ……ッ! イク…ッ! たっぷり飲み込め! 俺の味思い出せよ! 亜毅いいいいいい!!!」
 一際強く腰を打ちつけると、智明の根元からは熱い物が這い登ってきた。
 強すぎる圧力の中で、それは搾り上げられるように放出されていく。
「うあぁああっ!! まだ、まだ出てる…! 亜毅! 亜毅いいいいッ!!」
 智明が大声で「亜毅」の名前を叫ぶ。そうすることで更に気持ち良くなる。
 そうして精を絞り出し切ると、智明の心は激しい充足感で満たされた。
 長い息をついて上体を起こすと、「亜毅」の中からペニスを抜いた。
 白い精液がべっとりとついている上に中からも零れだしていて、こんなに出ていたんだなぁと他人事のように智明は思っていた。
 その時。

「ご主人様っ!」
 切迫したような声を上げてドアを思いきり開けて物置に入ってきたのは、藤堂であった。
 だが、開けた瞬間その勢いは急激に収まり、静止した。
「……藤堂? どうしたんだ」
「あっ、あの、そのっ、も…申し訳ありません!」
 藤堂は半ばパニックになっているようで、舌が上手く回っていなかった。
「何で急に開けたんだ?」
 真っ赤になってうろたえている藤堂に対して、智明はと言えば、藤堂の顔を見たことによって一瞬で魔法が解けたような気持ちになっていた。
 目の前で仰向けに倒れて縛られているこいつは、亜毅じゃない。三毅だ。
 すっと心が冷えていく。
「あ、あの、自分、自分がっ、呼ばれたのかと、思ってしまって……開けてから、違うって気付いて……っ! 本当に、すみませんでした!」
「別にいいよ。もう終わったところだったし」
 智明は事もなげにブツを仕舞いながら立ち上がった。それと同時に、三毅の姿を一瞥する。
「……ん?」
 なんと、ズボンの陰になって見えにくくはあったが、ついさっきまで智明への拒絶を如実に表すかのように萎縮していたはずの三毅のペニスが完全に屹立していた。
「……ははっ」
 智明は、また笑い転げたくなるのを何とか堪えた。
 まだもう少し、芝居を続ける必要がある。そう思って、三毅に一言だけ声をかけることにした。
「可愛かったぞ、亜毅ちゃん」
 茫然と立ち尽くしている藤堂の横をすり抜けて、智明は物置から出た。

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