智明が三毅を堕とそうと色々する話(4)

 三毅が来てから3日目の神代邸。
 次は三毅に、何をしてやろうか。
 今一つ考えがまとまらず、ダラダラしているうちに夕方近くになってしまった。
 時間は限られているのだから、そろそろ何かしないと…そう思いながら、溝口に相談してみようかと智明は部屋を出た。すると、そこにちょうど藤堂が歩いていた。
「あっ、ご主人様!」
「ん? 藤堂……お前、何か昨日と違わないか?」
 ぱっと見て、何か雰囲気が違うと思った。
「あ……髪の毛、っすかね? この前、言ってあったと思うっすけど。自分、今朝床屋さんに行って切ってきたっす」
 藤堂は照れ笑いをしながら自分の髪を触った。
 言われてみれば、この日に髪を切りにいく、と言われて許可した覚えがあった。ここ数日で色々あったのですっかり失念していたのだ。
「あぁ! そういえばそんなこと言ってたな。うん、さっぱりしていいんじゃないか」
「うっす! ありがとうございます!」
 今現在散々わけのわからないことをしている最中なのに、平気で床屋に行ける藤堂もなかなか神経が太いと智明は思った。予約を入れていたみたいだからキャンセルするわけにもいかなかったのだろうが。
「……待てよ。髪型…髪型、か……」
 藤堂の整髪料で立てられた髪の毛を見て、一つのことをひらめいた。
「藤堂。お前、その髪の毛セットするのに、何使ってるんだ?」
「え? えぇっと、普通のワックスですけど…それがどうかしたっすか?」
「いつも使ってる物、全部持って物置に来い! あと、鏡。それと、お前の執事服の替えも一式持って来い。いいな!」
「う、うっす!」
 下らない思いつきではあるが、やりようによっては面白いことになりそうだ、と智明は思った。

 物置で寝起きしている三毅への拘束は、だんだんと控えめな物になってきている。
 今は、物置の柱に手首だけ繋いであった。もう猿轡もしていない。大人しいものだった。
「よう」
「……」
 三毅はやはり無言であった。
「この俺が挨拶してやってんのに、相変わらず無愛想だなぁ。まぁ、いいや。藤堂! 服は持ってきてるな。それ、こいつに着せろ」
「うっす」
「なん…だよ……俺に亜毅みてぇに執事になれってか……? 冗談じゃねぇよ……」
「うーん。ちょっと違うんだけどな。いいから黙って着ろよ」
 三毅はやや抵抗を見せたが、藤堂は何とか三毅に執事の服を着せることが出来た。そして三毅はまた柱に繋がれる。
「ご主人様、出来たっす」
「よしよし。お次は、髪のセットだ。藤堂、お前とそっくり同じ髪型にしてほしい」
「えっ!?」
「他人にやるのは少し難しいかもしれないけど、出来ないこともないだろ。鏡も使っていいからさ」
 藤堂は、やれるかどうか、ということよりどうしてそんなことをするのかわからないのだろう。智明にもそれはわかっていたが、敢えてその説明はしなかった。
「……やってみるっす」
「おう。頑張れ」
 藤堂は、ワックスを手のひらに出した。

「ご主人様、こんな感じで…どう、っすかね……?」
 人が人の髪の毛をいじるところを見ていても面白くないので、智明はぼうっとしていたが、藤堂に声をかけられて我に返る。
「おっ、出来たか。どれどれ」
 改めて向き直って見てみる。
 そこには、藤堂亜毅にそっくりな男がいた。
 門の前で初めてまともに顔を見た時、私服の藤堂かと見間違えたくらいなのだ。顔は本当に似ている。よく見ると少し老けているかなあ、と思う程度だ。
 それを、同じ服を着せて同じ髪型にしたのだ。双子のようにうり二つになった。
「上出来じゃん」
「あ、ありがとうございます……」
 藤堂は意図がわかっていないので、不思議そうな顔のまま感謝の言葉を述べた。
 それでも藤堂の中には「ご主人様の命令=真実」という図式があるのでまだいいが、それのない三毅にとっては頭のおかしい智明による意味不明な行動としか思えないのだった。
「おい、これは一体、何の遊びなんだよ……」
 智明は、しゃべるとやはり似なくなるなと思った。
 声も違うのだが、しゃべり方というか顔の筋肉の使い方が違う感じがする。
「やっぱり猿轡つけとくか。そこに置いてあったよな? 今日はボールギャグにするかな。藤堂、出してつけてやって」
「う、うっす!」
「ぅあ、おい、や、め……っ!」
 ギャグはあっけなくはめられた。
「んんーっ!! んーっ!!」
「うん、やっぱりこの方がいいな。似る」
 智明は満足げにうなずくと、藤堂三毅に向かって告げた。
「なあ、昨日はボクサーやめろって言ったけどさ…今日これから、この家では"藤堂三毅"をやめてもらおうと思うんだ」
「!?」
 急な申し出に、三毅は目を大きく瞬かせた。
「お前、そうしてると藤堂とそっくりじゃん。でも藤堂だと、お前も藤堂だから変わらないし…そうだなぁ…今から、お前は"亜毅ちゃん"だ。いいな」
 わけがわからないと言ったように、「亜毅ちゃん」は目に怒りの炎を灯して何やらわめき出したが、智明は無視した。
「あ、あの、ご主人様、これはどういう……」
「藤堂も。今からこいつのことは三毅だと思うな。いいな? みんなにも説明するから、ここに全員集めろ」

 物置に執事達を集めると、おのおのが不思議そうな、驚いたような反応をして、縛られている「亜毅」と、智明の隣に立つ「藤堂」を交互に見ていた。
「お前ら、よく聞け。ここに立ってるのが、お前らが前からよく知ってる藤堂だよな。で、こっちに縛られてるのが"亜毅"だ。今からこいつのことは"亜毅"って呼べ。いいな?」
 そう言うと、五人共がきょとんとした。
「……どういうことです? 頭こんがらがってまうわー」
 全員の気持ちを代弁するように、小峰が言う。
「どうせ全員、藤堂のことはもともと苗字で呼んでたんだから混乱することないだろ。俺がそうしたいからそうするんだよ。他に理由がいるか?」
 このように言ってしまえば、誰も口を挟むことは出来なくなる。
「かしこまりました。そのように致します」
「はいっ。藤堂さんと、亜毅さん。ですねっ」
「こっちが、藤堂……。あっちが、亜毅……。いちのせ、覚えました……」
「……わかりました。藤堂と、亜毅、やな」
「仰せのままに、坊ちゃま」
「よしよし。じゃあ、解散」
 五人の執事達は、それぞれの持ち場へ戻っていく。
「藤堂も、今日は戻っていいぞ」
「……うっす」
 藤堂のことも、先に物置から出させた。
 残されたのは、智明と「亜毅」の二人となる。
 すっかり虚ろな表情になっている「亜毅」に向かって、智明が言う。
「遊ぶのはまた明日な。"亜毅ちゃん"?」
 この相手には未だかつて発したことのなかったような甘い声で言ってみたが、「亜毅」はそっぽを向いてしまった。


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