ANOTHER SIDE


『おい、いつまで待たせんだよ?』
三倉とマック入ってからかれこれ1時間ぐれえたつ。
俺は携帯をいじる三倉のあい向かいでハンバーガーをひたすら食っていた。
すでにチーズバーガー4つめ、ポテトは2つめだ。
『まあまあ、奢って貰ってやってるんだから文句言うなよ』
確かに全部金は三倉持ちなわけで…俺にあんま文句言う筋合いなんてないかもしれねえけどよ。
俺はなんかスカッとすることがやりたくてお前を呼んだんだ…だれもハンバーガー食うためにわざわざ誘ったわけじゃねえ。
『にしてもちょっと時間かかりすぎなんじゃねーのか? 人集めんのになんで1時間もかかるよ?』
どっか別の町から呼ぶわけじゃあるめーし。お前のガッコからだったらそんな時間かかんねーだろ?
『そう言うなや。だいたい今3時半ちょっとすぎたとこだぜ。どこの学校もまだ終わってねーっつーの。
俺やお前と違っていっつもサボってるわけじゃねーんだぜ』
『はっ、よく言うぜ。学校行っても勉強なんてやってねーくせに。どうせ適当に遊んでんだろ?』
こいつらが真面目に机に座って勉強してるとこなんて想像できねーよ。だいたい学校なんてほとんど行ってねー連中ばっかだろうに。
『まあな…でも、お前も東南なんか行ってるケドよ、やってることは同じだろ?』
『違げーよ。俺は最近は真面目にやってるっての』
そう、最近はけっこう真面目にやってる。一応授業はきちんと受けてるし、成績もそんなに悪い方じゃない。
素行つうか態度とかでも以前ほど五月蠅く言われなくなったと思う。
確かにちっと前の俺なら授業には出ねえ、態度は悪いし教師にはくってかかる、とか平気でやってただろう。
でも、いつからかそんな事をしないようになった。そう…
『(あいつのおかげか…)』
正直言って俺は自分でもそんな馬鹿なことやってるって実感はなかった。
授業はめんどかったし、教師共はくだらねえことで五月蠅く言うからちょっと頭にきただけだ。
それが俺のせいだとか、俺が悪いとか思ったことはなかった。
ただ…その事であいつが俺の代わりに謝ってるのを見てから少し考え方が変わった。
別に俺の否を認めたとかそういうわけじゃねえ。
ただ俺のせいであいつが苦労するのはちっとばっかし気の毒かな、と思っただけだ。
義理の兄弟とはいえ、言ってみれば赤の他人の為にあそこまで頭を下げて平謝りするあいつを見て、少し格好いい奴だな、と思っただけだ。
それもあって…俺は女になってからあいつのことを…
…っといけね。そのこと忘れる為にこうして遊びに出てきたのに俺が思い出してどうする!
あいつはもう俺に振り向いたりはしないんだ…振り向いたりは…
『う……』
…って何また泣きそうになってんだよ馬鹿! 忘れろ! 今はそのことは忘れろよ!
『おい、どうした』
気がつくと三倉が俺の方をじっと見てた。っつ! いけね、いけね…
『べ、別になんでもねーよ』
『そうか…』
こんな奴に涙見せるなんてとんでもねえ。一応ダチってことなってるがあんま信用できねえ奴だからな。そもそも信用なんてしてねえが。
『あ、そうそう、後20分ほどで人数集まるって返事来たからそろそろ行くか』
『行くって、どこへだよ?』
『最近俺らがたまり場にしてる場所があんだよ。そこでいっぺん合流してから遊びに行くって手はずだ』
たまり場ね〜。どうせろくな場所じゃねえだろうな。
つうか何処か知らねえが俺らみたいなのにたまり場にされたら迷惑だろうに…
ま、んなこと俺には関係ねえが。
つうか…
『そんな別に大人数集める必要ねーだろ。5人ほどいりゃ俺はいいんだよ』
いったい何人集めてるのか詳しくは知らねえけどよ。どうもえれえ大量にメール送ってるみたいだからちっと気になった。
『ざっと10人ほどは呼んでるけどよ。なんせお前女になってんじゃん。しかもすげえ可愛いし。
そうメールしたら何人も来たいって奴が増えてよ。ま、勘弁してくれよ』
10人もかよ。俺あんま多いの好きじゃねえんだよな。それに…
『つうか俺が女になってるって言ったのかよ…』
『いいじゃねえか。どうせ会ったらすぐバレることだしよ』
まあ、そりゃそうなんだが…
『だから、きっちりお持てなししないとな…』
何故かにやける三倉。は? なんだこいつ? 何が可笑しいんだ?
『お持てなしとかいうほどのもんじゃねえだろ』
『はは。そりゃそうか』
訳分からんこと言う奴だな。元々アホな奴だとは思っていたが…
『それよりも行くか』
そう言って席を立つ三倉。
『あ……んぐ…おう』
俺も残ったポテトを全部口の中につっこんで、後に続く。

『ここだ』
案内されたのは町中から離れた裏路地にある一件のつぶれたバーらしきところだった。
コンクリートの地面より下に階段が続いており、一般の人間から見たらあんま雰囲気のいいところとは言えねえ。
ま、俺らみたいなのがたまるには丁度いい場所かもしれねえが…
『さっきメールしたらもう人数揃ってるみたいだからよ。先入れよ』
『…おう』
三倉に言われ俺は先行して階段を降りる。なんだが煙草くせえ。
最近つうか女になってから吸ってなかったから匂いに敏感になってんのかな。

中は外見通りの場所だった。
そこら辺に割れた酒瓶やらビール缶やら煙草の吸い殻が転がっている。お世辞にも綺麗な場所ではない。
ライトも何カ所かはついており、真っ暗ってことはねえが、あんま明るいこともねえ、辛うじて人の顔が見える程度だ。
『お、来たか…』
店の奥に何人かの男が集まっている。カウンターの所には男が1人腰掛けておりそれを取り囲むようなかたちだ。
カウンターに座っている男はスキンヘッドで右頬には大きな傷がある。
目の所はサングラスで隠れててよく分からねえが、どうみても凶悪極まりねえツラしてやがる。
…つうか学生じゃねえだろ。やべえ雰囲気が漂よってやがる。
『ほう…すげえ上玉じゃねえか』
そいつは俺のことを値踏みするみたいにジロジロ見てきやがる。なんだコイツ?
『アンタ…誰だ?』
『オイ! 堀田さんになんて口の利き方しやがる!』
堀江…と呼ばれた男の取り巻きっぽいチンピラが俺に向かって怒鳴ってきやがった。
ホントにどういうこったこれは…
『この人はな。本物のヤクザなんだぜ。俺らとは格の違うお人なんだよ』
ヤクザか…どうりでな。雰囲気からしてただのチンピラじゃねえとは思っていたが…
『で、なんでそのヤクザ様がこんなとこにいんだよ?』
『今は堀田さんが俺らの面倒見てくれてんだよ。おかげで俺らもいろいろと遊べて楽しいぜ』
堀田の取り巻きの男の1人が答える。なるほどねえ。ここらの不良はヤクザの手下か…
ちっと見ねえ間にずいぶん変わっちまったもんだ。
『へ〜、ヤーさんがチンピラ囲ってお山の大将かよ? ずいぶんなこったな』
『んだとコラー!』
『まあ、落ち着け。ふ〜んなるほどねえ。可愛いだけじゃなくてなかなか気も強えーじゃねえか。俺好みだな』
取り巻きを制して俺をジロっと見つめる。その顔はニヤついてやがる。
『おい、三倉…どういうこったよ?』
俺の後ろにいる三倉に問いかける。こんなの聞いてねえぞ。
人数集めて遊びにいくんじゃなかったのかよ…?
『へへ、悪りな。堀田さんにいい女連れてこいって言われててよ。なかなかいいのが見つかんなくて焦ってたらちょうどお前が出てきてよ。
ベストタイミングってやつだったぜ。いや、ホント助かったぜ翔…いや、自称上村翔ちゃんよ!』
なん、だと…!
『…てめえっ!!』
『はは、そんな可愛い顔で睨まれても全然怖くないっての。
だいたい、何が朝起きたら女になってた、だよ。んな冗談今時小学生でも信じないっつーの!
お前がいったいどこの誰で何で翔の名前語ってんのかとか、まあ、この際どうでもいい。
いや、むしろ翔本人だったって方が俺はいいがな。翔の奴最近何度誘ってもつれねえし、いいかげん頭きてたんだよ』
この野郎…!あまりいい奴だとは思ってなかったがここまでのクソ野郎だったとは…
『…俺をどうするつもりだよ…?』
沸騰しそうなほど怒りに満ちた頭を落ち着かせ訊く。だいたい想像つくがな。
こんな所に俺を連れ込んだ時点で…
『んなの決まってんだろうが! ネンネじゃあるまいしよ!』
堀田の取り巻きの男が怒鳴り、続いて何人かが俺の周りを囲み始める。
…ちィ! やっぱりかよ…
『俺が満足いくまで犯ったら後はお前らにまわしてやる。写真とんの忘れんじゃねーぞ』
相手は12人。前に6人、後ろに4人か…
堀田ともう1人のヤクザっぽいのは余裕ぶっこいてるのかカウンターのところで見ているままだ。
ちっとやべーか…女になってだいぶ力落ちてるからな…ま、そんなこと言ってられねえが。
『…へへへ』
笑いながら徐々に距離を詰めてくるクズ共。
『はっ、女1人相手に大の男が寄ってたかってよお。チキン共が…っ! そんなに俺が恐えのかよ?』
『なんだと!』
『このクソアマぁ!』
『止めろ! 挑発だ、相手にすんじゃねえ!』
勢いだった男共を堀田が制す。…っち、やっぱり駄目か…
と、なるとこいつはもう正攻法でいくしかねえな。
『出口は…』
後ろの階段を確認する。約10メートルほどか…
幸いにも背後の守りは手薄だ。今の俺でも3人程度だったら楽勝でブチのめせる自信はある。
つっても相手もそこそこ場慣れしている連中ばっかりだ。そううまくいくかどうか…
ま、うまくいかなかったら俺がこのゲス共に犯られるだけだ…そればっかりは勘弁願うぜ。
あいつにならともかく…こんな野郎共に体預けるなんざ死んでも御免だからな。
ま、グチグチ考えてもしゃあねえ。ここはいっちょ、やるか!
『うおおおおおおおおおっ!!!』
俺の背後の三倉の右足にローキックをくらわせる。
『がっ!?』
一瞬、足を押さえて屈み込んだ三倉の顔面がちょうど俺の拳の前にきたので、鼻めがけて拳を叩き込む
『おらぁ!』
“ゴス!”
鼻血を出しながら倒れ込む三倉。
『つぅ…』
思いっきり殴ったせいで拳が少し痛むがそんなこと気にしてられない。
そのまま出口の階段まで走る。
『逃がすか!』
俺の前に男が出てきて視界をふさぐ。やっぱり簡単には逃がしちゃくれねえか。
『どきやがれ!』
勢いをつけて相手の脇腹に蹴りをいれる。
『くたばれ!』
相手が怯んだところで今度は顔面に思いっきり足をめり込ます。
“グシャ”
よし!視界が開けた。あともう少しで階段に…
“バチィィ!”
『……あうっ!?』
な、なんだ…いきなり…背中に…衝撃…が
背中に激しい衝撃をうけ思わず倒れる。なんだ…体が動かない…?
目線を上げると1人の男が俺を見下してニヤニヤしている。あの手に持っているのは…スタンガンかよ、クソ!
『…ったく手間かけさせんじゃねえよ!』
『おい、この女気絶しちまったんじゃねーのか?』
『心配すんな。電圧は抑えてある。気絶しちまったら面白くねーからな』
倒れた俺の周りにワラワラと男共が集まってくる。ちくしょう…っ!
『このクソ女! 痛え! 痛えじゃねえかクソ! ブッ殺す! ブッ殺してやるクソがぁ!』
立ち上がり、鼻血がドクドク流れるのを手で抑えながら、血走った目で俺の方を睨みつける三倉。さっき倒した男もまた起きあがる。
『ははは、おいおい、なんだよ三倉そのツラは。ひひ、真っ赤じゃねーか』
『うっせー!! いいからその女俺に寄越せ! 口もマンコもケツも犯りまくってからブッ殺してやる!』
『待てよ三倉! まずは堀田さんだっつーの』
気がつくと堀田の野郎が俺のすぐそばまで来ていた。
『まあまあ勘弁してやれ三倉』
『でも堀田さん…この女…』
『俺が犯ったらまずはお前にまわしてやんからよ。そん時は好きにしろや』
『は、はい! ありがとうございます!』
『さて…じゃあ翔ちゃんだったけな。準備はいいかな〜?』
笑いを含んだ口調で倒れている俺の目の前まで顔を近づける堀田。
『いいわけねーだろクズ!』
かろうじて動く口で暴言を浴びせる。汚ねえツラ近づけんじゃねーよこのクズ野郎!
クソ! 体さえ動けばこんな野郎…
『ははは、ホント気の強えー女だな。ま、心配すんな。ちゃんとお前も気持ちよくしてやるよ。
ここにいる全員が終わる頃にはお前もチンポ無しじゃ生きられねーエロ女になってるぐらいにな。ひゃははははははははは!』
下卑た声で笑う堀田。つられて周りの連中も一緒に笑い出す。
『触れんじゃねえ! ちょっとでも触れたらお前ら全員ブッ殺してやる!!』
『出来るものなら…なあ?』
『クソ! クソが! このクズ野郎共…許せねえ絶対に許せねえ! お前ら全員ここから生きて帰さねえからな!』
ちくしょう…っ! ちくしょうちくしょうちくしょう!
まだだ!まだなんか方法はある。俺が助かる方法が…絶対、絶対にある!
こいつらをブッ飛ばして、全員ブッ殺して…全員…全員………
………おにい、ちゃん


『待てー!!!!』


ANOTHER SIDE OUT


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